FXのロスカットは間に合わないこともある?大きな損失を回避するには?
強制ロスカットとは、口座資金に対する含み損が一定割合以上に増えたときに、FX会社が強制決済する仕組みです。投資資金より大きな損失が出て、借金をしてしまうことなどがないように、個人投資家を守る役割があります。しかし、実はロスカットがあればどのようなときも安心というわけではありません。
この記事では、FXのロスカットの仕組みやロスカットが間に合わないケース、大きな損失を回避するための方法などを解説します。
今回のポイント!
- 強制ロスカットは証拠金維持率がFX会社の決めた基準を下回ると発動する
- 急激な価格変動、休日明けのギャップ、FX会社のシステム異常などでロスカットが執行されないことがある
- ロスカット回避のポイントはレバレッジ・損切りルール・資金管理・自動注文の活用
- ファンダメンタルズ分析は相場の急変に備えるために必要
FXのロスカットの仕組みや目的を理解しよう!
ここでは、FXのロスカットの仕組みや目的、ロスカットルールを利用するために知っておきたい用語を解説します。
FXのロスカットの仕組みや目的とは
強制ロスカットとは、保有しているポジションで一定水準を超えた含み損が出たときに、口座所有者の意思に関係なく、強制的に決済される仕組みのことをいいます。なぜ、このような仕組みがあるかというと、投資家の資金を守るためです。FX会社はロスカットを行い、顧客が預け入れた資金以上の損失が出ないように保護しています。
というのも、レバレッジをかけた取引では、手持ちの資金以上の損失が発生することもあるからです。たとえば、資金10万円でレバレッジ25倍にすると、250万円相当の通貨を取引できます。そのため、為替変動や金利(スワップポイント)の変動によって、預けたお金以上の損失が発生する可能性もあるのです。
そうなってしまえば、投資資金だけでなく生活資金も失ってしまうようなケースも出てくるでしょう。ロスカットは、このようなことが起きないための保険として機能します。
ロスカットの仕組みを理解するために知っておきたい用語
ここでは、ロスカットの仕組みを理解するために知っておきたい用語を解説します。聞きなれない言葉が多いかもしれませんが、内容はそれほど難しくありません。
必要証拠金
必要証拠金とは、ポジション(通貨)を保有するために預け入れるお金のことです。1ドル100円のときに、レバレッジ20倍で2万通貨のドルを買うとしましょう。実際に必要なお金は、100円×2万通貨=200万円です。
しかし、レバレッジをかければ200万円÷20=10万円あればポジションを保有できます。この10万円が必要証拠金です。つまり、必要証拠金は、新規ポジションを持つための最低限の担保金のようなものといえます。
有効証拠金
有効証拠金の計算式は以下のとおりです。
有効証拠金=口座資金+含み損益
つまり、含み益が多いほど有効証拠金が増え、含み損が増えるほど有効証拠金が減ります。たとえば、口座に100万円を入金し、1ドル100円で2万通貨のドルを買ったとしましょう。もし101円になれば1円×2万通貨=2万円の含み益があるので、そのぶん有効証拠金が増えます。これに、保有ポジションのスワップポイントの損益も加えます。
証拠金維持率
証拠金維持率は以下の計算式で決まります。
証拠金維持率(%)=有効証拠金÷必要証拠金×100
どれぐらい余裕を持ってポジションを保有しているかを示すのが、証拠金維持率です。ポジションに含み損が出るほど証拠金維持率は減り、逆にポジションに含み益が出るほど証拠金維持率は増えます。
ロスカットはこの証拠金維持率を基準に発動される仕組みです。何%で発動されるのか、発動後にどのようなプロセス、タイミングで強制決済されるのかは、FX会社によって違います。
ロスカットとマージンコールの違い
FX会社によっては、強制ロスカットが発動される前にマージンコールが届きます。マージンコールとは、証拠金維持率が基準を下回った際に、メールや電話、Webサイトの口座情報などで通知されることです。「追証(おいしょう)」などと略して呼ばれることもあります。
マージンコールは「追加の証拠金を入金しなければ、ロスカットします」という警告のようなものです。つまり、ロスカットまでは時間の猶予があり、追加入金して有効証拠金を増やせば、ロスカットを回避できる可能性があります。一般的には、翌取引日までに入金すれば、ロスカットされません。
ただし、FX会社は「証拠金維持率が何%以下でマージンコール、何%以下でロスカット」のように段階的なルールを設けていることがほとんどです。そのため、さらに含み損が増えれば、すぐに強制ロスカットされてしまう場合もあります。
