トランプリスクの凄さとは
揺るぎないトランプ人気
米共和党のアイオワ州党員大会(15日)で圧勝したトランプ氏は、2位争いをしてきたデサンティス氏が22日に撤退する中、ヘイリー候補と23日のニューハンプシャー州予備選へと駒を進める。
このままの勢いだと3月5日のスーパーチューズデー後には事実上、大統領候補となるだろう。となれば11月5日の大統領選ではバイデンVSトランプという再バトルとなり、恐らく、またも大接戦となることが予想される。
したがって、現段階でトランプが次期大統領に就任するとの予測はできない。
ただ、仮にトランプ大統領となると、世界の金融・外為・株式市場のボラティリティーは、一気に高まり、極めて不安定もしくは波状的ショックに見舞われるだろう。
それにしても、これほど過激な言動にもかかわらず、米国で高い支持率を得ているのはナゼか。多分、そこには4つの要素が横たわっているものと推測しうる。
- 米国社会の未曾有の分断という実態
- 一部確信者の言動が社会における多数派形成に大きな影響を与えているという現実
- 現在までの経済の改善度合いが有権者には未だ実感として伝わっていないという
有権者の皮膚感覚の問題 - これまでの世論調査が、もっぱら共和党内の争いに焦点が当たったものだったため、
バイデン政権の実績への精査が為されぬまま、単に年老いたバイデン大統領への
信任票的な有権者の直感だけが表に出続けていること。
少し、解説しておこう。
1.米国社会の未曾有の分断という実態
米国社会の分断の根底に所得格差の拡大がある。
米経済は1980年代~2000年代の30年間に成長を繰り返してきたが、
反面、中産階級の所得は伸びなかった。
具体的には、1970年代には世界的に見て最高レベルの給与を貰っていた米国の労働者は、2000年代の初めには欧州諸国のそれに追い抜かれ、2010年代には家計所得の伸びが低かったため、夫婦共稼ぎが常態となった(その反面現象として、皮肉なことに女性の社会進出が増えた)という。
日本も同じだが、そうした実態の背景には正規労働者の数が抑えられ、代わりに非正規労働者やパートタイマー雇用が増えたという実態もあった。
こうした状況を、当時の民主党下院議員は「議会が犯した最大の過ちは、所得が上位層にシフトする速度を緩められず、社会が富裕層と相対的貧困層に2極化するのを阻止できなかったことだ、今や米国の経済エリートは世界の歴史でも類を見ないほど、大がかりな略奪を行なうようになっている」と述懐している。
そしてこの所得格差拡大の流れが、2020年代に入っても全く是正されず、むしろコロナ禍や、その後の経済拡大期に、一層拡がってしまったのが現実で、そうした状況下で育った若者の多く(とりわけ、非大卒の白人や黒人、ヒスパニック)が、自らの相対的貧困層入りすることを余儀なくされる現状への閉塞感から、過激な言動のトランプを支持する側に回り始めている。
2.一部確信者の言動が社会における多数派形成に大きな影響を与えているという現実
これについては、1年ほど前の日経紙=「多数決は誰の意志か」(21年7月)が参考になる。
その中の某大学の研究によると「自分の意見を譲らない“確信者”と、他人の意見に影響を受ける“浮動票者”を想定し、数値の変遷をトレースすると、確信者の数が25~30%超に増えた瞬間、不動票者の大半が確信者の意見に同調する様に己を変える」という。
この研究のサンプル集団が如何なるグループか知らないが、米国の有権者層にも、この研究結果が当てはまると仮定すると以下の解釈になる。
大統領時代のトランプは有権者の30数%を占める岩盤支持基盤に依拠していた。
そのトランプ岩盤支持層は、全く新しい舞台とも言うべき今次大統領選挙でも健在で、故に、前述の研究の結論に従えば、彼らは常にトランプを支持し、トランプの訴追など、候補者を取り巻く状況が変わってもトランプへの支持姿勢は不動。
そして、その30数%の確信犯的支持者がいるため、共和党内の浮動票層が次第に確信犯層の意見に吸い寄せられているということになる。
トランプ陣営が、TVカメラの前での公開討論には全く興味を示さず、選挙運動は地方の草の根支持層を相手とするタウンミーティングスタイルに、固執しているのも、己への支持者の熱狂が浮動票者に伝播していくことを知っているが、ゆえの戦術であることは今や疑問の余地があるまい。
要するに、この戦術は今までのところは大成功を収めている、と言えよう。さらに、この日経紙記事の中に登場する別の大学の研究成果も重要だ。
「調査対象者の55%以上が同じ情報を信じると当該の情報を全く知らない人も、同様の意見になる」との仮説だ。
これなど、トランプ候補自らへの訴追をバイデンの魔女狩りだと批判し続け、それをもっぱら保守系メディアが報道する。
この結果、保守系メディアしか目にし、耳にしない地方の共和党保守層はトランプの主張を信じるようになる。
まさに、現状を分析する有力な理論と思われる。
3.皮膚感覚の問題
現在までの経済の改善度合いが有権者には未だ実感として伝わっていないという有権者の皮膚感覚の問題について。経済の改善実態が有権者の皮膚感覚とずれている、とは次の2点を考慮すべきであろう。
一つは、米国ら中産階級の失われた30年で、これまでの米国社会にあった楽観的見方、すなわち「自分たちの将来は、親の代よりも明るい」という神話が根拠を失ってしまったという事実。
それ故、少々の景気回復間があっても有権者の悲観論を打ち消せないという現実。
もう一つは、現在の米国有権者の3分の2が低インフレ時代の経験しか持たず、その体感的インフレ水準では、この1年のインフレが、これまでの彼らの生涯では経験しなかったほどの高さと映っていること。
つまり、そんな未経験分野であるが故、統計上のインフレ率沈静化が彼らの皮膚感覚と合わないのである。
だからこそ、近視眼的な経済回復論が有権者、特に若年層には通用しないので。
4.世論調査と選挙報道の在り方
これまでの世論調査が、もっぱら共和党内の争いに焦点が当たったものだったため、バイデン政権の実績への精査が為されぬまま、単に年老いたバイデン大統領への信任票的な有権者の直感だけが表に出続けている。
大統領選に関して、これまでは共産党内の候補争いに焦点が当たっていた。民主党のバイデン陣営は、むしろ意識してそうした争いの中に巻き込まれるのを避けてきた。
その間はむしろ、民主党内の組織固めと選考資金集めに没頭してきたことが実際だ。
つまり、こうした戦略方針の違いから、マスコミの選挙報道の前面に出てくるのは、トランプ側の動きや言動ばかりで、結果的にトランプのマスコミ露出を大きくしてきた。
トランプノミクス2.0
さて、このトランプ候補が仮に2回目の大統領に就任したら、どの様な政策が予想されるのか。いわゆる「トランプノミクス2.0」の中身を想定してみよう。
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続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。
2024/1/25の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。