米国・日本・EUの経済と金融市場の関係を知ることの重要性
ベテラン投資家のなかには数十年前に比べて、相場が簡単になったと言う人もいる。もちろん、今も昔も安定して相場で利益を得られる人は全体の一割程度という状況は変わっていない。だが、トレード時間や投資対象は拡大していて、選択肢という点で確かに相場は簡単になった面がある。
例えば、日経225先物のイブニング・セッションの時間が徐々に伸び、取引も活発になった。そのため、EUと米国マーケットの時間帯において、現物株のリスクヘッジとして活用しやすくなったといえる。
投資対象の選択肢も増えた。昔は投資といえば現物株がほとんどだったが、現在は初心者が最初からFX取引を始めるのもごく一般的だ。また、大手証券会社の商品CFDで口座を作れば、少額の資金で金や原油などを取引できるようになった。
一方で、投資対象が広がり日本市場以外の時間帯でも取引できるようになると、外国の経済の影響を受ける機会も増える。ニュースや日経新聞などで自国の情報だけチェックしていれば大丈夫というわけにはいかないだろう。
なかでも、金融市場に大きな影響を与える米国・EU・日本の経済と相場の関係を把握するための重要なポイントは、投資初心者でも知っておきたいところだ。
米国経済と金融市場の関係
日本経済に最も大きな影響を与えるのは米国経済だ。つまり、多くの日本の個人投資家が注目しなければならないのも米国の政治経済、そして金融市場の動向なのである。
米国の株式市場と日本の株式市場の不思議な関係
「アメリカがくしゃみすると日本は風邪を引く」という言葉がある。これは、例えば米国のダウ平均株価が下落すると、TOPIX(東証株価指数)がそれに連動して大幅に下落する様子を表現したものだ。
しかも、ダウ平均株価が大幅上昇してもTOPIXはさほど上がらないことが多い。特に2009年以降は、短期的な動きは米国と連動するものの、上昇と下落の反応度が違うため、ダウは堅調に上昇したのにTOPIXは下がってしまった。
こちらはここまでの傾向であり、この先の将来のことはわからない。しかし、日本の相場に大きな影響を与えるのが米国経済(米国の株式市場)であることは常に認識しておいたほうがいい。実際、米国の株式市場に対する日本の株式市場の反応について「上は鈍感・下は敏感」などと覚えておけば、TOPIXなどの動きがつかみやすくなるのだ。
つまり、米国の株式市場が堅調であるとき、上に鈍感な日本の株式市場は価格が時間をかけて少しずつ上がる「ジリ上げ」になる。そして、米国の株式市場が本格的な調整あるいは下落相場に入ると、下に敏感な日本の株式市場はドカンと下げることが多い。
こうした傾向を知っておけば、焦って高いところを売ってしまい「真綿で首を絞める」ようなジリ上げ相場を体験することも少なくなるだろう。
対中関係が心配
米国経済の顔色を見るかのような日本の株式市場の動きを紹介してきたが、逆にいえば、日本と米国は緊密な関係にあるともいえる。
外務省のホームページに公表されているデータによると、2018年時点において日本企業による対米投資は世界第3位(約4,844億米ドル)であり、約88万5千人の雇用を創出している。また、日米両国を合わせれば、世界の経済活動の3割のGDPを占めているのだ。安全保障を含めて米国と良好な関係を築くことは、今後も日本の最重要課題になるだろう。
米国経済に関して懸念が広がっているのが、「米中貿易戦争」の影響である。新型コロナウイルスの責任問題を巡る両国の対立により、さらなる米中貿易戦争につながると分析する意見も多い。
2020年現在、米中関係は大きな注目ポイントとなっているので、基本的な情報はフォローしておいたほうがいいだろう。効率的にポイントをつかみたい場合は、良質なメルマガを定期的に読むのもおすすめだ。
EU経済と金融市場の関係
日本時間の夕方からの円や225先物などの動きは、EUの金融市場の影響を大きく受けることがある。ただ、日本の金融市場とEUの金融市場の関係は、日本と米国のそれとは少し違う。
EUの金融市場と日本の金融市場の関係はストレートではない
世界の基軸通貨は米ドルである。そのため、各国の金融市場の動向も米国市場との関連度が高いことが多い。つまり、米国とEUの金融市場の関係の結果が、日本の金融市場に反映されることが多いのだ。
FXにおいては、米ドルが入った通貨ペアを「ストレート通貨」と呼ぶ。一方、ユーロ円など米ドルが入っていない通貨ペアは「クロス通貨」だ。なぜクロスなのかと言うと、ユーロと円が直接取引されているようでありながら、実際にはそれぞれの通貨に米ドルが絡んでいるからだ。
