品質管理の現状~建築現場~
重層下請け構造が困難を招いています
建設現場は元請けと言われる建設会社を頂点に1次下請け、2次下請け、さらにはその下と重層的な組織で運営されています。元請けの建設会社は社員を現場に常駐させ、現場の管理に当たります。中規模の現場の場合、現場所長や主任、係員等数人が配されます。
私がこれまで見てきた現場では、主任以下の社員が現場の管理に当たりますが、実質的な体制としては建設会社の係員と1次下請けの会社の責任者が、現場の品質を担っていると言えます。係員が現場に立会い1次下請けを管理し、1次下請けは2次下請けをとなり、各層ごとに処理されて行きます。
現場所長や主任が末端まで把握、管理しているわけではありません。主任以上は下から上がってくる報告や紙による事務的な管理が主となることが多く、現場のこまごまとした実情に向き合うことは多くありません。この重層的な構造と責任体制に、現場に問題を生む一因があります。
現場監督が見ているわけではありません
現場監督の多くは下請け会社からの施工結果報告を受け、その書類に捺印することが仕事と考えているのではないかと思います。責任をもって自分の目で確認をしないのか問うと、下請けとの信頼関係ができているのでそこまではしない、と言います。紙による管理が現場で当たり前になっているのです。
信頼関係と言ってもこれは下請け任せにほかなりません。下請けから上がってくる施工結果報告のみで管理を行った場合、チェック機能が働かず品質管理の実効性が伴わないことは明らかです。これは過去の建設不祥事のニュースでもたびたび取り上げられる構造的な問題で、瑕疵の温床になっています。
国交省の監理ガイドラインに、施工の確認方法として複数の項目が例示されています。目視確認が最上位に記載されていますが、その中には建設会社の自主管理記録の確認という項目があります。
確認方法の選択は監理者に任されていますが、この自主管理記録の確認を選択した場合、現場サイドで問題を残していれば、監理者は瑕疵を見逃すことになります。建設会社の自主検査に実効性が期待できないとすれば、監理者が書類のみにより監理を行うことは大きな落とし穴になります。
また、以前お知らせしたように官庁検査も不十分で、全面的に依存することはできません。
これらのことから分かるように、現場、監理者、官庁検査とも品質を確認する方法が実効性において穴だらけなのです。
ある現場の配筋検査の実情です
私たちは是正が完了するまで目視検査を行う方針で現場に臨んでいます。現場監督自身による目視検査が疎かなことや、写真や自主検査記録が役に立たないことを、経験上知っているからに他なりません。
ある現場での事例です。配筋検査になかなか合格できません。長引けば工期がずれてしまいます。一般的な工事の流れとしては、配筋検査を前日中に合格しなければ翌日のコンクリート打設は延期されることになります。
この例では工程的に厳しく、翌日にはコンクリートを打ちたい思いが強く、夜間に是正を完了するので、翌朝再検査をお願いしたいという申し入れがありました。最後の検査になるよう当日早朝配筋検査に臨みましたが、合格できず是正作業が続きます。
現場にはコンクリートを打設するための要員がすでに集まっています。彼らが手持ち無沙汰に眺める中、さらに検査が繰り返されるのですが、タイムリミットまでに完了できず、コンクリート打設は延期されました。施工者は問題なく完了しているつもりで検査を依頼してくるのですが、1度で完了することはなく問題が残ります。
検査では検査用の図面に是正箇所と内容を記入します。図面は記されたメモで真っ赤になります。この赤がなかなか消えません。2~3回で済めばよいほうで、5~6回でも済まない場合もあります。自主検査記録の確認で済ませられれば現場はスムーズに進むのにと監督は思っているかもしれません。しかし、それは瑕疵に直結する行為に他なりません。
私たちも工期を考えれば、遅延に繋がることを良しとしませんが、品質を確保するためには妥協をすることは許されません。指摘することは毎回ほぼ同じような内容です。設計図や仕様書に明記されている通りにすればよいだけなのですが、それができずに同じ間違いが繰り返されます。日本屈指の建設会社でさえ、大学院卒業の係員が見ていてもそうなのです。そしてそれはどこの現場でも同じような状況で、建物が完成するまで繰り返される嘘のような本当の話なのです。
このような状況は、作業員がやりなれた間違った方法を改め、学習する習慣がないことによるものと考えています。そしてそれを正さなければならない各担当者の力量不足と、下請けから順次上がってくる報告を書類上のみで了としていることに原因があると思います。
建設現場に期待ができない以上、監理者自身が問題の是正が完了したことを見届けなければ、是正されないまま赤い印がコンクリートの中に隠れてしまいます。品質を確保するためには、監理者が書類確認に頼らず自分の目で見ることが必要なのです。
疑って臨む必要があります
別の現場での例をもう一つ。柱の配筋検査の依頼を受け、問題を指摘し、一旦事務所に戻ると追うように是正したと写真が送られてきます。型枠作業を開始してよいかと問われましたが、写真は撮る位置によって是正されたように見えることが有り、状況を正確に評価することが困難なことがありますので、再度出向いて確認することを伝えます。
現場に到着した時にはすでに型枠を途中まで組み始めていました。監理者は来ないだろうと高をくくっているのでしょうか。やってしまえば見ないのではないかと思ったのでしょうか。型枠を外してもらいます。指摘した部分の是正が行われていません。手つかずです。どういう事なのか、検査に立ち会った現場監督も言葉がありません。
現場監督は現場事務所におり、目視確認をしていませんでした。下請けの完了報告を鵜呑みにして写真を送ってきたのです。このようなことが現実に起きています。私たちが再度検査に出向かず、写真確認で済ませていたらと思うと恐怖さえ感じます。
これもほんの一例にすぎません。現場では着工から完成までこのようなことが繰り返されています。根深い問題が山積なのです。超大手の建設会社が超高層マンション建設で、6階に渡り柱の配筋に間違いがあったことが、第三者検査機関の検査で発覚し世間を騒がせたことがありました。
また、この事例では日本有数の設計事務所が監理に当たっていましたが、書類監理を採用しており、鉄筋の本数などの確認を自らの目で行っておらず、間違いに気が付かなかったことが分かっています。国交省の監理ガイドラインに実効性がないことを示しています。
社会的に信用度が高い超大手の建設会社といえども、日本有数の設計事務所であっても類似の事例は多く、現場は常に問題を抱えているのです。現場には必ず間違いがあるものと考えなければなりません。
監理者は建築主にとって最後の砦として、監理の実効性を高めなければなりません。建設現場では是正を見届けることが品質確保の第一歩と言えるのです。そしてその対応が取れるのは、建設会社とは利害関係のない第三者のみであることも忘れないで下さい。
想像を超える実情に想いを馳せて対策を
一般の方々には想像を超え信じ難いと思いますが現実なのです。つい最近も報道されましたが、中央自動車道の耐震補強工事で鉄筋を入れない手抜き工事が告発により明るみに出ました。決して特別な事ではなく、常に身の廻りにある現実です。レオパレス21や大和ハウスの事件もまだまだ記憶に新しいと思います。
現場には建築主にとって不利益につながる可能性が数多く存在し、実情を知れば不信感でいっぱいになると思います。最後まで監理者の目によって確認することがいかに大切か理解できると思います。設計施工一貫方式の監理に期待することができないことは、すでに理解していると思いますが、第三者による監理者が入っても、実効性を伴わない監理では救われません。
建築資産を得る上では建築主サイドに立った監理が大切なのはもとより、さらに踏み込んだ監理が大切なことを知り、建築を考える時のパートナーを選んで下さい。