対日投資ブームは一時的か
海外IT企業による対日投資の報道が相次ぐが…
2021年7月のTSMCによる熊本の半導体工場建設(投資額は75億ドル)を皮切りに、世界的なIT企業などによる対日投資に関する威勢の良い報道が相次いでいる。
その後の主な報道を拾ってみよう。
2023年5月18日に、岸田首相は首相官邸で海外の半導体大手メーカー幹部と面会し、日本への投資拡大や日本企業との連携を呼びかけ、これに出席していた米マイクロン・テクノロジーは、日本政府による支援を前提に、広島工場に最先端の半導体を製造するための設備を導入し、開発と量産のための投資として、最大5,000億円の対日投資を表明した。
24年に入ると、1月に、米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)が、東京と大阪のクラウドインフラ(データセンター群の建設)への投資「2023~27年の5年間で2兆2,600億円」計画を発表した。
4月9日には、米マイクロソフトが今後2年間で日本に29億ドル(約4,400億円)を投じ、AIのインフラ強化などに乗り出すことが分かった。
さらに、4月17日には、米オラクルは日本のクラウドコンピューティングおよびAIインフラに今後10年で80億ドル余りを投資する計画を発表した。
このように、海外IT企業による対日投資案件が増えている背景には、政府の後押しがある。
新型コロナウイルスの感染拡大で巻き起こった半導体不足もあって、「国民生活や産業に不可欠な存在であるとともに、デジタル社会およびグリーン社会を支える重要な基盤」として半導体などが特定重要物資に指定された。
経済安全保障確保のため、半導体の安定供給体制の構築とサプライチェーンの強靱化が推進されており、これに該当する投資案件には多額の補助金が拠出されることとなった。
例えば、2024年に稼働したTSMCの熊本第1工場への総投資額は9,800億円だが、日本政府はこのうち最大4,760億円を補助している。
27年稼働予定の第2工場にも約5700億円から助成金が充てられる見込みだ。
対内直接投資の規模は依然、対外直接投資の9分の1~7分の1程度
このような威勢の良いニュースが相次ぐ状況であれば、「対外」直接投資に対して著しく低迷している日本の「対内」直接投資全体も盛り上がっていくのではないかと期待したいところだ。
だが、実際の数字は、日本の対内直接投資が依然として低迷していることを示している。
対内直接投資(ネットの資金流入額)をみると、2019年4.4兆円、20年6.7兆円、21年3.8兆円、22年6.3兆円、23年2.9兆円とさほど増加している様子はみられない。
短期的な振れの大きい「負債性資本」(資本関係にある企業間の資金貸借などを表す)を除いたベースでみても、19年2.6兆円、20年1.6兆円、21年4.3兆円、22年4.7兆円、23年3.1兆円となっており、21年から22年にかけて増加したが、23年にはやはり減少している。
現時点で発表されている、直近24年1~2月の累計値をみると、全体で2.2兆円の流出超過、負債製資本を除いても1.9兆円の流出超過となっている。
この数字をみる限りでは、対内直接投資が全般的に増えているようにはとても思えない。
これに対して、23年の対外直接投資は全体で25.7兆円、負債性資本を除いて21.7兆円と高水準だ。
日本企業の対外進出は依然として旺盛だ。
図1は、対内・対外直接投資の名目GDP比の推移をみたものだ。
これをみると、2010年代初め頃の対内直接投資の対GDP比はほぼゼロ近辺で推移していた。
その後、2010年代半ば頃から同比率は幾分上向く様子がみられ、2020年、22年にはGDP比で1%超えまで高まる局面があったが、23年は0.5%と再び低下した。
これに対して、対外直接投資の対GDP比は概ね上昇傾向が続いている。
結局、現在でも対内直接投資の規模は対外直接投資の9分の1~7分の1程度の水準にとどまっている。
対内直接投資低迷の背景にある人口減少と非関税障壁は一朝一夕に改善しない
高水準な対外直接投資の背景には、人口減少などから日本の国内市場のパイが縮小することを予想して、日本企業が生き残りをかけて海外へ進出、海外で活路を求めようとする動きがあることは間違いない。
一方、・・・
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2024/4/22の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。