世界が保護主義化すると考える4つの理由
リーマンショックを機にグローバル化の流れは逆転し始めていた
2000年代前半までは、国境を越えてヒト、モノ、カネが自由に行き来するグローバル経済化が進み、それによって世界経済は成長を遂げた。例えば、モノの貿易自由化について言えば、「比較優位の原則」に基づき、すべての国にはそれぞれ相対的に優位な産業がある。
このため、自由な貿易によってそれぞれの国が利益を受けることができる。国際分業によって世界全体の生産は拡大し、先進国、発展途上国の区別なく、貿易自由化は世界全体の所得を増やす効果がある。
自由貿易が世界全体の生産を拡大させるという貿易自由化の理論通り、リーマンショック直前の5年間(2003~ 07年)の貿易量の年平均の増加率は約8.5%に、同GDP成長率は5.1%に加速した(図1参照)。
しかし、リーマンショック以降、世界経済の成長率は減速し、つれて貿易量の伸びも鈍化した。両者の伸びはそれぞれ年率3%台に低下し、1980年代前半の水準に戻った。
リーマンショックは自由放任的な金融システムのなかで、金融機関が過度のリスクテイクを行ったことによって起こったとされ、これを機に自由放任主義に対する見直しの動きが強まった。
金融機関に対する規制強化が、企業の直接投資のための資金調達を難しくし、輸出などの際の貿易金融の信用収縮を招いたことで、国境を越えたカネやモノの移動が抑制されるようになった可能性がある。
このように、時期的にはリーマンショックがちょうどグローバル化の流れの大きな転機になったが、グローバル化が期待通りの成果をもたらさず、逆に、格差拡大などの副作用が強まったことが、徐々にグローバル化の流れを逆転させていった可能性もある。
いずれにしろ、今回のコロナショックの十数年前からグローバル化の流れは逆転し始めていたわけだが、今回のコロナショックで逆流は決定的なものとなったようだ。振り子は大きく逆に振れ、世界は保護主義化に向かう可能性が高い。
グローバル化がパンデミックの一因
以下の4点が、世界経済が今後、保護主義化するとみる理由だ。
第1に、パンデミックを予防するには、自由なヒトの行き来についてもブレーキをかけなければいけないかもしれない。
そもそも新型コロナウィルスが短期間で世界中に広がったのは、気候変動による生物の生息地域変化や都市部への人口集中といった長期的・構造的な環境変化に加え、ヒトやモノの国際的な移動の増加に伴い、ウイルスが世界的に広まりやすい状況になっていたためである。
14世紀の黒死病(ペスト)流行は、13世紀に開始したモンゴルの軍事行動とその後の大陸交易の活発化が一因とされる。
1918~20年のスペイン風邪流行は、第一次世界大戦で物資や人員の移動の活発化したことが一因だった。戦場における兵員の集中、前線での劣悪な衛生環境のほか、兵員の除隊に伴い感染が各地域に伝播した。
地球温暖化や都市部への人口集中といった構造的要因に変化がないとすれば、次の感染症によるパンデミックがいつ起きても不思議ではない。
今回のコロナウィルスによる感染が終息したとしても、コロナ以前のような国境を越えた自由なヒトやモノの動きは元に戻らない可能性があるし、次のパンデミックを予防するには、グローバル化にブレーキをかける必要もある。
医療品や食品などで多くの国が輸出制限措置を実施
第2に、コロナショックを機に、国や企業の行動は有事に備えた「守り」の姿勢に変わった。
これまでのような効率だけを重視したサプライチェーンは、今回のようなショックに対応できず、機能不全に陥ることがわかった。効率やコストを犠牲にしても、万一の場合に備えた、耐久力のあるサプライチェーンの再編が必要となっている。
また、今回のショックに際して、多くの国が医療品や食品などの輸出制限措置を導入し国際貿易に混乱が生じた。新型コロナウィルスが流行し始めた3月にフランスとドイツは、イタリアなどに対する医療物資・機器の輸出を禁止した。こうした輸出制限は仏独だけでなく、英国、韓国、ブラジル、インド、トルコ、ロシアなどに広がり、医療用品、医薬品に加えて食料の輸出についても制限した。
感染が幾分収まっていることでこうした輸出制限は緩和に向かっているが、万一の場合に備えた十分な国内在庫が確保でき、多角的な輸入先や国産品の確保が見込めない限り、今回のような事態に際して輸出制限が行われても不思議ではない。
反保護主義の政治的な意志が欠けている
第3に、保護主義に歯止めをかけようという政治的な意志が欠けている。
1930年の大恐慌時に、米フーバー大統領は国内産業を保護するため、輸入品に高関税を課すスムート・ホーレー法を制定し、対抗上、各国も一斉に高関税を課したため、世界貿易は急速に縮小した。
深刻な景気後退は保護主義を招きやすく、保護主義は景気悪化を深刻化させるおそれがある。景気悪化と保護主義の悪循環には何らかの形で歯止めをかけなければいけない。