プロも知らない不動産の価値 事故物件編
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有名な事故物件サイト 大島てる
今の若い人は、賃貸住宅を決める時、「大島てる」というサイトで事故物件かどうかを調査する人が増えています。
大島てる
https://www.oshimaland.co.jp/
このサイトで、入居予定の部屋で過去、自殺や他殺などの事件があった場合、分かるのです。
事故物件とは
事故物件には、いくつかの分野がありますが、ここでは、自殺や他殺など精神的、心理的に抵抗がある物件を取り上げます。
精神的・心理的に問題となる不動産の「傷」のことを「瑕疵・かし」という言葉を使います。
そして、その程度によって不動産価格が低減することになります。
つまり、不動産の価値・価格は瑕疵・かしによって変わってくるのです。
不動産業界の転換点
1995年、日本の不動産業界に大きな転換となる事件がありました。
日本で初めて暴力団事務所が隣地にある不動産の精神的(心理的)瑕疵(かし・傷)が認められたのです。
1995年の事件とは、ある人が不動産会社から4メートル道路の角地の土地を買いました。
住宅を建てるためです。
ところが、購入後、反対側の建物が暴力団事務所だったことに気付きました。
4メール道路の向いの建物というのは、かなり近いです。
当時は暴力団関係の法律が厳しくなり、暴力団の金看板を出さなくなくなったので、買主は、その存在に気づかなかったのです。
購入後、怪しい人たちが目の前の建物に出入りしていたことで、それが暴力団事務所だったことに気付きました。
裁判となった
買主は土地の目の前に暴力団事務所があることを告知受けていなかったことで売主にクレームを主張しましたが、売主は取り合いません。
そこで、買主は売主の不動産会社を訴え、裁判になりました。
不動産取引では購入前に物件の説明をする必要があります。
暴力団事務所が目の前にあることは、重要事項説明書という書面で明記し、それを口頭で説明する必要があるはずなのに、それが無かったからです。
告知義務違反といいます。
暴力団事務所が目の前にあることを知っていたら購入しないからです。
この画像は暴力団事務所の画像ではありません。
当時、精神的瑕疵という概念が無かった
今だと、信じられませんが、1995年当時は、不動産鑑定に精神的瑕疵という概念がありませんでした。
不動産鑑定の世界では、暴力団事務所が目の前にあっても減価要因にならなかったのです。
つまり、不動産鑑定士が鑑定しても普通の土地と同じに評価されてしまうのです。
被告、売主の不動産会社の弁護士は不動産鑑定士を3人つけてきました。
原告、買主の弁護士は、不動産鑑定士を付けても不動産鑑定の世界では戦えないので私に依頼がありました。
当時、不動産コンサルタントや仲介業務も行う実務家だったからです。
裁判官の心象に響くレポート
現地に行き、裁判官が納得いくような詳細な状況レポートと、価格について鑑定しました。
裁判は裁判官の心象で決まるから、このレポートは極めて大切です。
実際に現地に行って調査すると、怖い人が頻繁に出入りしている絶対に買いたくない土地なので、その臨場感もレポートで表現しました。
裁判で
鑑定士の評価は減価なしで
私のレポートの評価は通常価格の半額です。
半額でも、普通の人は買いません。
裁判の結果、日本で初めて精神的瑕疵として20%の減額が認められました。
暴力団事務所の向かいの土地の価値は通常の8割だという判決です。
これが正しいか間違いかではなく、この時の裁判の判決が8割だということになります。
当時の読売新聞などに、この判決結果が掲載されました。
この事件は有名で、宅建士更新の時の講習で弁護士が図を書いて説明していたこともありました。
この裁判の判決以降、日本の不動産鑑定の減額要素に精神的瑕疵が入ることになりました。
不動産鑑定士業界にも大きな変化です。
不動産業界が間違えていること
日本における精神的瑕疵は、そこからどんどん認識が変化していきました。
妥当と考えられる告知事項、告知方法、調査方法等も変化していきました。
認識が変化していくと同時に常識も変化していき時効になっていくものも多いです。
新しい概念であるために、常識も変化していき、事件から30年ほど経過した現在、2024年でもプロたちが間違った認識をしています。
たとえば、賃貸物件で、その部屋で自殺や他殺などの事件があった場合、約2年間、2回賃貸で貸すまでは、告知義務があるが、それを越えれば、告知義務違反を逃れると解説しているケースが多いです。
つまり2年以上経過し、借り手が2回転した以降は賃貸の重要事項説明書や口頭で説明しなくても良いという賃貸不動産の業界団体によるガイドラインがあるようです。
Youtubeでも、そのように解説するプロがいますが、実はそれはガイドラインとしては正しいとしても法的には間違っているといえます。
裁判所の認識は、そのような認識ではないからです。
ここでは裁判所の認識について具体的に書きませんが、プロが確信を持って間違えていることが多い世界だということを理解ください。
ガイドライン
先の賃貸住宅のガイドラインとは別ですが、国土交通省のガイドラインはこちらです。
宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン
https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo16_hh_000001_00029.html
このガイドラインも、裁判所の認識とは異なりますので、絶対的なものではないことと、ガイドラインも変化していくものなので、その認識も必要です。
時代によって、どんどん運用が変化していくことになります。
変化に対応していくことがインテリジェンスです。
どう対処するか
精神的瑕疵のデリケートさを理解している人がほとんどいないのが実情ですが、その視点で、不動産業者の方や消費者の対処方法がこちらです。
不動産業者
なるべくガイドラインより厳しい基準で説明する。
消費者
重要事項説明書に記載がなくても、念のため事件がなかったか聞いておく。
実務に落とし込むのがインテリジェンスです。
重要事項説明書に書くこと
重要事項に書く不動産取引における瑕疵は、心理的瑕疵、物理的瑕疵、環境的瑕疵、法律的瑕の4つがありますが、デリケートな部分として次のようなものがあれば積極的に書く必要があります。
周辺に清掃施設があり匂いがすることがある
隣地が墓地なので線香の煙がくることがある
周辺に暴力団、右翼の事務所がある
周辺に右翼の街宣車の駐車場がある
周辺にカルト宗教の施設がある
高圧線が近くにあり雨の時に音がする時がある
周辺に動物園がありライオンの鳴き声が聞こえる時がある
あらゆることを想定して告知しておくことで、後々のトラブルを回避することが可能です。
リスクマネジメントの基本です。
注:2020年の民法改正で「瑕疵」という言葉は「契約不適合」に変更されましたが、ここでは不動産の傷という意味なので瑕疵と表現します。