高成長への期待が株価をバブル化させている?
経済正常化を前提にGDPは高い成長の見通し
先進国のGDPは昨年4~6月にかけて1割程度の大幅な落ち込みを記録したが、7~9月に急回復し、10~12月も感染再拡大による影響が強まった欧州以外は回復が続いて、回復が続いた。
19年7~9月、10~12月平均の各地域それぞれの実質GDPを100とした指数でみると、米国は97.8、日本が97.9、ユーロ圏が95.0となった。
19年7~9月、10~12月平均を基準としたのは、日本で19年10月に消費税率引き上げが実施され、19年7~9月のGDPが駆け込み需要で増加、10~12月のGDPが減少した日本の特殊事情を考慮したもの。
ブルームバーグが集計したエコノミストのコンセンサスGDP予想では、1~3月のGDPは米国が前期比0.8%増、日本が同0.6%減、ユーロ圏がゼロであり、指数は米国が98.4、日本が96.9、ユーロ圏が95.0となる見込みだ。
コロナショック以来、現在までのGDPの落ち込み幅は米国が1.6%、日本が3.1%、ユーロ圏が5.0%だという計算になる。大きく落ち込んだ昨年4~6月と比較すれば、経済はかなり正常化に近づいていると言えなくない。
だが、過去の景気後退局面における実質GDPの落ち込みの程度と比べてみると、経済状態はなお低迷しているというのも事実だ。
過去の景気後退時の米国の実質GDPをみると、1990~91年の湾岸戦争時は1990年7~9月から91年1~3月にかけて1.4%減少しただけだった。
ITバブル崩壊~同時テロ時は株価は大きく下落したが、やはり、GDPは同時テロ時の2001年7~9月に0.4%減少しただけだった。
リーマンショック時のGDPの落ち込み幅は比較的大幅だったが、それでも2007年10~12月から09年4~6月にかけての落ち込み幅は最大3.9%だった。
21年1~3月時点で、コロナショック以来の米国のGDPの落ち込み幅は1.6%程度とみられ、なお湾岸戦争当時の最大減少幅(1.4%)を上回る。
また、同様にコロナショック以来のユーロ圏のGDPの落ち込み幅は5.0%で、なおリーマンショック時の米国のGDPの最大減少幅(3.9%)を上回る。
現在のGDPの水準がコロナ前に比べてかなり低い水準にとどまっていることは、新型コロナの感染が終息すればGDPは大幅に回復するはずだという見方の1つの根拠になっている。
実際、ブルームバーグ集計のエコノミストのコンセンサス予想によれば、21年1~3月から22年1~3月にかけての今後の1年間で、各地域のGDPは米国で4.7%増、日本で3.2%増、ユーロ圏で6.6%増と予想されている。現時点の落ち込み幅が大きいユーロ圏を中心に、それぞれ大幅に増加するという予想だ。
この見通しを前提にすると、各地域でGDPの水準がコロナ前の19年後半の水準に戻るのは米国で20年7~9月、日本とユーロ圏では20年10~12月になる。
高成長への期待が株価をバブル化
今後1年間で期待される高い成長は、あくまでも一時的なものだが、高成長への期待が株価をバブル化させているとも考えられる。
だが、高成長期待の根拠が「今後1年間で、ワクチン接種などによって感染が終息し、その結果として経済が正常化する」といった前提に基づいているとすれば、かなり心もとない。
以下のような3つの疑問がある。
まず、ワクチン接種が集団免疫のレベルに達するのは、接種が速く進んでいる米国でも21年年末頃とされ、ワクチン入手の正確な見通しが立っていない日本ではおそらく22年以降になる可能性がある。
しかも変異種が次々と現れれば、感染がそもそも「終息」することは望めないかもしれない。また、ワクチン接種と人々の行動変容の関係もよくわからない。
ワクチン接種が始まると同時に人々の行動が徐々に積極的になっていくのか、それとも集団免疫を確保できて初めて人々の行動か積極的になるのか、という疑問だ。
仮に後者だとすれば、ワクチン接種が始まってもしばらくの間は、経済の低迷は続くことになる。さらに、人々の行動が元に戻ったとしても、それが必ずしも経済を元に戻すわけではない。コロナショックを機に経済にいろいろな構造変化が起きた。
例えば、現在の世界的な半導体不足にみられるように、グローバル化の後退などで世界的な生産活動に供給制約が強まった。
人々の行動が元に戻って消費などの需要が盛り上がっても、それに合わせて生産活動(供給)が元通りにならないおそれがある。
企業の利益見通しはGDPの増加率を上回る高い伸びに
では、日米欧各地域の上場企業の利益見通しはどうなのか。
米S&P500種株価指数、日本の東証株価指数、ユーロ圏の欧州STOXX指数に採用されている企業のEPS(1株当たり利益)の動きをみたものが図2だ。(利益のデータは季節性があり、前年同期との比較でその動きを判断する必要がある)
米S&P500種株価指数のEPSは19年4~6月の39.1から20年4~6月24.1と前年同期比で38.2%減少した。
しかし、20年7~9月以降、EPSの水準は上向き、7~9月が前年同期比8.5%減の35.4、10~12月が同8.6%減の36.1と減少幅は1桁台に縮小した。
直近の20年10~12月時点でS&P500全体のEPSがなお前年比で減少しているのに対し、GAFAのEPSはいずれも2桁増と好調だ。
逆に言えば、GAFAの利益増加は目立つものの、10~12月時点でGDPの水準がなお前年を下回ったままであることからもも推移できるように、それ以外の多くの米企業の利益はなお前年を下回っている。特に、足を引っ張っているのは、エネルギーセクターで、赤字の状況が続いているというのが現状だ。
ところが、10~12月時点の減益から、1~3月以降の見通しについては、一転して明るい見通しになっている。
ブルームバーグ集計のアナリストのコンセンサス予想によれば、米S&P500指数の21年1~3月のEPS予想は前年同期比36.9%増の38.9、4~6月は同70.6%増の41.2と急増する見通しだ。
ちなみに、コロナショック前の19年後半のEPSは39.1で、4~6月にはこの水準を大きく上回ることになる。前述した通り、米国のGDあるP水準がコロナ前に戻るのは21年7~9月の予想だ。企業の利益見通しは、このGDP予想との整合性に欠ける楽観的な見通しだということがわかる。
2021/2/15の「イーグルフライ」掲示板より一部抜粋しています。
全文を読みたい方は、イーグルフライ掲示板をご覧ください。