ポンド まだ下値(対ドル)がある
実質金利差がポンド上昇の主因だった
ポンド(対ドル)が7月の1.31ドル台をピークに、ほぼ一直線に下向トレンドとなり、チャート的にも6月からの「ダブルヘッド」の下限(1.2592ドル)を9月に下抜けし、次の下値ポイント1.2308ドルをも一気に下抜け。
このままだと重要ポイントの1.208ドルどころか、フィボナッチ50%水準である1.175ドルも視野に入ってきた感が強い。
もちろん、ドル円でもユーロドルでも、現在の通貨トレンドはその多くが米ドルの異様な強さ・米国債利回りの記録的上昇トレンド・水準によって左右されていることは言うまでもない。
ある日、突然、流れが一変することは十分に考えられるが、少なくとも次回FOMC(11月1日)までに、その転換点がやってくる可能性は低いと思われる。
このことを大前提に、それまでのポンド(対ドル)の動向を探ってみたい。
7月までのポンドの底堅さの背景にあったのは、英国の実質金利の上昇が主因だった。
英国では主要国間でも特に深刻なインフレが発生していたにもかかわらず、BOEの利上げがやや及び腰で、長期実質金利はゼロを下回る状況が続いていた(昨年末まで)。
しかし、その後は利上げを長期間継続してきたことで、今年に入りようやくプラスの実質金利が定着してきた。
依然として深刻なインフレが続く中で、FRBの利上げ打ち止め期待と、BOEの利上げ継続期待の対比により、英米の実質金利差はじわじわと拡大。
このことがポンドドルの上昇に繋がっていた。この差が7月中旬以降、止まってきたことで、ポンドドルが一転、下げ基調となったといえよう。
実質金利の上昇は名目金利の上昇と期待インフレ率の低下に分解できるが、後者に関しては、資源価格の低下による輸入インフレの鎮静化により、短期のエリアで低下が鮮明となっている。
一方、名目金利(3年債利回り)を将来の政策金利の予測である短期期待政策金利と、国債需給を示すタームプレミアムに分解すると、2022年終盤以降、タームプレミアムもやや上昇はしているものの、上昇のほとんどは期待政策金利、つまり将来の利上げへの期待という実態になっている。
更に詳しくみると、1年先のOIS金利(予想政策金利)は5.1%(現在は5.25%)、2年先が4.3%、3年先が4.0%と市場はBOEが向こう1年間はほぼ利下げができず、その後も緩やかなペースでしか利下げができないことを見込んでいることがわかる。
利上げによる救済へのダメージが深刻化すれば、タームプレミアムの低下とともに名目金利も、低下することが予想されるが、期待政策金利が高止まりしている限り、低下幅も限られる可能性が高い。
つまり、名目金利の先行きは事実上、期待政策金利の先行きであり、ポンドドルの行方を左右するということになり、結局のところ、英国のCPI(消費者物価)の今後がキーポイントということになる。
単位労働コストに注目
英国のインフレは主要国の中でも特に深刻だ。
総合インフレ率は低下してきていはいるものの、8月で前年比+6.7%と米国(+3.7%)や、ユーロ圏(+5.3%)と比べて高い。
また、英国のコアインフレは、直近8月は市場予測を下回って低下したものの、一時は再加速する場面も見られていた。
英国では、賃金インフレが特に深刻となっている。週平均賃金は直近で前年比+8.5%まで上昇し、コロナ禍後の反動で大きく上昇した2021年6月の+8.9%に近接している。
BOEの5月時点の金融政策レポートの見通しも大きく上回っており、直近8月の見通しでは、年末までに6.0%まで鈍化するとの予測が示されたが、それでも依然として極めて高水準だ。
英国の賃金は、これまでは長い目で見れば実質GDPの推移に沿って動く傾向にあった。
しかし、昨年以降は実質GDPの伸び率が低下する一方、賃金は右肩上がりとなっており、両者が大きく乖離している。コロナ禍後のこの機関、雇用者数と労働時間の伸び率はほぼ横這いだった。
このため、GDPが減少している中で賃金が上昇しているということは、単位労働コスト(製品を一定量作るのに必要な労働経費=賃金のこと。これが上昇すると物価上昇につながる)が急上昇していることを意味する。
単位労働コストは、コロナ後の経済活動再開により、一時急上昇した後、一旦落ち着きを取り戻したが、その後は再び急ピッチで上昇している。
単位労働コストとサービスインフレの伸び率は連動性が高く、コロナ以降は関係性が崩れる局面もあったが足下では単位労働コストの反発に伴い、サービスインフレ率も急騰している。
この単位労働コストが低下しない限り、英国のインフレも抑制されず、BOEの利上げ停止もしくは利下げへの期待感は醸成されない。
9月BOEのMPC(金融政策委員会)で、かろうじて政策金利の据え置きとなったのも、これがネックとなっていたからだ。
英国では、深刻なインフレを背景に公共部門などでストが頻発しており、名目賃金が直ちに低下に向かう可能性は低い。
一方、GDPもインフレや利上げがダメージとなる中で高成長は期待できない。
こうした中、当面の単位労働コストは高止まりすることが予想され、BOEも追加利上げの可能性を構えておかねばなるまい。
ただ、・・・
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2023/10/05の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。