適材適所を選ぶことの難しさ~建築総合~
楽しいはずだったのに
さあこれから楽しい毎日が待っている。あれもしたい、これもしたい。趣味の料理をたくさん作ってゲストを招いて。しかし、引っ越しを済ませて間もなくから、おかしいと思えることが次々と出てきます。お願いしていた場所にあるべきものがない、エアコンがきかない、扉があかない。床のタイルが割れる。こんなところに穴が開いている。あれもこれも次から次へ・・・・・・。不満が募ります。
些細なことから始まり、やがて大きな問題が発覚します。楽しいはずの毎日が気の重い日々に変わりました。初めのうちは、建設会社も指摘に対して対応していましたが、終わることなく問題が続き、徐々に対応が滞るようになりました。設計監理者も親身ではなく、どこか他人事のような態度だったそうです。
埒が明かなくなり、弁護士や専門家に依頼し調査を行った結果、構造上の問題も含め、100項目にも及ぶ不具合が見つかります。
設計者、監理者、現場監督各々が責任を果たさなかった
誠意ある対応が得られず、設計監理者と建設会社を相手に、裁判を起こすことになりました。
これを機に私たちは、建築のアドバイザーとして建築主、弁護士をバックアップすることとなり、設計監理の専門的な見地から調査結果について評価、助言を行いました。
報告書から、本来建設会社は設計図書の通りに工事を行う責任がありますが、この現場ではそれができず、施工瑕疵が山積になっていることが分かりました。一方で、設計や監理に起因する問題があることも明らかでした。
基本的に監理者は、工事中に不具合が見つかれば現場監督に指摘をし、建設会社はこれを是正しなければなりません。しかし、実情はそうはなっていませんでした。
監理者から指摘、指導がなされ是正されることを思えば、引渡し時点で瑕疵があることは考えられません。引き渡し直後からこれほどの瑕疵が建築主により発見されるのは尋常なことではなく、適正な工事がなされない中、適正な監理が行われたのか疑われるところです。
今回の事例は設計者、監理者、現場監督の無知や無責任な対応によってもたらされたものと言わざるをえません。監理が重要ですが、経験や能力が不足すれば、役に立てない報告書を精査し現地の確認を行った上、ヒアリングを進めると設計者はインテリアデザインの仕事が多く、監理は経験の浅いスタッフが担当していました。
建設会社の現場監督もまた、経験の浅い若い社員が、担当していたことが分かりました。建築の監理や現場管理は、十分な経験を積まなければ、責任を全うすることができません。店舗、賃貸マンション、自宅を含む鉄筋コンクリート造5階建てのビルを担当するには、どちらも経験不足、力量不足であったと思われます。
設計事務所の主催者は、インテリアデザインを主な業務としており、どれほど建築の監理に携わってきたかその経験値に不安が残ります。若い担当者のサポートを期待することはできません。建設会社の現場担当者については、監理者が工事に着手する前に予定されている方の経歴の審査を行います。工事の難易度上明らかに力不足と判断されれば交代を求めたり、補完する監督体制の構築を指示することになります。
監理者の経験が不十分なことからこの手続きがなされなかったのか、判断できなかったのか、未熟な監督に現場を任せることになりました。監理、指導する側も未熟な上、工事を統括する現場監督が未熟な現場では、高い品質を望むことができません。能力が不足していれば、建築主の役に立つことはできません。今回の問題は起こるべくして起きてしまった不幸な事例です。
不適格な人々により重大な欠陥が作られる
検討不足や、常識的にはあり得ない設計仕様など、設計自体にも問題が有り、瑕疵となって現れています。実現不可能と思われる設計は、そもそも工事がその通りにはできず、建築主に無断で変更や中止をしてしまうなど、監理者として有りえない不誠実な対応も繰り返されていました。
設計者、監理者が経験豊かであれば、本来起こりえないと思われる設計瑕疵、監理瑕疵が数多く見つかっています。構造的にも、重大な施工瑕疵が多数見つかります。全体のバランスを保ち、大きな地震の時に柱や梁が壊れることを防止するため、柱際や壁の下部に設ける耐震スリットと呼ばれるものがあります。これらが、設計上は適切に配置されているのですが、実際には、この重要なスリットの多くが設置されていませんでした。
また、基礎梁は法律上必要な鉄筋の被覆厚が全域にわたり不足していたり、構造上開けてはいけない場所に配管用スリーブが多数存在するなど、どうしたらこうなるのか理解できない状況でした。そしてそのスリーブは、基礎の梁の上端の鉄筋に接していて、取付位置が許容範囲を逸脱している上にコンクリートの被覆も取れていません。耐火性能を発揮できない上、耐久性が著しく阻害されます。
さらに驚くべきことは、そのスリーブに、なければならない開口補強がなされていないのです。あまりの瑕疵の多さとその重大さに、戦慄を覚えます。重大な施工瑕疵であり、監理瑕疵と言えます。構造上の問題はどれも重要なチェック事項で、耐久性や寿命に直結し性能を阻害するものばかりです。経験豊富な監理者であれば第一に確認を行い見逃しません。
施工者が設計図の通りに工事をしていない場合、監理者は問題を指摘し是正を求めるべきところ、一切現場を見ていなかったとしか思えません。見ていたとしたら、見逃しました、知らなかったでは済まされません。職責を放棄したものと言わざるをえない状況です。
また、監理者が経験豊富であれば、設計瑕疵も現場で修正や丁寧な対応ができ、建築主にとってこれほど不幸な状況にはならなかったことでしょう。多少能力の低い現場監督が担当しても間違いを逐一指摘し、修正を指導し、結果を確認していけば相応の品質が確保できたと思います。
残念なことにかかわった設計監理者、施工者の能力が不足していたために、このような重大な欠陥を生むことになってしまいました。
頼れる設計者や監理者を見つけるのは難しい
今回の事例は設計、監理者と施工者が別々の設計施工分離方式で行われ、本来設計、監理者が建築主の唯一の味方として機能しなければならないところです。しかし、能力不足で役に立つことができないばかりか、加害者となり裁判の被告となりました。
設計監理者が通常の能力を有していれば、これほどの惨状はありえません。しかし、建設業界や設計業界の現状を鑑みると、人材不足は否めず、今回紹介したような事例の当事者になってもおかしくない環境にあります。
守ってくれる人材、設計者、監理者の選定がいかに難しく大切なことか、この事例が教えてくれます。設計者も建設会社も、立派なHPを持っていました。実績を誇り、品質を謳っていますが、現場の惨状を見る限りどれも絵空事です。
対外的には素晴らしいと思わせますが、これまで不都合な事実が表に出なかっただけのことであり、現実は実質を伴っていません。
パートナーの選定においては設計業務経歴、監理業務経歴、資格等可能な限り業務内容や判断材料を集め、よくよく確認して下さい。きれいなだけのHPなどに惑わされることなく、業務の遂行が可能か味方になりえる人材か確認した上で発注することが大切です。
いずれにしても誰に何を依頼するのか、適材適所、最終的には人に行きつきます。より良いパートナーとご縁を結んで下さい。