中東和平問題から考える今後の中東情勢
2020年に明確になったのは、ソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)を有するアラブ首長国連邦(UAE)やバーレーンがイスラエルのハイテク産業などと結びつき、さらなる富の拡大を図る政策を明確にした国と、内戦が継続するシリア、イエメン、リビアやパレスチナの人道危機に瀕する難民生活者との乖離である。
また、それ以外の中東諸国でも、政治指導者の政策選択と市民が求める生活改善との乖離がさらに進行している。例えば、エジプト、トルコ、イランなどでの治安や言論統制の強化などが挙げられる。
以下では、2020年の初めにトランプ政権が発表した「世紀の取引」、アラブ諸国とイスラエルとの国交正常化で話題には上ったものの、公正や人道問題の観点からの注目度が低かった中東和平問題を取り上げる。
2021年の中東情勢では、イランと米国・イスラエルとの軍事的緊張、イラン核問題など原油市場や金融市場で関心が高い話題に注目が集まるとみられる。これらの情勢には、イスラエルの安全保障、パレスチナ国家の樹立が深く関わっており、中東和平問題の行方を検討することが不可欠である。
イスラエルに大きく寄ったトランプ政権後の国際社会では、バイデン次期政権を含め国際協調の機運が高まり、現在のパレスチナ自治政府の孤立状態は改善されると考えられる。
そうなれば、イランをはじめとする反イスラエル戦線(シリア、レバノンのヒズボラ勢力、イラクのシーア派民兵)の活動はかえって抑制される可能性がある。
イスラエル国会の解散
12月22日深夜、イスラエルの国会が解散した。その理由は、ネタニヤフ政権が12月23日を期限とする予算案を提出できず総辞職したためである。
イスラエルは12月24日時点で新型コロナ感染者数が累計38万9502人、死者は3170人(保健省発表)に上っており、同月27日には4月と10月に続き3度目のロックダウンに入った。その経済損失額は1週間当たり250万シェケル(7億7600万ドル)とされる。
4月の540万シェケル、10月320万シェケルに比べれば少ないとはいえ、経済的打撃は大きく、予算編成が遅れることで市民生活にさらなる悪影響が及ぶとみられる。こうした状況が予想されるにもかかわらず、ネタニヤフ政権は予算案を提出できなかった。
直接の要因は、ネタニヤフ首相のリクードと連立を組む「青と白」のガンツ副首相が、2021年11月の首相職交代を見定めて2年間の予算編成を要求し、ネタニヤフ首相がこれを拒否したことにあると報じられている(アラブ紙「シャルクル・アル・アウサト」)。
また、その背景として、汚職問題を抱えるネタニヤフ首相は、首相職にとどまることで国会での刑事免責を勝ち取りたいとの思惑があり、国会解散を望んでいたとの指摘もある。
ネタニヤフ首相は、トランプ政権の後ろ盾により、米国大使館のエルサレムへの移転、アラブ諸国4カ国との国交正常化をはじめ多くの実績を残してきた。このため、リクードが有利との見方もある。
しかし、ネタニヤフ政権に対しては、2年間で4回も総選挙を行うという事態を招いていることに加え、汚職事件で起訴されている人物が首相職を継続することや、新型コロナ対策への批判がある。
さらに、12月8日にリクードを離党したギデオン・サアル氏が右派新党「新たな希望」を結成し、2019年に結成された「ヤミーナ党」のナフタリ・ベネット党首が同党との連立を視野に入れているとの報道もある。
これらのことから、3月24日に予定されている総選挙で大規模な政界再編が見られ、ネタニヤフ首相が退任に追い込まれる蓋然性が高いといえる。こうした状況がイスラエルの中東和平政策にどのような変化をもたらすだろうか。
最近の中東和平の動向
ネタニヤフ政権の中東和平政枠の正当性について、国際社会は厳しい評価をしている。例えば、2020年の国連総会での非難決議の採択状況は、24本の決議のうち17本がイスラエルを対象としたものである(12月26日のアルジャジーラTV)。
12月に入っても、4日、ヨルダン川西岸のラマッラー近郊でイスラエル兵によるパレスチナの少年アリヤー君銃殺事件を受けて、国連のパレスチナ担当特別報告者マイケル・リンク氏と人権問題の特別報告者アグネス・カラマード氏による声明が出ている。同声明によると、イスラエルは2013年以降155人のパレスチナ人の子どもを銃撃で殺害している。
また、この事件に関連し、国連と連携するNGO組織「ディフェンス・フォー・チルドレン・インターナショナル」(DCI)は、2020年に1346人のパレスチナ人の子どもがイスラエルにより逮捕されていると公表した。
こうしたネタニヤフ政権による占領地でのパレスチナ人への非人道的な行動の背景には、長年にわたる占領に対するパレスチナ人の抵抗運動の継続がある。
両者による占領と抵抗の歴史は、2020年、アラブ諸国のイスラエルとの国交正常化や、イスラエル閣議での入植地の新設計画合意(11月8日)などにより、さらに深刻さを増している。
メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。
全文を読みたい方は、イーグルフライ掲示板をご覧ください。
(この記事は 2020年12月29日に書かれたものです)