米国の「最大限の圧力」にさらされるイラン

3月19日、トランプ米大統領は、ホワイトハウスで石油業界幹部と会談した。この会談の背景には、19日付ニューヨークタイムズ紙が報じた「石油業界のトランプ氏の関税政策への不満」がある。
トランプ大統領は、石油・天然ガスの採掘促進をはかっているものの、同政権の関税政策により、(1)開発資材価格の高騰、(2)カナダからの原油輸入量の減少でガソリンなどの石油製品の生産に懸念が生じている。
米国の石油・天然ガス開発企業は、原油価格が1バレル当たり80ドル以上にならないと生産投資に踏み切れないと言われているが、3月24日の時点でWTIの原油先物価格は1バレル当たり68ドル台にとどまっている。
トランプ政権の政策について、米国内では、インフレ再燃の懸念、不法移民政策の不確実性など景気の下振れ要因が指摘されはじめている。
また、トランプ政権の対イラン政策や、イランと関連するイエメンのフーシ派やイラクなどをめぐるトランプ政権の対外政策が、エネルギー価格に大きな影響を与える可能性もある。
そこで、以下では、トランプ政権の対イラン政策について考察する。
米国のフーシ派に対する攻撃
まず、イエメンのフーシ派へのトランプ政権の対応について検討する。
3月11日にイスラエルによるガザ地区封鎖に対抗し、紅海やアデン湾を通行するイスラエル船への攻撃を再開すると表明した。
これに対し、トランプ大統領は、自身のソーシャルメディアで、「フーシ・テロリストへ、ここまでだ、今日攻撃を止めなければならない」「止めなければ、今まで見たこともない地獄の雨が降り注ぐだろう」と警告した。
その言葉通り、3月15日、同大統領はフーシ派に対する大規模な軍事攻撃を命じた。翌16日には、CBSテレビで、ルビオ国務長官が、商船を攻撃する能力がなくなるまで空爆は続くと述べた。
3月17日、ロイター通信は、フーシ派保健省の発表として、この空爆によるフーシ派側の被害は、死者53人、負傷者98人と報じた。
今回の米軍の単独空爆についての国際世論の反応は分かれている。
ひとつは、フーシ派による船舶への攻撃で紅海ルートが十分活用できず、南アフリカの最南端を通過する迂回ルートへの変更を余儀なくされている世界の海運の難局が打開できるとの楽観的論調である。
もうひとつは、トランプ大統領がイランに対し、「フーシ派への支援を直ちに停止する必要がある」と述べ、イランが米国を脅すようなことがあれば「全責任を負わせる」と警告したことを懸念する見方である。
この懸念は、米国防総省のパーネル報道官が、記者会見でイランに対する直接攻撃の可能性を問われ、「全ての選択肢が机上にある」と直接攻撃も排除しない姿勢を示したことで、さらに高まった。
一方、このようなトランプ政権の一連の発言に対し、3月21日、イランの最高指導者ハーメネイ師は「米国は大きな間違いを犯している」として、イランとイエメン関係について次のように反論している。
「イエメンにはイエメンの動機があり、地域の抵抗勢力にはそれなりの動機がある」のであり、「イランは代理勢力を必要としない」。米英などのグローバルメディアは、「抵抗の枢軸」と呼ばれるパレスチナのハマスやイスラム聖戦、レバノンのヒズボラ、イエメンのフーシ派などは、イランの代理勢力だと説明している。
しかし、多くの中東研究者は、各組織のイスラエルに対する抵抗活動の背景には、主にそれぞれの国内問題と支持基盤の存在があると指摘しており、反イスラエルという共通の主張だけで全てがイランの指示で動いているとの主張には無理がある。
このため、トランプ政権がフーシ派の行動の責任をイランに押し付けようとしているのはなぜかを改めて検討する必要があるだろう。
トランプの中東戦略の目的はイラン
3月12日、ハーメネイ最高指導者は、UAEのガルガシュ特使がイランのアラグチ外相に届けたトランプ大統領の書簡を受け取り、イラン外務省が、17日に書簡の「評価を終えたら返答する」と発表している。
この件について、米ニュースサイトのアクシオス(3月19日付)は、米政府関係者らの話として、書簡には、新たな核合意を結ぶまでの期限は「2カ月」と書かれていると報じた。
また、ロイター通信(3月20日付)は、イスラエルのダーマー戦略問題担当相、ハネグビ国家安全保障問題顧問らが、トランプ政権とワシントンで、(1)米国・イラン核協議の可能性、(2)イランに関連する地域問題について協議すると報じている。
このような報道が流れるなか、イランのアラグチ外相は、3月20日に国営テレビで、トランプ政権の対イラン政策に関する限り「時代は変わっていない」と述べ、イランの核開発およびミサイル技術の高度化阻止を目標とし、イスラム体制の崩壊を目指すイスラエルの戦略への米国の協調に変更がないとの認識を示した。
アラグチ外相の発言の背景には、2月12日のウォールストリート・ジャーナル紙とワシントン・ポスト紙、14日のCNNニュースが、半年以内にイスラエルがイラン核施設を攻撃するとの分析や、イスラエルの最終目的はイスラム体制の転覆だと報じたことがあるといえる。
ただし、米国の軍事分析では、これまでも、イスラエル軍によるイラン核施設への攻撃はシナリオのひとつとして挙げられてきた上、仮に攻撃したとしてもイランの核開発を少し遅らせるだけで、完全に止めることはできないと指摘されている。
また、2月13日、同月24日には米財務省がイランの石油輸出関連に経済制裁をかけたことも、トランプ大統領の書簡に対するイランの懐疑的な見方の要因といえる。
なにより、米国のベッセント財務長官が3月6日、ニューヨーク・エコノミック・クラブの演説で、第2次トランプ政権の対イラン政策について、「最大限の圧力」を行使するとして、「石油産業と無人機製造能力を閉鎖し、イランが国際金融システムにアクセスすることをさらに不可能にするつもりだ」と述べている。
3月22日、トランプ大統領の書簡をUAEに届けたウィトコフ中東特使は、「トランプ大統領は、イランとの信頼関係を築きたいと思っている」と語ったが、翌23日には、ハーメネイ師への新たな核合意交渉を呼びかけた書簡は軍事行動を回避するためであるとした上で、対話が不可能であればその「代替案は素晴らしいものではない」と述べている。
こうしてみると、トランプ政権は、イランが新たな核協議を受けないと読んだ上でハーメネイ師に書簡を送り、マスメディアに直接交渉を呼びかけていることをリークしたのではないかと考えられる。
そして、「代替案」としての軍事攻撃の対象は、核施設ではなく、イラン経済にとって大打撃となる石油積出施設、武器製造施設、電気や鉄道などの経済インフラなどが想定できる。
ただし、交渉ができないからといって直ちに軍事行動に移行することは、国内外からの厳しい批判が避けられない。
そのため、トランプ大統領が述べたように、イランがフーシ派の船舶攻撃を止められない場合、「イランは責任を問われ、その結果は悲惨なものになる」という米国によるイランに対する軍事攻撃の筋道が用意されたとの見方ができるだろう。
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メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。
(この記事は2025年3月24日に書かれたものです)