コロナ後の経済を左右する3つの潮流
グローバル化の後退について
人々が有効で安全なワクチンを接種できれば、人々の生活はある程度、元通りになるだろう。
しかし、コロナ後の経済はコロナ前とは大きく変わったものになる可能性が高い。こうした変化は、これまで経済を動かしてきた大きな潮流の変化によるものだ。大きな潮流のうちのいくつかは、コロナショックを契機にその流れが加速する。一方、コロナショックを契機にその流れが、全く逆向きのものに変わってしまうものもある。
第1の潮流はグローバル化
この潮流はリーマンショック以降、その流れが幾分、停滞していたが、今回のコロナショックを契機に逆流し始めている。中国の習近平政権は、コロナウイルスを世界に広げてしまったことへの批判をかわすためか、あるいは、早期にウイルスを収束させたことへの自信からか、香港などで言論統制を強め、南シナ海など海洋進出で強硬な外交姿勢を強めている。
このため、人権問題などについての、欧米各国の中国に対する反感は強まっており、また、経済面だけでなく、外交・軍事面での米中の覇権争いが激化しつつある。先端技術分野においては、米国側のファーウェイなどの、中国企業に対し禁輸措置をとっている。
これに対し、習近平政権は貿易依存(国際循環)を減らし、国内需要を国内生産で賄うべく国内循環を強化する「双循環」戦略、いわば自給自足戦略を打ち出し、半導体の国産比率を高める方針を示している。
さらに、10月の全人代常務委員会では、戦略物資や、ハイテク技術の輸出管理を強化する、輸出管理法が成立した。同法には、ファーウエイなどに対する、米国側の輸出制限措置に対して、中国は対等の措置をとることができるとする、報復事項が盛り込まれており、米中間での報復の応酬がエスカレートするおそれがある。
米中両国はこれまで、比較優位に基づく貿易によって相互依存し、それによって両国が利益を生んできた。しかし、両国間の覇権争いによって、こうしたウィンウィンの関係にひびが入るだろう。
一方、コロナショックを機に、各国政府や企業の行動は有事に備えた「守り」の姿勢に変わった。これまでのような、効率だけを重視したサプライチェーンは、今回のようなショックに対応できず、機能不全に陥る可能性がある。
万一の場合に備え、製造拠点を自国やその近くに移転するなど、効率やコストを犠牲にしても耐久力のあるサプライチェーンの再編が必要となっている。貿易取引だけでなく、国境を越えたヒトの動きが、いつ元通りになるかについても不透明だ。
7月のIATA(国際航空運送協会)の予想によれば、世界の航空需要が新型コロナウイルス感染症の影響を受ける前の水準に戻るのは、2024年になるとの見通しを示した。
同年5月の予測では、早ければ2023年と予測していたが、需要回復に遅れるがみられるとして、回復基調に入る時期の予測を、1年後ろ倒しした。先進国ではこれまで、高齢化による労働力人口減少を、途上国からの移民で補ってきた。
しかし、国境を越えたヒトの動きがコロナ以前に戻るのは、かなり先になる可能性があり、検疫や外国人の入国制限が厳しいままであれば、人手不足を、移民で補うこともできなくなるおそれがある。労働力不足によって先進国では労働者の賃金が上昇し、企業は利益を圧迫されることになる。
例えば、移民国家と言われる米国では、1990年から2019年にかけての29年間で移民は2,741万人増加した。米国の総人口は、同期間に7,770万人増加したが、そのうち約35%を移民増加によって補われた計算だ。
人口は同期間で、年率0.93%増加したが、仮に、移民の増加がなかったら、人口増加は同0.63%になっていたことになる。0.3%ポイント分、労働投入が減少する計算で、その分、成長率も低下する可能性がある。
デジタル化の加速について
第2の潮流は、デジタル化
グローバル化の後退に対し、デジタル化の流れは加速しており、これがコロナ後の経済成長を牽引する潮流として、期待されている。新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、テレワークなどの柔軟な働き方や、ネット販売の利用が拡大した。