そもそも、マージンコールが届いたということは強制ロスカット寸前であり、口座資金が枯渇寸前であることを示しています。他に投資資金が十分にある人は別にして、マージンコールには応じずいったんポジションを決済したほうがよいでしょう。
FXでロスカットが発動されるまでの流れ
強制ロスカットが発動されるまでの流れを具体例で解説します。
- 仮条件
- 預入金額:6万円
- ロスカットの基準:証拠金維持率の50%
- マージンコールの基準:証拠金維持率の100%
- 1ドル100円のときにレバレッジ25倍で1万通貨購入(必要証拠金4万円)
※説明が複雑になるので、スワップポイントの損益は省略します
- ポジションを持った後、1ドル98円に下がった
- 1万通貨×(100円-98円)=2万円の含み損が発生する
- 証拠金維持率が100%になる
※証拠金維持率=有効証拠金÷必要証拠金×100=(6万円-2万円)÷4万円×100=100% - マージンコールがかかる
- さらに、1ドル96円に下がった
- 1万通貨×(100円-96円)=4万円の含み損が発生する
- 証拠金維持率が50%になる
※証拠金維持率=有効証拠金÷必要証拠金×100=(6万円-4万円)÷4万円×100=50 - ロスカットが発動
※決済タイミングはFX会社で異なる(即時決済、証拠金維持率を判定する時間経過後に決済、翌取引日の決まった時間に決済など)
FXでロスカットが間に合わないケースとは?
ロスカットの仕組みがあれば、証拠金がマイナスになる可能性はほとんどありません。しかし、ロスカットが間に合わないケースもあるので注意が必要です。
相場の急変でロスカットが間に合わない
ロスカットは一定の間隔で自動的に決済されるため、相場が急変したときにはロスカットが間に合わないケースもあります。このような場合は、追加証拠金を求められます。資金に対して適切なレバレッジで取引していれば、預けた資金以上の損失になることはほとんどありません。ただ、過去にはスイスフランの急落により、多くのトレーダーのロスカットが間に合わず、追加証拠金を請求されたケースがあります。
2011年、スイス国立銀行は「1ユーロ=1.2スイスフランを維持するために、無期限でユーロを買い続ける」と宣言しました。中央銀行がユーロを買い支えるということなので、多くのトレーダーは安心してスイスフランを売ってユーロを買うポジションを増やし続けました。
そこに突然、「無制限介入を止める」というコメントがスイス国立銀行から発表されたのです。それにより、2015年1月15日18:30頃(日本時間)からわずか数分で、スイスフランは1.2から0.84付近へ約30%急落しました。
このような急激な変動が恐ろしいのは、損切り注文やロスカットがすぐに実行された場合でも、約定するまでにレートが注文価格のはるか下まで動いてしまうことです。スイスフランはスイスが永世中立国ということもあり、世界中の多くの富裕層のお金が集まっている通貨です。そのスイスフランでさえ、強制ロスカットが間に合わない事態が起こりました。
休日明けに為替が大きく動いてロスカットが間に合わない
世界の為替相場が休日となる週末にポジションを持ち越すと、ギャップアップ・ギャップダウンになる可能性があります。ローソク足チャートにぽっかり間が空くことから、日本では「窓」と呼ばれています。
このような状況が起こるのは、土日や祝日など市場が休みのときに重大な出来事が起きたときです。たとえば、2017年のフランス大統領選明けに、1ユーロ117円が120円に窓を開けて取引が開始されました。これによって、突然ロスカットを発動されたトレーダーも多かったことでしょう。こうした急変はまれですが、大きなイベントがあることがわかっているときは注意しておきましょう。
システムの問題でロスカットが間に合わない
FX会社のシステムの問題でロスカットが間に合わないケースもあります。損切り注文を入れておいたのに、FX会社のコンピューターが故障して注文が執行されないなどです。メンテナンス前と後で為替レートが大きく変動していれば、ロスカットが間に合わないこともあるでしょう。
ただし、システムトラブルにより損失が発生した場合は、FX会社から損失を補填される可能性もあります。過去には、日本の大手FX会社で通常あり得ないほどスプレッドが広がり、余裕を持って資金を入れていたトレーダーでさえ、突然ロスカットが発動されました。また、口座がマイナスになって追加証拠金が必要になった人も大量に出たのです。しかし、これらの損失は全て補填されています。
FXでロスカットによる損失を回避するには?
