AIバブル崩壊によるリセッションか?
唐突なリセッション入りの見方が強まっている
米国経済については、つい最近まで、ソフトランディングに向かうというのが、コンセンサスだった。このソフトランディング・シナリオのもとに、米国株は「ゴルディロックス」状況での上昇傾向を続けた。
筆者はもともとソフトランディング・シナリオには懐疑的で、7月上旬の本レポート「米国経済は崖っぷち状態か?」で、「米国経済は『ゴルディロックス』というより、崖っぷちにあるとみた方が良いのではないか」と述べていた。
https://real-int.jp/articles/2594/
ところが、市場では、ここへきて、唐突に米国経済がソフトランディングではなく、リセッション入りするのではないかとの懸念が強まった。
しかも、不可解なことに、後述する通り、この1か月間で発表された経済指標はむしろ米国経済の堅調さを示す内容だった。にもかかわらず、リセッション懸念だけが高まった。
そうした点で言えば、経済指標の悪化を予想していた筆者の見方が当たったわけではない。
リセッション入りを見越してか、S&P500種株価指数は8月5日に一時、5,186と7月16日の高値5,667から8.5%下落した。
FF金利先物市場では、年内1%以上の大幅利下げを織り込んだ水準になっている。
差し迫ったリセッション懸念の高まりから株価は下落し、リセッションに対応して大幅利下げが実施されるというシナリオだ。
サームルールがリセッション入りの根拠とされるが、失業者の増加は労働力人口増加によるもの
ここ1か月間で発表された経済指標は、リセッション入りを想起させるほど悪くない。
全体としては、1か月前よりも良好で、むしろ景気の堅調さを示すものだった。
株価が高値をつけた7月16日に6月の小売売上高統計が発表されたが、前月比0.3%減の事前予想に対して、実績は前月比横ばいだった。
その後も6月の住宅着工は事前予想の130万戸に対して実績は135万戸、鉱工業生産は事前予想の前月比0.3%増に対して実績は同0.6%増だった。
さらに、4~6月の米GDP成長率は個人消費、設備投資などが好調で、事前予想の前期比年率2.0%に対して、実績は年率2.8%と、3%近い成長になり、前期の同1.4%から加速した。
確かに8月に入って発表された7月のISM製造業景気指数は前月に続き悪く、また、失業率は上昇した。
7月のISM製造業景気指数は46.8と前月の48.5から低下し50割れとなった。だが、ISM非製造業景気指数は51.4と前月の48.8から上昇し、50を上回った。
ISM景気指数によれば、6月時点では製造業だけでなく、サービス業の景気も指数が50割れで、景気が悪化していることを示唆するものだった。だが、7月はサービス業の景気が底堅いことを示す数字になった。
また、7月の失業率上昇は、表面上、リセッション入りを想起させる数字だったが、詳しくみた内容は、それだけでリセッションと断定するほど悪くない。
7月の雇用統計によれば、非農業雇用者数は前月比11.4万人増と2020年12月(24.3万人減)以来の低水準になった。7月の失業率は4.3%と前月の4.1%から上昇した。
元FRBエコノミストのクラウディア・サーム氏が提唱した景気後退の早期警告指標である「サームルール」によれば、失業率の3か月移動平均が過去12か月の最低値から0.5%上昇した時にリセッションが示唆される。
1950年以降の景気後退11回のうち10回がこのサームルールで説明できた。
今回、直近5~7月の平均失業率は4.13%となり、過去12か月の最低値である23年7月の3.5%に比べ0.53ポイント上昇した。
同ルールから言えば、リセッション入りのシグナルが点灯したことになる。だが、通常、景気後退時には減少に転じてもおかしくない非農業雇用者数は、小幅ではあるがなお増加している。
失業率上昇という指標からは、就業者が減少して失業者が増加していることを想像させる。だが、そうではない場合もある。
7月の失業者数(労働力人口-家計調査による就業者数)は、前月に比べ35万人増加、昨年7月に比べ126万人増加した。
だが、家計調査による就業者数は前月に比べ7万人増加、昨年7月に比べ6万人増加している。
つまり、失業者の増加は就業者の減少によるものではなく、労働力人口の増加が原因だ。
移民の増加などによって、7月の労働力人口は前月比42万人増加、昨年7月に比べ132万人増加した。
サームルールを根拠にリセッション入りを予想することは無理がある。
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2024/8/12の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。