リスクオフで円高になる理由を詳しく解説
香港上海銀行(HSBC)でチーフディーラーを務めた経験からの、相場をみるうえで重要なファンダメンタルズの知識を解説!
相場の世界でプロと一緒の土俵で取引をするには、やはり相場の知識が必要です。香港上海銀行( HSBC)で10年以上に渡りチーフディーラーを務め、プロも教育をしてきた筆者が、相場の知識をひとつひとつ解説していきます。
リスクオフで円高になる理由
「リスクオフで円高」ということを聞いたことがある方も多いと思いますが、その理由と背景を考えてみましょう。リスクオフという言葉は、リスクオンの対極の言葉になります。リスクオフは、別名リスクアバースとも言いますが、これは、信用収縮する動きのことを指します。
リスクオフとは⇒信用収縮の動き
リスクオフ(リスクアバース)⇔リスクオン
地政学リスクが台頭したり、北朝鮮がミサイルを打ったり、米国が中国を為替操作国認定した時に、信用収縮が起こり、株価・商品・原油などが売られます。その時には、円高が進み、クロス円が売られます。なぜこのような動きになるのか考えてみましょう。
円やスイスフランがリスクオフになると何が起きるか?
まず、結論から説明すると、円やスイスフランはリスクオフで買われます。その時によく安全通貨が買われたと言われますが、実際は安全通貨だから買われたわけではありません。
低金利の円とスイスフランは、ファンディング通貨(資金調達通貨)なので、こちらの巻き戻しが起きているだけなのです。低金利の円やスイスフランというのは、資金調達をするための手段としての通貨であり、借り入れをしていることになります。
ここは重要なポイントになります。リスクオフになると、特に日本やスイスという経常黒字国へ国際投資資金が回帰しているだけなのです。
巻き戻しとは?・・・通常、株価が上昇すると、買い持ちのポジションには評価益が発生します。投資家の損益が改善していることになり、リスク許容度が増加したことになり、事実上、さらなるリスク資産への投資が可能となります。
一方で、株価が下落した場合は、これとは逆の動きとなります。評価益が減少(または評価損が発生)することで、リスク許容度は低下します。リスク資産を手放さなければならず、発生する資金フローは既存のポジションを巻き戻す動きとなります。このことを「巻き戻し」または「アンワインド」と呼びます。
リスクオフの具体例
具体例を用いて説明します。
①日本は、世界最大の対外純資産保有国で、364兆円分の資産を海外に持っています。これがリスクオフの時には評価益が減少、または評価損が発生してくる可能性から巻き戻しが発生します。為替市場ではヘッジするニーズが生じ、どうしても円買いが起こってきます。
②1998年10月には、LTCMというヘッジファンドが破綻し、ドル/円が2日で25円の暴落をしました。これは、どちらかというと金利の低い通貨の円から資金調達をしてより高金利のドルを買うというキャリートレードが発生した訳です。この時は巻き戻しが起こっているだけで、こういう時の円買いは安全通貨でもなんでもないということになります。
キャリートレードとは?・・・一般的に、上述のように、金利の低い通貨で資金調達(ファンディング)してより高金利の通貨を買い建て、日々スワップ金利を狙っていく取引を指します。こうした場合、市場の変動率が小さいほどキャリートレードには有利で、より多くの投資家がキャリートレードに収益を求めることになります。
③2008年10月には、リーマンショックの後に豪ドル/円が1日で13円下落した日がありました。金融市場が動揺し始めるとこうした資金は一気に逆流、つまり巻き戻されることになります。この時は、金融派生商品(デリバティブズ)の巻き戻しから起こっており、この時の円買いも安全通貨でもなんでもないということになります。こうした取引は、市場環境に大きく左右されることに注意が必要です。
まとめますと、リスクオフの時に、「円やスイスフランは、安全通貨として買われた」と言われますが、これは安全通貨だから買われたのではなく、低金利の円やスイスフランをファンディング(資金調達)通貨として使っているためです。その巻き戻しが起こされただけということになります。
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