9月利下げはインフレとドル安につながる可能性

関税はボディブローのような形で米国経済にダメージを及ぼしつつある
米国経済はトランプ関税の影響を受けて、緩やかに減速している。
「4月からのトランプ関税がすぐに輸入価格上昇を通じて米国内物価を押し上げ、物価上昇のために国内消費が落ち込んで米国景気が悪化する」というのが、トランプ関税が米国経済に及ぼす影響についての当初のシナリオだった。
だが、実際にはそうならず、米国内物価は現時点では目立って上昇していない。当初の想定通りに米国経済が悪化していないことで、あたかもトランプ関税の影響が限定的で、米国経済は関税の影響を克服できているかのようにもみえるかもしれない。
だが、関税にもかかわらず、米国内物価が上昇していないのは、下記などが原因と考えられる。
- 関税がかかる前の1~3月の駆け込み輸入で、
関税がかかる前の安価な商品在庫が最近まで残っており、
ここまで、関税分を転嫁する必要がなかったこと、 - 関税は価格に転嫁されているが、
価格の値上がりによって販売数量が大きく落ち込むことを恐れて、
米国向け輸出メーカー、米国内輸入業者や小売業者が
関税分のコストを自ら負担して元の価格を引き下げ、値上げを控えていること、
4月以降の経済統計から、本当に、関税の影響が限定的なのか、米国経済は関税の影響を克服できているのか、を検証してみよう。
まず、GDP統計をみると、実質GDP成長率は2025年1~3月の年率マイナス0.5%から4~6月に同プラス3.0%へとプラス転換した。この数値だけをみると、トランプ関税は米国経済に全く悪影響を及ぼしていないかのようにみえる。
だが、1~3月のマイナス成長、4~6月のプラス転換の最大の原因は、1~3月の駆け込み輸入とその反動による4~6月の大幅輸入減だ。1~3月の駆け込み輸入は、1~3月の成長率を4.7%ポイント低下させ、その反動による4~6月の輸入の大幅減少は4~6月の成長率を5.2%ポイント上昇させた。
また、1~3月は駆け込み的な輸入増加(GDPの減少要因)により在庫が増加(GDPの増加要因)し、4~6月は駆け込み輸入の反動減(GDPの増加要因)により在庫が減少(GDPの減少要因)したことにも注意しなければいけない。
このため、GDPから輸出入と在庫投資を除いた数値(国内最終需要)が重要であり、その動きから、米国経済の実態を判断する必要がある。
その国内最終需要の伸びは、昨年7~9月の年率3.7%から10~12月同3.0%に鈍化し、25年1~3月同1.5%、4~6月同1.1%と徐々に減速している。
うち、個人消費は昨年7~9月の年率3.7%増、10~12月の同4.0%増から、25年1~3月同0.5%増、4~6月同1.4%増へと鈍化した。直近4~6月の個人消費の伸びは、25年1~3月に比べやや加速したが、昨年に比べると鈍化している。
これは、関税の影響というより、コロナ時にばらまかれた助成金による過剰貯蓄がなくなったことが影響していると思われる。前述した通り、関税は5月頃までは消費者物価をさほど押し上げていなかった。
だが、6月分の消費者物価統計をみると、パソコン(前月比1.4%上昇)、玩具(同1.8%上昇)、家電製品(同1.9%上昇)など輸入依存度の高い商品の価格が上昇している。
6月のエネルギー、食品を除くコア消費者物価は前月比0.2%上昇と、物価は全体として落ち着いているようにみえるが、これは自動車価格の下落が一因となっている。
自動車の新車価格は前月比0.3%下落、販売動向をより反映しやすい中古車価格は同0.7%下落した。需要の弱さが自動車価格の下落につながっているようだ。
自動車については、関税による自動車販売の減少を懸念して、日本の自動車メーカーなどは輸出価格を大幅に引き下げ、関税コスト上昇分を負担している。そうした動きも自動車価格を下落させたと考えられる。
また、設備投資は昨年7~9月の年率2.1%増から、10~12月に同1.1%減少し、25年1~3月同7.6%増、4~6月同0.4%増と一進一退の動きとなっている。
今年1~3月の設備投資増加は、関税の影響で投資財価格が4月以降値上がりすることを見越した駆け込み需要だったが、4~6月は駆け込みの反動に加え、不確実性の高まりが企業の投資姿勢に悪影響を及ぼしたと考えられる。
結局、関税は、当初想定されたような、関税分の価格転嫁による消費者物価上昇→消費の大幅な落ち込み、という形で、米国経済をノックアウトすることはなかったが、ボディブローのような形で、経済活動に少しずつダメージを及ぼしつつある。
この先は、関税分を国内物価に転嫁する動きが広がっていく可能性があり、経済活動へのダメージはより大きなものになっていく可能性がある。
移民抑制策による労働供給減少で、賃金上昇率が高止まっている
労働市場では、トランプ関税への対応やAI導入に伴う人員削減によって雇用(労働需要)が伸び悩む一方、トランプ政権の移民抑制策による労働力人口(労働供給)減少が問題になりつつある。
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2025/8/4の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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