強制ロスカットはトレーダーにとって最悪の事態の一つです。どのようなことに注意すればロスカットを回避できるのでしょうか。
レバレッジに気を付ける
レバレッジが高くなるほど、ロスカットが発動されやすくなります。レバレッジが高いほど効率よく利益を出せますが、損失も大きくなる可能性があります。資金が十分でない場合、わずかな価格変動でロスカットになってしまうことにも注意しましょう。長期的な相場観は正しかったのに、短期的なレートの変動でロスカットになってしまっては、悔やんでも悔やみきれません。
特に、初心者のうちはレバレッジを低めにしてトレードするのがおすすめです。初心者は成績が安定していないので、負けが続く場合もあるからです。また、含み益や含み損の額が大きいと冷静に判断・行動できないことも多いかもしれません。損切りできなかったり、ポジションを取りすぎたりしてロスカットにつながってしまう人は多いといえます。ロスカットのリスクを軽減するため、低めのレバレッジではじめてみましょう。
損切りルールを徹底する
FXで大きな損失を防ぐには、あらかじめ損失の幅を決めておき、そのルールに従って損切りすることが大切です。たとえ勝率が高くても1回のロスカットで大きく資金を失ってしまえば、増やすのが大変です。
仮にロスカットになり、資金が100万円から50万円になってしまったとしましょう。損失額は資金の50%ですが、元に戻すには資金の100%の利益を上げなければなりません。同じ金額を稼げばいいのではなく、倍の労力・成果が必要です。
一般的に、トレード1回の損失は資金の2%以下にするのが良いとされています。このルールにしていれば、強制ロスカットになる可能性はほぼありません。また、2%というルールにすれば、資金100万円で「100万円→98万円→…」と10連敗しても、まだ80万円以上残っている計算になります。仮に、はじめから80万円相当の通貨しか取引しないようにしていれば、10連敗後も同じ取引量でトレードを継続できます。
為替変動が激しいときはトレードしない
為替変動が激しいときは強制ロスカットが間に合わないこともあるため、トレードは避けたいところです。たとえば、米国雇用統計の発表後、FOMC議事録公表、FRB理事会の後は相場が急変しやすいので注意が必要です。週初めとなる月曜日も、輸入・輸出の実需の動きが出やすいことから、動きが激しくなる傾向があります。リスクを避けたい場合には、週末に決済することも検討しましょう。
「休むも相場」という相場格言があります。常にトレードをしようとしていると、冷静に相場を分析できなくなることを戒めた先人の言葉です。上記のような注目を集めるイベントでは、一方向に動くのではなく不規則な動きになりやすいため、安定した収益を上げているトレーダーほど手を出さない傾向があります。
逆指値注文を入れておく
新規でエントリーするときは、損切りを徹底するために逆指値注文を入れておきましょう。リスク管理に使える注文方法は以下の通りです。なお、注文によっては違う活用方法もありますが、ここでは損失を拡大させない方法に絞って紹介します。
OCO注文:
ポジションを持っているときにOCO注文を使います。利益確定と損切り注文を同時に出せ、どちらかが執行されるまで注文が残ります。ただし、注文の有効期限に気を付けましょう。
IFD注文:
IF-DONE注文とも呼ばれます。新規ポジションを取りたい指値または逆指値を設定可能です。また、それが執行された場合の損切り価格を逆指値で設定しておきます。IFD注文は、ポジションを持つと同時に損切りが設定済みの状態になるので便利です。
IFO注文:
IFD注文とOCO注文を組み合わせた注文方法です。新規ポジションを取る条件を指値または逆指値で設定します。また、それが執行された場合の利益確定を指値で、損切り価格を逆指値で設定しておきます。一通りの注文を済ませておけるので、忙しくてチャートを見られない人におすすめです。
トレール注文:
事前に設定した値幅(トレール幅)を保ちながら、高値(安値)を更新するたびに、自動で損切り価格が引き上げられる(引き下げられる)注文です。せっかく含み益だったのに、チャートを見ていない間に含み損になった、または含み益が大幅に減ったなどのトレードがなくなります。
相場の急変に備えるにはファンダメンタルズ分析も重要!