あまり抽象的すぎるとわかりにくいので、通貨ペアの事例でもう少し詳しく説明する。
例えばユーロ円の場合、基軸通貨が間に絡むため「ユーロ/円=ユーロ/ドル×ドル/円」という関係がある。したがって、ユーロドルが1.1000→1.0950、ドル円が110.00→109.50のように同方向に共にマイナス50pips動くと、
・1.1000×110.00=121.00 → 1.0950×109.50=119.90
となり、
・121.00-119.90=1.1(マイナス110pips)
と、マイナス50pipsの倍程度動くのだ。この性質を利用して大きな値幅を取ろうとするトレーダーもいる。もちろん、各国の経済状況を単純に通貨ペアに還元することはできないが、米国・日本・EUの経済と金融市場の関係を知るのに良いサンプルになるだろう。
反保護主義と英・EU離脱の影響
EU経済と日本経済の関係で注目されているのは、EUと日本のEPA(経済連携協定)の締結だ。
日本が米国と緊密な関係を築きたいのは確かだが、過剰なアメリカ・ファーストの政策に歩調を合わせるわけにはいかない。この保護主義的な動きと新興国の市場操作などから自由で公正な取引を守ることが、日本とEUが経済連携協定を結んだ目的のひとつなのだ。
EUにとっては過去最大の市場規模の二カ国協定であり、今後の経済活動と相場に与える影響が注目されている。ちなみにEPA施行によって、ワインやチョコレート、チーズなどが安くなっているので、知らないうちに恩恵を受けている人も多いのではないだろうか。
逆に懸念材料とされているのが、ブレグジット後の影響だ。2018年時点ではEU向けの日本の輸出総額は全体の9.4%であり、英国は1.9%と比較的少ない。だが、直接投資残高でみればEU向けの総額は全体の15%であり、そのうち英国は10%と割合が大きいのだ。
つまり、投資先として英国はとても重要な国なのである。まだまだ不透明な要素も多いことから、今後の動向が注目される。
米国・日本・EUの市場時間を知るだけで収益アップ!
専門家のアドバイスでもなければ、経済政策や政治動向などを分析して投資するのは難しい。そのため、個人投資家が株やFXなどをトレードする場合、チャート分析を取り入れるのが一般的だ。そこで重要になるのが、相場が動きやすく流動性が高まる時間帯を知っておくことである。
東京時間
東京証券取引所の現物株式の取引時間は、9時~11時半(前場)と12時半~15時までだ。日本株を対象に取引を行う際に最も重要なのは9時前後である。日経平均CFDは8時半から動いているので、この時間から9時半ごろまで特に動きが激しくなることも多い。日経平均CFDやドル/円などを取引する場合には注目しておこう。
なお、米中関係に動きがあった場合など、中国市場が注目されている場合は、10時半前後の時間帯も注意しよう。ただし、東京時間なので円絡み以外の通貨ペアは動きにくい。市場を開いた場所の通貨が動きやすいのは欧州・ニューヨーク市場でも同様だ。
欧州市場
夏時間は16時、冬時間は17時から英、仏、ドイツの株式市場が開き、欧州(ロンドン)市場が開始される。この時間帯に急激に価格が変動することで、東京時間の高値・安値に集まったストップオーダー(損切注文など)が一掃されることも多い。真偽のほどはわからないが、個人投資家のポジションを一部ヘッジファンドなどが刈り取って自分のポジションを作ってから本来の動きへ戻すことがあるといわれている。
そのため、イブニング・セッションをメインにトレードしたいなら、東京時間の後場で無理せずに欧州市場スタートを待ったほうがいい場合も多いのだ。いつも夕方に損切になってしまうという人は、欧州市場が開始した後、相場の方向を確認してから取引してはどうだろうか。
ニューヨーク市場
18~19時ぐらいになると、欧州市場も動きが落ち着いてくる。ここからニューヨーク市場開始時刻(夏時間は22時半、冬時間は23時半)の1時間前ぐらいまで動きが乏しくなる。したがって、トレンドが発生したと思っても本格的な動きにつながらない場合も多い。無駄な取引をしないためにも、ニューヨーク市場開始を待つのもひとつの方法なのだ。ニューヨーク市場開始でもストップオーダーの一掃がよく見られる。
経済状況から相場を予測するのは投資初心者には難しいが、マーケットが活気付く時間は日本・欧州・ニューヨークの各市場でオープンイングベルが鳴る時間の前後である。それ以外の中だるみの時間帯はノイズが多いかレンジになりやすく、収益が上がりにくい。相場の時間帯を考えてトレードをしてみてはどうだろうか。