世界の原油需給の実態から見る原油価格の行方
1~3月にかけて原油需要が下振れるリスクが高まっている
世界の原油需給は、年前半の大幅供給超過から大幅な需要超過に転じている。IEA(国際エネルギー機関)のオイルマーケットレポート11月号によれば、需給は20年1~3月に日量620万バレル、4~6月に910万バレルという大幅な供給超過を記録した後、7~9月以降は、需要回復とOPECプラスの減産の効果により、需要超過状態に転じた(図1参照)。
7~9月の需要超過幅は日量210万バレルで、OPECの生産量が7~9月と同水準であれば10~12月は340万バレルの需要超過、来年1~3月は240万バレルの需要超過となる計算だ。
こうしたなか、11月30日~12月1日のOPECプラス総会が注目されている。OPECプラスは現在の日量770万バレルの減産幅を、来年1月から200万バレル縮小しようとしていたが、どうやら、減産幅縮小は行わず、770万バレルの減産を3~6か月程度継続する方針のようだ。20年後半の、200~350万バレルの需要超過という数字をみると、需給が相当引き締まっているように思える。
しかし、年前半の大幅な供給超過により、在庫が急激に増加してしまった。在庫過剰感というストック面での緩和状況が、当期の需要超過というフロー面の、ひっ迫感を薄れさせてしまっている。年前半の供給超過分は累計1,530万バレルと大きかった。世界の原油在庫がその分、急増したことを示す。
在庫がコロナ前の水準に戻るためには、生産国はあと1年程度、強力な減産を維持する必要がある。とくに1~3月期は季節的な不需要期であるため、原油需給が緩和しやすい。来年1~3月の原油需給はOPECが現在の生産量を維持する場合、日量240万バレルの需要超過になる計算だ。
しかし、実際にはリビアの増産で需要超過幅はより少ない数字とみられる。そうした状況で、もし、OPECプラスが減産幅を200万バレル縮小してしまうと、1~3月中のフローの需給はほとんど均衡あるいは、供給超過に転ずる可能性がある。そうなれば、ストック面、つまり在庫過剰感により原油価格は、軟調に推移する可能性が大きい。さらに、OPECプラスが懸念しているのは原油需要の動向だ。
先進国では感染抑制で経済が正常化してきており、そのため確かに原油需要は増加しつつある。原油需要見通しも徐々に上方修正されているように思われがちだが、実際には、年後半以降、需要見通しは逆に下方修正されている。IEAのオイルマーケットレポート7月号では、
原油需要は2020年9,210万バレル、21年9,740万バレルだったが、直近11月号では20年9130万バレル、21年9,710万バレルと下方修正されている。先進国の需要が思ったほど増加していないことが原因だ。
足元の心配は、もちろん感染再拡大で、各国が再び行動制限措置を導入し始めていることだ。
図1でIEAによる原油需要見通しをみると、原油需要は今年4~6月にかけ大幅に減少した後、7~9月はV字回復に近い増加になった。
しかし、10~12月は回復ペースが鈍化し、さらに来年1~3月は増加に歯止めがかかる。原油需要が上向くのは20年4~6月以降で、4~6月から徐々に増加し、7~9月に急増するという見通しになっている。
ワクチンに関する朗報が足元の感染・経済状況を悪化させる可能性も
同見通しは最近のワクチン開発の動きを考慮したうえでの見通しであり、IEAは「ワクチンで世界の原油消費が大幅に伸びることは来年下期までない」と述べている。言うまでもなく、ワクチンが世界全体に行き渡るには時間がかかる。
米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長は、「ワクチン開発に成功しても大規模な接種および免疫力の確保には、少なくとも半年以上かかる。多くの人がワクチンの接種を受けて免疫力ができるのは、来年半ばか年末になるだろう」と述べている。
また、同氏は「7~8割の人が受けなければパンデミックはなくならない」とも述べているが、当然ながら、副作用の危険を冒して、早期のワクチン接種に積極的な人は多くない。
ウォール・ストリート・ジャーナルとNBCニュースが共同で実施した、最新の世論調査によると、米国において有権者の約70%がワクチンを接種すると回答したが、約半数はワクチンが入手可能になってからもしばらく待ち、大きな問題や副作用がないか確認したいと回答している。ワクチンが利用可能になり次第、接種を受けるとの回答は20%だった。最近のワクチン開発の動きで、株式市場などでは経済の先行きに対する楽観を強めている。
しかし、ワクチン開発に関する朗報が、
- 人々の行動を開放的にして感染を拡大させている可能性があるほか、
- 感染状況からみて本来すぐにでも実施されるべき行動抑制措置がとられなかったり、
- 米国などでは追加経済対策がどうしても必要といった危機感がなくなってきている、
など、足元の感染・経済状況をかえって悪化させている可能性がある。
IEAの原油需要見通しは、来年1~3月にかけて世界経済が足踏み状態になることを示唆するものであるが、「ワクチンが年前半中の経済回復に効かない」ことを考慮すると、足元の景気下振れリスクは大きく、足踏みというより、むしろ二番底の動きになる可能性が大きいのではないかと思われる。
今回のOPECプラス会合は減産延長の姿勢を打ち出すだろうし、それを好感して、原油価格は一時的に上昇する可能性があるが、実際に当面の原油需給を均衡させるためには、より一層の減産強化が必要になることも考えられる。
注目されるバイデン新政権の中東・エネルギー政策
より長い目でみた場合、原油需給に影響する要因としては、バイデン新政権の中東政策、エネルギー政策が、どのようなものになるかに注目される。1月5日のジョージア州の決選投票の結果次第だが、米上院では共和党が過半数を得る可能性が高い。
その際、共和党上院の抵抗により、バイデン新政権は予算や法案など、議会の権限の大きい分野での指導力を発揮できなくなり、大統領権限が大きい外交・通商政策などに力を入れるしかなくなる。そこで、まず、中東政策については、イラン核合意の行方が注目される。