ロスカットが間に合わないという事態を防ぐにはファンダメンタルズ分析も重要です。ここでは、ファンダメンタルズ分析とは何か、どのような情報を収集・分析すればいいのかなど基本的な知識を紹介します。
ファンダメンタルズ分析とは
ファンダメンタルズ分析は直訳すると「基礎的な要因の分析」のことです。FXにおいては、経済指標や金融政策、戦争・テロなどが分析の対象になります。ファンダメンタルズ分析の前提になっている考え方は、「将来への期待や不安が為替に影響することはあるものの、長期的にみれば実態に即した価格になるはずだ」というものです。
確かに、相場はバブルになったり恐慌になったりしますが、やがて実体経済に即した価格に落ち着くことは間違いありません。そのため、FXで大まかな為替の動きを予想するためには、ファンダメンタルズ分析が役立ちます。たとえ為替がどちらに動くか予測できなくても、「相場が荒れそうだ」などとわかるだけで、ロスカットが間に合わない事態を防げることもあります。
為替相場を動かす要因を把握しよう
どのような要因が為替変動を引き起こすのでしょうか。ここでは、FXトレーダーがチェックしておきたい情報と、その活用方法を紹介します。
経済指標
経済指標とは、各国の公的機関が発表する物価や金利、景気などを表す数値のことです。この発表内容によって、為替相場が大きく動くことがあります。こうした情報は事前に専門家たちによって分析されているため、予想と大きく違った場合に急騰・急落の動きになりやすいのが特徴です。
経済指標はあらかじめ発表の時期が決まっているため、発表前後のトレードは避けるなどの対応ができます。米国雇用統計やFOMC、日銀金融政策決定会合などの重要なイベントは、FX会社が提供するカレンダーや情報を提供しているWebサイトなどでチェックしておきましょう。
金融政策
金融政策とは、各国の中央銀行が行う経済政策のことです。特に、金利政策の発表は為替相場に大きく影響するので注目しましょう。先に上げたFOMCでは、アメリカの中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)が金融政策や経済状況の分析を発表します。また、日銀金融政策決定会合では、日本の金利や金融緩和などの政策が発表されます。
金融政策の発表では、「利下げした場合は通貨の価格が下がり、利上げした場合は上がる」というのが一般的です。その理由は、金利が低くなれば、より高い金利の通貨や金融商品に資金が流れるため通貨の価値が下がるからです。金利が高くなれば、その逆の現象が起こります。
重要人物の発言
各国の経済政策に影響がある重要人物の発言を「要人発言」といいます。特に以下のような人物の発言がよく注目されます。
- 各国の中央銀行の当局者
- 日本銀行の総裁・副総裁
- FRBの議長・理事
- 経済閣僚(財務大臣、財務長官など)
こうした発言は、経済指標の発表と違って発表時間が決まっていません。ウォール・ストリート・ジャーナルやロイター、FX会社など、情報が早く正確なサイトなどをこまめに見ましょう。FX会社のニュースアプリや情報配信で評価の高いTwitterアカウントなども手軽で便利です。
戦争やテロ、災害などの有事
戦争やテロ、災害などが発生すると、その国に投資をする人が減るため為替相場が下落します。これは、投資リスクを避けようとして、たとえば現物資産といわれる金(ゴールド)に資産を映すからです。また、「有事のドル買い」といわれるように、信頼性の高い通貨に資金が集まることで、他国の通貨の価値が下がることもあります。
有事のリスクが高いのは、やはり新興国や政情が不安定な国々です。こうした国の通貨のなかには金利が高いものもありますが、急激な為替変動に注意が必要です。スワップポイント(金利)狙いの投資は中長期の運用になるので、定期的に現状をチェックしておく必要があります。
FXで大きな損失を回避するためには各国の動きにも着目!
FXのロスカットは、損失が拡大しないように個人投資家を守るために必要なシステムです。しかし、為替相場の急変などによって発動が間に合わないケースもあります。大きな損失を防ぐには、損切りルールや資金管理が重要です。
また、日ごろから国内外のニュースをチェックして、為替相場の急変に備えることも欠かせません。ロスカットによる大きな損失を防いで、着実に資金を増やしていきましょう。