人々の移動が自由になった後も、テレワークの方が労働生産性が高く、また、ネット販売の利便性が高いと判断されれば、こうした生活習慣は継続するだろう。ネット販売の利用拡大が続けば、対面販売での小売ビジネスは業態変化を余儀なくされる。
一方、デジタル化が、本当に成長のけん引役になりえるかどうかについては疑問もある。オンラインでの経済活動が増えるにつれ、データや知的財産を集積する、企業の力が強まるだろう。
産業として情報産業の伸びが期待できるが、残念ながら情報産業の雇用吸収力は低く、雇用面で経済のけん引役になりにくい。「財・サービス」と違う「情報」の特性の一つに、「投入と生産の関係が不確実である」という点がある。
例えば、自動車というモノの生産であれば、一定の労働力を利用し、1つの工場で、毎日何台程度の自動車生産ができるかが、ある程度予想できる。これだけ働けば、これだけ生産でき、
これだけの所得を得られるという関係があらかじめ予想できる。
これに対し、情報は、投入と生産の関係が極めて不確実だ。ほんの少数の優れた知識やスキルが莫大な利益を生み出す可能性がある一方、一般的な知識やスキルを持つ人材が何人いても利益を生み出せない場合がある。
情報産業の労働者は、労働者のなかでも極めて優秀、クリエイティブ、強い個性など持つ人々が中心になると考えられる。コロナショックは経済格差を拡大させたが、こうした「情報」の特性もあって、デジタル化が加速すれば格差も一段と広がるだろう。
では、デジタル化による経済成長には何が必要か。デジタル化を利用した成長のためには、
ITを利用してサービス業などが、労働生産性上昇率を高める必要がある。
技術革新は本来、企業の生産性を押し上げると考えられる。過去の産業革命では、例えば蒸気機関の発明で人の筋力(労働力)は機械で代替されるようになった。生産現場の職工などの雇用が減少し、製造業の生産性を高めた。
人の筋力を代替する過去の産業革命とは異なり、ITは事務、管理、企画など、サービス業のホワイトカラーの労働を代替するもので、ITの導入によってサービス業の生産性が高まることが期待される。ただ、実際には、ITは労働生産性を大きく高めているわけではない。
日米のサービス業の労働生産性上昇率をみると、日本はほぼゼロ程度、米国もプラス1%程度と高くない。ITが導入されても、並行して業務や組織の見直しが行われなければ、それだけでは生産性は上昇しにくい。
特に、日本企業の場合、米国に比べ、労働者の職務内容や権限の範囲があいまいで、ITが導入されても並行して業務や組織の見直しが行われることもなかった。終身雇用制などの日本の雇用慣行が業務や組織の見直しを阻害し、IT導入による生産性向上を妨げている可能性が高い。
後退する、グローバル化に代わって経済牽引役として期待されるデジタル化だが、日本の場合、特に、日本型雇用慣行などが変わらなければ、その成長押し上げ効果は期待外れに終わるだろう。逆に、格差拡大などの弊害だけが強まるおそれがある。
温暖化抑止について
第3の潮流は、温暖化抑制に向けた各国当局の動き
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書(2013~14年発表)によれば、地球温暖化は「疑いない」傾向で、温暖化の主因は「自然起源」ではなく「人為起源」(CO2の影響)によるものであった可能性が極めて高いとされた。
気温変化との比例関係が強いのは、その時々のCO2の排出量ではなく、過去からのCO2排出の累積量だ。いったん排出されたCO2は、植物や海洋に吸収されない限り、大気中に滞留し続け、大気中のCO2の濃度が徐々に高まり、それが気温を押し上げる。
そして気温上昇が異常気象を引き起こし、東アジアでは、極端に暑い日や大雨などの、極端現象が増えると指摘されていた。IPCCの見方通り、世界の平均気温は上昇傾向を続けている。気温上の結果、アジア各国ではゲリラ豪雨が頻発するなど、予想された通りの異常気象や極端現象が多発している。
2020/12/14の「イーグルフライ」掲示板より一部抜粋しています。
全文を読みたい方は、イーグルフライ掲示板をご覧ください。