今、世界経済が抱える問題とは?

米中覇権争い、企業のサプライチェーン再編、保護主義化への動きが世界の成長を低下させる
世界経済は昨年まで米国を牽引役に拡大基調を続けてきたが、今や、崖から転がり落ちようとしている。
トランプ関税が世界経済悪化のきっかけとされる。このため、もし、トランプ大統領が、ディールなどによって関税を撤回すれば、経済は再び成長軌道に戻るはず、との楽観論も聞かれる。
確かに、世界経済の抱える問題が、トランプ大統領の行動だけだとすれば、そうかもしれないが、実際には、そうではない。現トランプ政権が誕生する前から、世界経済の成長を阻害する要因が増え、歪みも拡大していた。
第1に、2017年からのトランプ政権第一期当時から、米中の覇権争いは激化し、国際情勢は大きく変化してる。
今回のトランプ関税は、米国が覇権争いに勝利するための手段の一つだと考えるべきだろう。
米国の国力は相対的に低下しており、もはや「世界の警察官」の役割を果たすことができなくなっている。
同盟国とは言え、安全保障のただ乗りは許されなくなっている。
「中国との覇権争いのなかでも、これまで通りの安全保障が必要なら、対米貿易黒字の大きさに応じて米国に協力すべきだ」というのがトランプ大統領の考えなのだろう。
したがって、輸入関税についても、ディールによって、同盟国に対する関税率が元通りに引き下げられたとしても、中国に対する関税率が元に戻ることはないだろう。
米中の覇権争いが世界経済に与える影響は明らかだ。米中両国はこれまで比較優位に基づく貿易によって相互依存し、双方ともに利益を得てきた。
しかし、両国間の覇権争いによって、こうしたウィンウィンの関係にひびが入った。国際的な分業に基づく生産の拡大、世界経済の成長は見込みにくくなった。
第2に、こうした米中覇権争い、コロナショック、ロシアのウクライナ侵攻などを機に、企業は世界のサプライチェーンを再編することを余儀なくされた。
2000年代前半頃までのグローバル経済下でのサプライチェーンは、いわば「効率」を最大限、重視したもので、生産性向上によって、世界経済の高成長・低インフレを実現させた。
しかし、ポストグローバル経済下のサプライチェーンは、地政学リスク、パンデミックリスク、戦争リスクなど多くのリスクに配慮しなければいけなくなった。
グローバル経済下でのサプライチェーンに比べると、現在のサプライチェーンは、強靭性はあるが、効率という面では明らかに劣る。生産性低下により、経済成長は低下し、インフレ率は高まらざるをえない。
米中覇権争いにより、企業は米国向けのサプライチェーンと中国向けのサプライチェインの2つを設けなければならないかもしれない。
また、コロナショック以前は、効率だけを重視したサプライチェーンを組めばよかったが、コロナショックを機に、企業の行動は有事に備えた「守り」の姿勢が必要で、万一の場合に備え、製造拠点を自国やその近くに移転するなど、効率やコストを犠牲にしてもショックに対応できるサプライチェーンが必要になる。
第3に、これまで当然のことと思われていた「自由貿易」が自明のことでなくなり、各国首脳の反保護主義化の姿勢も変わっていった。
保護主義的な方向に向かったのは米国だけではない。コロナショック当時、多くの国が医療品や食品などの輸出制限措置を導入した。
2020年3月に、フランスとドイツは、イタリアなどに対する医療物資・機器の輸出を禁止した。輸出制限は仏独だけでなく、イギリス、韓国、ブラジル、インド、トルコ、ロシアなどに広がり、医療用品、医薬品に加えて食料の輸出についても制限した。
世界的な保護主義化への動きが、今回のトランプ関税に始まったわけではないことは明らかだ。
2017年の第一期トランプ政権誕生とそれを後押しした米国世論、2020年以降のコロナショックなどによって、保護主義化に向けた潮流は、徐々に強まっていった。
リーマンショック時には、まだ、保護主義を阻止しようという、各国首脳の政治的姿勢がみられた。
2008年11月、米ジョージ・W・ブッシュ大統領はワシントンでG20サミットを開催し、保護主義を拒絶し、金融的に不透明な状況で内向きにならないことがきわめて重要であることを確認した。
その後、2017年7月のG20ハンブルク・サミットに至るまで、「保護主義と闘う」といった反保護主義の文言は、つねにサミットの声明に盛り込まれていた。
1930年の大恐慌時に、米フーバー大統領は国内産業を保護するため、輸入品に高関税を課すスムート・ホーレー法を制定し、対抗上、各国も一斉に高関税を課したため、世界貿易は急速に縮小した。
深刻な景気後退は保護主義を招きやすく、保護主義は景気悪化を深刻化させるおそれがあることを、今や誰もが忘れているかのようだ。
米国では取得格差拡大の歪みが経済成長に悪影響を及ぼし始めた
世界経済を牽引していた米国経済でも歪みが拡大しており、それが限界に差し掛かろうとしている。
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2025/4/28の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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