米国の潜在GDPが1%程度に低下することも
世界経済は7~9月にV字回復したが、10~12月は再び停滞へ
世界経済はロックダウンや緊急事態宣言などにより4~6月に急降下したが、行動制限措置によって感染が抑制されたことで、7~9月には経済活動が再開され、V字に近い回復となった。
米国の実質GDPはコロナ前の昨年10~12月の水準を100とすると、今年1~3月98.7、4~6月89.9と低下したが、7~9月は96.5に持ち直し、コロナ前の水準に近づいている。ブルームバーグコンセンサス予想によれば、来年10~12月にはコロナ前の水準に戻ることになる。
同様に、ユーロ圏の実質GDPについては、コロナ前の昨年10~12月の水準を100とすると、
今年1~3月96.3、4~6月84.9と低下したが、7~9月は95.6に持ち直した。
ただ、北半球の各地域では気温低下の影響などもあり、再び感染が急拡大しつつある。すでに欧州の一部地域では部分的なロックダウン措置がとられている。米国や日本も例外ではない。
ワクチンが開発中とはいえ、効果や副作用についてはなお不明で、少なくともワクチン10~12月、来年1~3月の感染を抑制することはできないだろう。となれば、ロックダウンなどの行動制限措置に頼らざるをえない。
4~6月ほどではないにしても、世界経済は来年1~3月にかけて、再度の落ち込みを余儀なくされよう。米国のGDP水準がコロナ前に戻るのは、コンセンサス予想に比べ少なくとも半年程度遅れる可能性が高い。
景気後退後の需給ギャップは潜在GDPの下ぶれによって縮小する
さらに留意しなければいけないのは、GDPの「水準」がコロナ前に戻るということは、「経済成長率」がコロナ前に戻ることではない。
2015年の過去40年にわたる23の先進国に関するFRBエコノミストの実証研究では、深刻な景気後退は経済に持続的かつ相当な悪影響を及ぼすことが示されている。景気後退でGDPが減少することでによって、通常、需給ギャップ(実際のGDPとトレンドとの差)は拡大する。
そして景気後退が終わったあとは、今年の7~9月の景気のV字回復のように、実際のGDPがトレンドに比べて急速に増加し、需給ギャップが縮小していくと考えるのが普通かもしれない。
しかし、FRBの実証研究によれば、需給ギャップがどのように埋められていたかをみると、実際のGDPが元のトレンドに向かって大きく加速して需給ギャップが埋められるわけではない。
景気後退後の成長率は、以前より遅いということはあっても、速いことはほとんどないというのである。このため、需給ギャップは縮小するにしても、それは景気後退後の実際のGDPの急速な成長ではなく、潜在GDP(供給面からみたGDP)の下方修正という形で縮小する。
景気後退後も実際のGDPが急速に増加せず、トレンドと実際のGDPの差でみた需給ギャップはなかなか縮小しないことから、多くのエコノミストは供給過剰状態が続いていると考えてインフレ率を過少予測することが多い。
しかし、実は、潜在GDPの下ぶれによって、潜在GDPと実際のGDPの差でみた、本当の需給ギャップは縮小している。GDP成長率がさほど伸びていないのに、インフレ率が思ったより高いということが起こると、この実証研究は述べている。
今回のコロナショック後の米国の潜在GDPは1.0~1.2%に低下も
CBO(議会予算局)は定期的に米国の潜在GDP成長率を推計している。図1の通り、1950~73年が4.0%、74~81年が3.2%、82~90年が3.4%、91~2001年が3.2%、02~07年が2.5%、08~18年が1.6%、19年以降が1.9%と推計されており、次第に低下していっている。
また、前述したFRBの実証研究の通り、大きな景気後退をきっかけに潜在GDP成長率は低下していた。
潜在GDP成長率は、第1次オイルショックによる景気後退を境に4.0%から3.2%へと0.8%ポイント低下、ITバブル崩壊、同時テロによる景気後退を境に3.2%から2.5%へと0.7%ポイント低下、リーマンショックによる景気後退を境に2.5%から1.6%へと0.9%ポイントと大きく低下した。
一方、景気後退でも潜在GDP成長率が低下しないケースもあった。第2次オイルショック後の景気後退では潜在GDP成長率は3.2%から3.4%へとわずかながら上昇した。