「物価と賃金の好循環」がなくても利上げは可能か?
賃金上昇を伴った持続的な2%超の物価上昇が始まりつつある
6月28日に発表された6月の東京都区部・消費者物価は、「生鮮食品を除く総合」が前年比2.1%上昇し、前月の1.9%から上昇率が加速した。
伸びが加速したのは、「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」も同じで、6月は前年比1.8%上昇し、前月の1.7%から伸びが加速した。
6月の前年比上昇率が加速したのは、下記事象などが理由だ。
1.都市ガス代などエネルギー価格の上昇加速
(5月前年比5.9%下落→6月同7.5%上昇)
2.ルームエアコンなど家庭用耐久財の上昇加速
(5月同4.1%上昇→6月同7.8%上昇)
3.宿泊料の上昇加速
(5月同14.7%上昇→6月同19.9%上昇)
エネルギー価格の上昇加速は、政府の電気・ガス代抑制策が縮小されたことによる。このエネルギー価格の上昇加速は、消費者物価全体を0.09%ポイント上昇させた。
また、ルームエアコンなど家庭用耐久財の上昇加速は、季節的な要因もあるだろうが、家庭用耐久財の多くは海外で生産され、輸入に依存しているため、円安が影響している可能性がある。
さらに、宿泊料については、インバウンド需要が盛り上がるなかで、年率二ケタ台の高水準な上昇が続いている。
円安により外国人旅行者が高めの宿泊料での宿泊が可能になっていること、やはり円安により日本人の海外旅行代金が値上がりしていることに加え、人手不足による人件費増加が影響している可能性がある。
東京都区部の前年比上昇率は2%を幾らか上回る水準だが、高校授業料や公立小中学校給食の無償化により0.2%ポイント、縮小されたとはいえ政府の電気・ガス代抑制策の効果が残っていることにより0.2%ポイント押し下げられている。
したがって、こうした一過性の物価押し下げ要因を除いた、実勢としての消費者物価の前年比は、2%台半ばになっているとみられる。
また、賃金から物価への転嫁が起きているかという点で、日銀が注目し、全体の6割弱を占めるサービス価格については、家賃や帰属家賃を除く、民間の一般サービスを中心に2%超の物価上昇が起きている。
サービス全体のうち公共サービス以外の民間の「一般サービス」については、(1)外食、(2)家賃及び帰属家賃、(3)他のサービス(家事関連・医療福祉・教育関連・通信教養娯楽関連サービスなど)に分けられる。
このうち、外食は5月の前年比2.4%上昇から6月には同2.7%上昇と上昇テンポが加速した。
家賃及び帰属家賃については、消費者物価全体の約4分の1という大きな比率を占めるが、後述するような下方バイアスがあるため、数値を鵜呑みにすることはできない。
「他のサービス」については、宿泊料の値上がりの寄与により、5月の前年比2.3%から6月には同2.6%上昇と上昇テンポが加速した。
消費者物価統計で示される、このような消費者向けのサービス価格が前年比2%台半ばで上昇しているほか、日銀が発表する企業向けサービス価格も前年比2%台半ばでの上昇が続いている。
結局、賃金から物価への転嫁という点で注目されるサービス価格の上昇テンポは、すでに2%台半ばに加速していると言っていいだろう。
東京都区部の消費者物価の動きから言えば、全国消費者物価は「生鮮食品を除く総合」で、5月の前年比2.5%上昇から6月は同2.7%程度へと伸びが加速すると見込まれる。
現在の物価上昇は、昨年までの原油高などによる輸入物価上昇に起因する物価上昇から、賃金上昇によるサービス価格上昇に変わってきており、さらに、ここへきては円安による物価押し上げ効果が加わりつつある。
このような物価動向は、日銀の追加利上げの十分な根拠になっている。
ちなみに、一般サービスの半分以上を占める「家賃」及び「持家の帰属家賃」については、経年劣化(品質調整)が行われておらず、そのために6月の東京都区部における物価上昇率は家賃が前年比0.6%、帰属家賃が同0.5%と低めに計算されている。
家賃の経年劣化影響を推計した総務省統計局の試算によると、品質劣化が家賃前年比に与える影響は0.7~0.8%ポイントとされており、その計算から言えば、調整後の家賃、帰属家賃は少なくとも前年比1.2~1.4%になる。
一方、アットホーム株式会社と株式会社三井住友トラスト基礎研究所が計算し、品質調整調整済みの数値である、マンション賃料インデックスは、東京都区部の今年1~3月に前年比4.0%上昇している。
この上昇率は、消費者物価の家賃や帰属家賃を3.4~3.5%ポイント程度と大幅に上回る。
結局、東京都消費者物価全体の24%と非常に大きな部分を占める、家賃及び帰属家賃は、経年劣化による調整が行われていないため、消費者物価上昇率を実態より低い数字になっている。
この調整を行なった場合、最低でも消費者物価上昇率を0.2%ポイント(≒0.7~0.8%×0.24)、最大0.8%ポイント(≒3.4~3.5%×0.24)程度上昇率を押し上げることになる。
一時的要因を除く実勢としての現在の消費者物価前年比は2%台半ばと述べたが、家賃、帰属家賃の下方バイアス分を調整すれば、3%近い数値になっていると言える。
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2024/7/1の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。