ユーロ圏経済とECBの金融政策
市場は来年の利下げを予想するが、ラガルド総裁は追加利上げの可能性も示唆
ECBは9月14日のECB理事会で主要政策金利を0.25%引き上げ、4.5%とした。
今回の利上げには反対もあったようで、ラガルド総裁は記者会見で「政策委員の数人が利上げ休止を選考した」と述べたが、結局、「十分な過半数が利上げに賛成した」ことで、追加利上げとなったようだ。
市場は今回の利上げで打ち止めとなり、来年の0.75%程度の利下げを予想している。
だが、ラガルド総裁は、記者会見で、「焦点はおそらく若干、期間へと移るだろう」と、今後の利上げ休止の可能性をにおわせたものの、「しかし、これがピークだと言っているわけではない。そうは言えないからだ」と述べ、追加利上げの可能性も示唆した。
さらに、「われわれは利下げを決定も議論もしておらず、その言葉を口にすることすらしていない」と述べ、来年の利下げを見込む市場の見方を否定する姿勢をみせた。
今後の政策運営はデータ次第という姿勢は変わっていないようだが、ECBは今回、経済見通しを修正し、成長率見通しを下方修正し、インフレ率見通しを上方修正した。
成長率見通しについては、23年0.7%、24年1.0%、25年1.5%(前回6月見通しは、23年0.9%、24年1.5%、25年1.6%)と下方修正した。
インフレ率見通しのついては、23年5.6%、24年3.2%、25年2.1%(前回6月見通しは、23年5.4%、24年3.0%、25年2.2%)と、23、24年見通しを下方修正した。
この3か月間で景気が悪化し、インフレ率が加速していることを意味する。
景気低迷下でも賃金は物価スライドなどにより高い上昇率を続けている
金融市場が「利上げ打ち止め」「来年の大幅利下げ」を予想しているのは、ユーロ圏景気の勢いが弱く、景気減速あるいは景気悪化に伴ってインフレも鈍化するはずで、インフレが鈍化すれば利下げも可能になるはずだ、とみているためだ。
ただ、そうしたシナリオが実現する保証はない。確かに、ロシアのウクライナ侵攻の影響もあって、ユーロ圏景気の勢いは弱い。
例えば、ドイツではロシアからの安価な天然ガスへの依存を抑え、より割高な再生可能エネルギーに切り替える必要がでてきていることから、経済成長が抑えられている。
直近4~6月のユーロ圏の成長率は0.5%で、米国の2.5%、日本の1.6%に比べ低い伸びにとどまっている。
ECBは、コロナショック前の2018年時点で、「ユーロ圏の潜在成長率が債務危機時に1%を割り込んだが、現在は推定1.5%前後に上昇している」としていた。
23年0.7%、24年1.0%という成長率見通しは来年までユーロ圏は潜在成長率を下回る成長しか達成できず、需給ギャップの需要不足幅が拡大していくことを意味する。
低水準で推移している失業率も上昇していく可能性が高い。失業率の上昇は、失業率と賃金上昇率との逆相関関係を示すフィリップス曲線からみても賃金上昇率が鈍化していくことを示唆する。
だが、多くの企業が賃金の物価スライド制を導入している欧州では、景気が悪化するなかにあっても、賃金上昇率と物価上昇率が連動して上向いていく可能性がある。
ユーロ圏の労働コストは4~6月に4.5%上昇した。
大幅な上昇は労働需給逼迫を反映したものという面があるが、ここまでのエネルギー価格や輸入物価の高騰を受けた実質賃金の下落に対し、労働者が賃上げ要求を強めた結果とも言える。
1970年代に景気低迷下で高インフレが続いたのは、こうした物価上昇、賃金上昇の悪循環が続いたことが原因だった。
景気の勢いの弱さだけをみて、インフレが順調に鈍化していくと考える市場の見方には、盲点があると言わざるをえない。
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2023/09/19の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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