金融という仕組みがなぜ必要なのか?
子供のためのお金のリテラシー教育 お金について考えてみよう
ここでは「お金」にまつわる、いろいろなお話をします。一見バラバラのお話のように見えるかもしれません。しかし、話が進んでいくにつれて、ジグソーパズルのピースのように、一つの絵を形作るために、お互いに関連しあっていることがわかってくるでしょう。ここで読んだことが、既に自分の持っている知識と結びつくこともあれば、日常生活の中で、連載の内容と関連する出来事を見聞きして、納得することもあるでしょう。そういう時に、頭の中で知識のネットワークが強化されます。この連載を読んで、興味を持ったり、疑問に思ったりしたら、続きは、自分で調べてみましょう。
資金を借りる、資金を貸す
金融とは、資金を融通しあうことを言います。ごく簡単にいえば、資金を必要としている個人や組織に対して、資金がある個人や組織が資金を貸すことを言います。資金の貸し手となる組織のことを金融機関といい、その中で最も代表的なものは、銀行です。
銀行の主な仕事の一つが資金の貸し出しです。(資金を融資するといいます)金融とは世の中を発展させるためには欠かすとのできない仕組みです。それが何故なのかを考えていきます。
家を買う
ほとんどの人にとって、家を買うといいう事はとても大きな買い物になります。たとえば、東京の賃貸マンションに、ある会社員Aさんが家族とともに住んでいるとします。Aさんは、自分の家を持ちたいと思い、家を買おうとしています。良い家はないかと思って、何か月か探していたところ、気に入った場所に気に入った家が見つかりました。
その家は東京の郊外の私鉄沿線の町にあり、家族4人で住むのには十分な広さがあり、価格は3600万円でした。Aさんは、ぜひこの家を買いたいと思います。
もしも、この家を買うための資金をあらかじめ全額用意するとしたらどうなるのか?Aさんの収入から支出を引いた余裕の資金は毎年100万円だったとすると、実に36年間もかかってしまいます。
200万円だとしても18年間です。やっと家を買って家族での暮らしを楽しもうと思っていても、その時にはもう子供たちは大きくなって独り立ちして行ってしまうかもしれません。
そもそも、もうその家自体とっくに売れてしまっています。さらにその資金が貯まるまでの間にも賃貸マンションの家賃を払い続けることになります。ですから、資金が貯まるのを待たずに、お金を借りて家を購入することにします。
Aさんは、銀行に住宅購入資金を借りに行きます。銀行では、Aさんに対して資金を貸してもよいかどうかを審査します。貸し出しをする金額はとても大きなものですし、返済には非常に長い年月がかかるので、銀行としては貸したお金を確実に返済してもらえるかどうかを事前に判断しなければならないのです。それで、Aさんの年収などから考えて、無理なく返済してもらえそうであれば資金を貸し出します。これが住宅ローンです。
住宅ローンには金利がかかるのでAさんは、借りたお金と利子を毎年返済していくことになります。また、銀行は、万が一Aさんが返せなくなったときのために、住宅に抵当権という権利を設定します。住宅を担保に取るという表現をすることもあります。もしもAさんがローンを返済できなくなった場合には、銀行はAさんの家を差し押さえて売却して資金を回収します。
このように、銀行の住宅ローンを利用することによって、Aさんは、気に入った家をすぐに手に入れて、その後の長い年月を家族と楽しく暮らすことができるようになりました。一方、銀行にとっては、Aさんが毎月きちんと返済(借り入れた元金の一部と利子)をしてくれることで、この利子が長年にわたって銀行の安定した収入となるのです。
事業を始める
それから25年が経過して、住宅ローンを無事に返済し終わったAさんは、長年の夢だったお蕎麦屋さんを始めたいと思っています。Aさんは、蕎麦打ちの道場に通って腕を磨きました。
そしてついに「もう開業しても大丈夫」と、蕎麦打ちの師匠に認められるくらいに腕が上達したのです。しかし、会社を辞めて蕎麦店を始めるには、開業の資金が必要です。蕎麦店を始めるにあたってはお店の広さにもよりますが、あまり大きくないお店で、人は雇わずに夫婦でやる事にしたとしても、1000万円くらいの資金が必要です。
お店を借りるための資金(家賃の12か月分)、お店の内装や外装の工事費用。厨房施設などの備品代。そして開業当初の運転資金(原材料費など)などです。この開業資金を貯金で貯めることにした場合、開業までに10年くらいは会社で働き続けることになります。しかし、資金を借りることができれば、この夢をすぐに実現させることができるのです。
Aさんは、今度は銀行ではなく、日本政策金融公庫という政府系の金融機関から資金の借り入れすることにしました。この金融公庫は国民が新しい事業を始めることを支援するための金融機関です。担保を取らずに開業資金の貸し出しをしてくれます。日本政策金融公庫では、Aさんから事業計画書を提出してもらい、開業した場合に経営がうまくいくかを判断します。そして融資した資金がきちんと返済してもらえるかどうかを判断します。
Aさんは、月々の売り上げや経費を予想し、どのくらいの利益が出るのかを考えます。開業する予定のお店の周りにはどのくらいの人口があり、どのくらいの頻度でお店に来てくれるのか、一日に何人の来客が見込めるのか、一人当たりいくらお金を使ってくれるのか、などから月々の売り上げを推計します。そして、月々どのくらいの経費(材料費、光熱水道代、広告費用)がかかるかを計算し売り上げから引きます。
残ったお金が利益になりますので、そこから借り入れた資金を返済していくことになります。また、会社を辞めたら、その利益の中から家族の生活費を出さなくてはならないでしょう。そのような計画をみて実現可能性が高いものであれば融資が実行されます。それでAさんは念願の蕎麦店を開店することができました。
金融の役割
上記の例でわかったように、金融という仕組みがあることで、人々の夢や願いが、自分で資金を貯めるための長い年月を待たずとも実現しやすくなります。さらに、上記の例では、住宅を販売する会社にとっては家を売りやすくなり、家を建てる会社も儲かり、そこで働いている社員の収入にもつながります。
今まで蕎麦屋さんがなかったところに蕎麦屋さんが開店すれば、近くの会社に勤める人にとってはお昼休みの食事の選択肢が増えますし、おいしいお蕎麦であれば、蕎麦好きな人が食べに行く場所が増えて楽しみも増えます。そうやって、みんなに喜んでもらうことができます。
ここではAさんという個人が融資を受ける例でしたが、同じことは会社にも当てはまります。会社が新しい事業を始めたいときに、資金が不足していたら銀行から融資を受けて新しい事業を始めることを考えます。
もし融資が受けられて新しい事業を始めることができれば、会社が発展するチャンスになりますし、その会社の始めた事業の提供する商品やサービスによってより生活がより豊かになる人も増えるでしょう。金融は世の中全体を豊かにし、人々の生活を高め、社会が発展していくためには必要不可欠な仕組みだといえます。