米大統領選の行方と追加経済対策の実現
世論調査などからみると大統領、議会ともに民主党勝利へ
11月3日の米大統領選まであと3週間と迫った。世論調査の動きから大統領選挙結果を予想しているファイブ・サーティエイトの10月8日時点の予測では、民主党バイデン候補が全米538人の選挙人中352人を獲得する見通しで、勝利確率は82.3%と述べている。
米大統領選挙では最終的に全米538人の選挙人の過半数270人を獲得できれば勝利する。有権者はまず共和党の候補、民主党の候補のいずれかを選び、その結果によって州ごとに共和党、民主党のどちらを支持するかが決まる。
カリフォルニア州が55人、テキサス州が38人、フロリダ州が29人というように、各州の人口に比例して選挙人が割り当てられており、例えば、カリフォルニアの有権者の民主党支持が共和党支持に比べ一票でも多ければ、バイデン氏はカリフォルニアの選挙人55人分の票をすべて獲得できる。
テキサス州の有権者の共和党支持が民主党支持に比べ一票でも多ければ、トランプ氏はテキサス州の選挙人38人分の票をすべて獲得できる。そうした方法で決まるため、全米での支持率は必ずしも、選挙に反映されない。
実際、4年前の大統領選挙では、米国全体でみると共和党トランプ氏が6,298万票、民主党クリントン氏が6,584万票と、民主党クリントン氏への得票が多かった。だが、選挙人獲得数でみると、逆にクリントン氏が227人に対して、トランプ氏が304人となり、トランプ勝利となった。
ほとんどの州は、カリフォルニア州が民主党支持、テキサス州が共和党支持というように、支持政党が伝統的に決まっている。このため、その時によって支持政党が変わる、いわゆる「スイング・ステート」が大統領選の結果を左右する。4年前の選挙では、比較的大きなスイング・ステートのうち、ミシガン州(選挙人は16人)、フロリダ州(同29人)、オハイオ州(同18人)などでトランプ氏が勝利した。
前掲、ファイブ・サーティーエイトの分析では、これら3州で、今回トランプ氏が勝利する確率は、ミシガン州が10%、フロリダ州が34%、オハイオ州が49%とトランプ氏にとっては不利な状況に変わっている。
バイデン氏にとっては、僅差のオハイオ州がだめでも、ミシガン州、フロリダ州が民主党支持に変われば、4年前のクリントン氏の選挙人獲得分227人に45人(ミシガン州分16人+フロリダ州分29人)が加わり、272人とすることができる計算だ。過半数の270人を上回り、バイデン氏勝利となる。
一方、大統領選挙と同時に、連邦議会では上院定数100議席のうち3分の1の33議席、下院が定数435議席全員が改選される。現在、上院では共和党が53議席とわずかにリードし、下院では民主党が232議席で多数党となっている。法案などが通過しにくい、いわゆる「ねじれ」が起きている。
だが、今回、賭けのサイトなど下馬評では、下院に加えて上院でも民主党が過半数をとり、逆転するという見方が優勢だ。こうした予想通りになれば、行政府の大統領、立法府の連邦議会上院、下院ともに民主党となり、「ねじれ」が完全に解消される。
市場は大型追加経済対策実現を期待。選挙後の混乱は懸念材料
こうした状況で、市場が期待するのは、民主党の主張する大規模な追加経済対策の実現だ。今春以降、米議会は新型コロナウイルスの感染の広がりに対応して、3兆ドル超の大規模対策を超党派で成立させてきた。ただ、対策の多くは期限付きのものだ。7月末には、失業給付に週600ドルを上乗せする特例措置が失効した。
トランプ大統領は、週400ドルを積み増す大統領令を出したが、10月には資金は枯渇する見込みだ。中小企業に対して事実上補助金を与える給与保護プログラム(PPP)は、8月上旬に申込期限が切れ、年末には支給期限も失効する。9月末には航空会社向けの約250億ドルの雇用維持策も失効した。こうした各種措置が期限切れとなれば、いわゆる「財政の崖」で景気が悪化するそれがある。
当初、民主党は2.4兆ドルの財政出動を提案し、これに対して共和党は5,000億ドル規模にとどめる独自案を主張していたが、規模の開きは大きく合意はできなかった。トランプ政権は折衷案として対策の規模を1.8兆ドルにまで引き上げたが、選挙を控えた政治的思惑もあって、民主党はトランプ案に反対の立場で、なかなか歩み寄りはできていない。
仮に、大統領、議会ともに民主党となれば、現在、民主党が主張するような大規模な対策が実施に移される可能性が高まるのではないかと市場は期待する。
一方、市場が懸念しているのは、選挙後の混乱だ。今回の選挙では新型コロナウイルス感染の広がりに対応して、郵便投票が増える見通しで、投票総数の約半分が郵便投票になるという見方がある。しかし、票の到着が遅れたり、郵便局の消印がなく無効票となったり、開票作業に手間取るということがあれば、選挙結果が判明するまでにかなりの時間がかかるおそれがあると言われている。
郵便投票の利用は民主党支持者に多いとされていることから、トランプ大統領は郵便投票は「不正が多い」と述べ反対している。トランプ大統領は「遅れて到着する郵便投票分を無効」などとして、法廷闘争にまで持ち込む可能性があり、そうした場合、混乱は避けられない。大統領が決まらない状況が続けば、追加経済対策どころではないかもしれない。
「ブルーウェーブ」は政府による介入を望む声の高まりを反映したもの
そうした不透明材料はあるとはいえ、民主党が大統領で勝利し、上下両院でも過半を占める「ブルーウェーブ・シナリオ」(民主党のイメージカラーは青)については抑えておく必要があるだろう。
共和党は「小さな政府」を標榜し、政府は民間の経済活動にできるだけ介入すべきではないと考える。これに対して、民主党は「大きな政府」を標榜し、政府は経済政策や社会福祉政策などに対しても積極的姿勢を取るべきと考える。積極政策のための支出が多くなり、そのための財源も必要なため、「大きな政府」になってしまうというわけだ。
今回の選挙で民主党支持が増えているのは、単に反トランプの立場の人が増えているというだけでなく、「政府が経済活動のなかでどういう役割を果たすべきか」という点で、これまでとは考え方の違う人々が増えているからだと思われる。時代の要請に従ったものといえなくない。
すなわち、格差拡大や地球温暖化に伴う自然災害の増加などの問題に対して、これまでのように政府は民間に任せて放置するのではなく、より積極的な役割を果たすべきだと考える人が増えている。
新型コロナウィルスへの対応という点でも、個人の自由を尊重しすぎれば感染は収束しにくい面があり、政府が必要な役割を果たすべきであると考える人が増えている。また、コロナショックは、低所得層の失業を増加させるなど一段の格差拡大の要因となっている。
パウエルFRB議長も6月の講演で「新型コロナウイルスによる景気の落ち込みが米国で長く続いてきた経済的格差の問題を悪化させ、低所得の労働者やマイノリティーに一段の苦しみをもたらしている」と述べている。
図1にみる通り、米国における所得格差(所得上位10%に当たる高所得層が全体の所得に占める比率)は1950~70年代はさほど大きくなかったが、1980年代以降、急速に拡大しており、今や1920~30年代以来の水準になっている。
10/12の「イーグルフライ」掲示板より一部抜粋しています。
全文を読みたい方は、イーグルフライ掲示板をご覧ください。