トランプトレードの賞味期限は?
トランプ再選で株高、債券安、ドル高になるのは、どういう理屈か?
米大統領選挙では、トランプ氏が予想以上の差で勝利した。
米金融市場では、選挙前からトランプ氏が優勢とみた投資家による、株買い、債券売り、ドル買いの「トランプトレード」が活発化し、この動きは今なお続いている。
トランプ氏はビジネス重視であり、金融機関などに対する規制緩和策が経済を押し上げると言われる。
また、議会選挙では上院、下院とも共和党が優勢であり、トランプ減税の延長や法人税率引き下げなど、トランプ氏の公約通りの、財政面からの景気刺激策が実施されそうなことも、米国景気を押し上げる要因になると考えられている。
米国経済は、現状でも、2%程度とされる潜在成長率を上回る、ややスピード違反気味の成長を続けている。
すでに過熱気味に成長している経済が、一段と加速することは、確かに、株高要因になるかもしれない。
債券について言えば、景気がやや強すぎる状況であることから、ここまで沈静化の動きを続けていたインフレが下げ止まっている点が債券安(金利高)要因になっている。
また、トランプ氏が公約に掲げる、移民の流入抑制は労働需給を逼迫させ、輸入関税率引き上げは輸入品価格を上昇させる。
これらの政策も、インフレ率を押し上げる。インフレの加速は、金利を上昇させ、債券価格を下落させる要因になる。
最後に、ドル相場について言えば、米国景気の強さと米金利上昇(債券価格下落)はドル高をイメージさせる。
加えて、米国の輸入関税率の引き上げは、米国の輸入減少→貿易収支改善を通じて、ドル高につながる可能性がある。
トランプトレードでは、輸入関税引き上げと移民流入抑制が及ぼす悪影響が過小評価されている
もちろん、以上のような、
(1)米国経済の成長促進→株高
(2)インフレ加速→債券安
(3)強い米国経済、米長期金利上昇と輸入関税率引き上げ→ドル高
という見方が一面的であることは、少し考えればわかるだろう。
まず、このトランプトレードでは、米国の輸入関税率引き上げや移民流入抑制策が経済に及ぼす悪影響がほとんど考慮されていない。
米国が輸入関税率を引き上げれば、例えば、これまで米国で使われていた、中国の最新鋭設備で作られた鉄鋼製品が使えなくなり、米国内の旧式の設備で生産された割高な鉄鋼製品が使われるようになるかもしれない。
それは、一時的に米国の鉄鋼業を復活させ、確かに、米国景気を押し上げるかもしれない。だが、中国製の安くて良質の鉄鋼を使って利益を上げてきた米自動車業界にとっては、それはコストを増加させるだけで、米国内で生産した品質の悪い鉄鋼を使って製造された自動車であるにも関わらず、コスト増分を販売価格に転嫁し、値上げしなければならない。
このように、輸入関税率引き上げは米国経済全体にとっても、明らかにマイナスに作用する。
本来、落ち目で、いわば比較劣位産業だった鉄鋼業が一時的に復活することで、鉄鋼業の雇用が増加するかもしれない。
だが、その分、情報産業など比較優位産業の雇用が減少するだろう。本来進むべき雇用の流れが逆流することは、米国の長期的な成長力を低下させる。
このように、比較劣位産業を保護するための「輸入」関税率引き上げは、結局、比較優位産業の成長を妨げる「輸出」関税率引き上げと同等の効果を生むというのが、国際経済学の常識だ。
また、実際問題から言えば、米国が輸入関税率を引き上げれば、米国への輸出がしにくくなる国は、それに対抗して、報復関税をかけるだろう。
それは、米国の輸出減少につながり、米国経済を悪化させる。
もし、報復関税措置が実施されなかったとしても、米国の輸入関税率引き上げによる米国向け輸出減少が米国以外の各国の景気を悪化させれば、世界経済悪化という形で、米国に跳ね返ってくるだろう。
さらに、2018~19年時の経験では、トランプ氏の関税引き上げ政策が尋常でなく、その不確実性が製造業を中心とした企業の設備投資を妨げる要因になった。同様に、不確実性の高まりに伴う企業の設備投資抑制は今回も起きる可能性がある。
一方、移民の増加はこれまで米国内での労働需給を緩和し、賃金インフレを抑制する要因になっていた。
言い換えれば、移民増加による労働力人口増加が米国経済の潜在成長力を押し上げる役割を果たしてきた。
もし、トランプ氏が公約通り、移民の流入を抑制すれば、米国内の労働需給が逼迫し、賃金インフレを加速させるだろうし、潜在成長力低下を招くことになる。
輸入関税率引き上げと移民流入規制が、米国景気に悪影響を及ぼし、インフレを再燃させることは間違いない。
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2024/11/11の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。