日銀の金融正常化を阻む4つの要因
市場関係者や多くのエコノミストは依然として日銀は利上げできないとみている
日銀はインフレ目標の達成を前提に、金融正常化に向け、現在の金融緩和環境を徐々に修正していく意向だ。
7月の「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)によれば、日銀の物価見通しについては「消費者物価(除く生鮮食品)の前年比が、2024 年度に2%台半ばとなったあと、2025 年度および 2026 年度は、概ね2%程度で推移する」とされている。
2024年度時点で、すでに目標となる消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は2%を超えているが、これは輸入物価上昇によるコスト面からの物価上昇圧力による部分が残っているため。
基調的な物価上昇率はまだ2%以下であり、25~26年度には、基調的な上昇率も2%に達するというのが、日銀の認識だ。
展望レポートでは、物価見通しについて次のように述べている。
既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰する一方、2025 年度にかけては、政府による施策の反動等が前年比を押し上げる方向に作用すると考えられる。
この間、消費者物価の基調的な上昇率は、マクロ的な需給ギャップの改善に加え、賃金と物価の好循環が引き続き強まり中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくと予想され、見通し期間後半には『物価安定の目標』と概ね整合的な水準で推移すると考えられる
この物価見通しを前提に、展望レポートでは金融政策について次のように述べている。
現在の実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえると、以上のような経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく
植田日銀総裁自身も、すでに4月の金融政策決定会合後の記者会見で「見通し期間の後半にかけてのどこかでは基調的な物価上昇率が目標の2%に達するのではないかと思っている」「(そうなれば)政策金利は概ね中立金利水準になっている」と述べていた。
ここで述べた「中立金利の水準」について、植田総裁は「狭い範囲に絞り切れていない」としている。
ただ、仮に、自然利子率(実質中立金利)が、2024年4月の展望レポート(BOX5)の「わが国の自然利子率推計値」で示されているように、概ねマイナス0.5%~ゼロだとして、そのうえで2%インフレが実現できているとすれば、その時の名目中立金利は1.5%~2%になる。
見通し期間の後半(25年度後半~26年度)にかけての約2年間(24か月)で、4月時点のゼロ金利を1.5%~2%程度(0.25%利上げを6回~8回程度)引き上げていくとすれば、3~4か月間に0.25%のペースで、政策金利を引き上げていくことになる。
こうした植田総裁の発言を率直に読み取ると、3月にマイナス金利を解除した日銀が、7月に再利上げを行うことは容易に想像できたことになる。だが、多くのエコノミストや金融市場は、こうした比較的速いペースでの利上げは難しいと考えていたし、いまだに考えている。
7月の再利上げは全くのサプライズだったとし、市場とのコミュニケーションが足りないと日銀を批判した。
多くの市場関係者やエコノミストは、以下の要因が、日銀の金融正常化を妨げるため、再利上げは難しいと考えているようだ。
- ここへきて新たに浮上している要因として、
米国経済悪化のリスク、円高が日本の株式市場を混乱させるリスクがある、 - 植田総裁が、中立金利の水準について
「狭い範囲に絞り切れていない」とも述べている通り、
中立金利の水準がさほど高くない可能性がある、 - 日銀は「物価上昇を反映した賃上げが実現するとともに、
賃金上昇が販売価格に反映されていくことを通じて、
賃金と物価の好循環は引き続き強まっていく」としているが、
来春以降も大幅な賃上げが続き、それに伴って物価上昇も続くのかが不透明、 - また、日銀は「賃金と物価の好循環」を目指しているようだが、
賃金上昇を伴った物価上昇が続いたとしても、
「好循環」が実現するかどうかについて疑問視されている、
日銀の金融正常化を妨げる要因として、しばしば取り上げられる、以上4つの要因について、それぞれ本当に利上げを妨げる要因足りうるかについて考えてみる。
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2024/10/7の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。