ゾルタン・ポズサー(Zoltan Pozsar)【28】バイデノミクスとレーガノミクスは真逆!ゾルタンとFEDの意見も正反対!
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バイデノミクスとは?
「バイデノミクス」とはゾルタンが指摘していた半導体の米国国内回帰を目指すCHIPS法(CHIPS and Science Act)、オバマケアの充実や新エネルギー投資のインフレ抑制法(IRA)、ウクライナ支援などの再軍備、水道・橋・道路・ネット環境などのインフラ投資のIIJA、労働組合の支援などからなる積極的財政政策=大きな政府政策です。
トランプ政権下での新型コロナ支援策で財政赤字が増加していたにも関わらずバイデン大統領の「バイデノミクスにより双子の赤字が膨らみ、1980年代のレーガン政権・ボルカー元FRB議長時代の再来」となっているのが現状です。
ここでゾルタンの「バイデノミクスに関する予言」を振り返ってみましょう。
1.再軍備(ウクライナ紛争支援額と増えない防衛費)
2022年2月に始まったウクライナ紛争。添付資料によると支援額は、新たな支援策を含めると、1,350億ドルに上るようです。この他に台湾支援などの防衛費がありますが、以前にゾルタンが指摘していた「ポンジスキーム」に陥っており、8,167億ドルとなっています。
台湾やサウジからのミサイル発注在庫があるので、レイソン社はウクライナへ送った代替となる防衛省からの発注に応じられなく増額できないからのようです。2022年は8,770億ドルだったようです。
2.再サプライチェーン(CHIPS法)
バイデン政権が実施したのが中国から友好国へのサプライチェーンの再構築である「フレンドショアリング」(アマゾンやアップルが工場をインドに移転)、オランダと日本を巻き込んだ「中国への半導体輸出制限」と半導体産業の自国への回帰を進める「CHIPS法」です。「CHIPS法」の予算はCNBCに書かれているように527億ドルです。
3.エネルギーのクリーン化とオバマケアの充実
テキサス州などの石油産業を保護する共和党政権に対して民主党政権であるバイデン政権は欧州にならい「エネルギーの脱石化」を進めると宣言しています。
さらに日本のような国民皆保険を目指したオバマケアを促進させる「医療改革」からなるのがインフレ抑制法(IRA)で上記の資料によると気候変動対策に3,910億ドル、医療保険対策に1,080億ドルとなっています。
4.インフラ整備
上記のウィキペディアによると5,500億ドルが今後5年間に支給されるそうです。年間1,100億ドルです。道路と橋に1,100億ドル、公共交通機関(空港と港含む)に1,470億ドル、電源に730億ドル、ブロードバンドに650億ドル、道路網へのEV充電装置設置に150億ドル、水道関連に1,050億ドルなどとなっています。
5.湾岸諸国の中国への接近によるBRICS11と脱ドル化の進展
バイデノミクスは内政面だけでなく、外交面により大きな影響を与えています。ロシアの資産凍結による自国資産凍結を恐れる中国は「脱ドル化」へ動きました。
ジャーナリスト殺害問題で侮辱され、米国の戦略備蓄在庫放出により原油価格が下落したことに憤慨していたサウジアラビアは1945年以来の米国との同盟を反故にして中国、さらにシーア派盟主である宿敵イランに接近しました。
その結果が、昨年12月の湾岸諸国会議への習近平主席の出席と1月の北京でのイランとサウジの国交回復による「ペトロ人民元の夜明け」、3月の「ASEAN会議の相互取引での自国通貨の使用宣言」、サウジや中国、トルコなどによる「外貨準備での米国債券売却と金の購入」、8月のBRICS会議で決定した2024年からのサウジ、UAE、イラン、エジプト、エチオピア、アルゼンチンの参加による「BRICS11の結成と相互取引での自国通貨の使用の決定」などであり、「脱ドル化は決定的」となっていました。
6.国家負債の利払い
チャートは過去10年の米国債務残高のGDP比率で現在は123%です。新型コロナ流行後に急増しています。添付資料にあるように2023年の「利払い金は6,630億ドル」です。来年は7,450億ドルです。コロナ前は4,000億ドルを切っており、急増しています。
6月2日の「債務上限引き上げでデフォルトは回避」されました。その際の負債は31.4兆ドル、現在は32.7兆ドル、約100日で1.3兆ドルの増加で130億ドル/日で増えています。
財政赤字増加のペースも上昇し、金利もさらに上がれば、来年の利払い金は、7,450億ドルという公式予想を上回り、ベア派のストラテジストが指摘している1兆ドルになるわけです。
7.グローバリゼーションの崩壊とブロック経済進展による貿易赤字の増大
米中デカップリングによる輸出入双方の減少により「貿易赤字は拡大」しています。既に中国は米国の輸出ランキングでメキシコ、カナダに続く第3位となっており、BRICS11やグローバルサウスとの交易を進めるようです。
米国は西側諸国とインドやアルゼンチン、ASEANなどの中立国との交易を進めることになるのでしょう。世界経済から排除されていたイランやロシアはBRICS11との交易でダメージはあまり受けていないようです。
ダメージが大きいのはインフレが収まらない欧州諸国や隠れインフレが深刻な日本です。
8.労働組合への支援
財務省によると組合への支援は非組合員と比較して組合員の賃金を10~15%押し上げているようです。遂にデトロイトの自動車組合のストも始まりました。
以上見てきたように、ゾルタンの指摘した「大きな政府政策、BRICS諸国へ強圧的な態度の外交政策、パウエル議長による急速な利上げ」により「双子の赤字の利払いが急増」し「海外諸国による米国債券購入も減少する」中で「財政出動を緩めない」バイデノミクスこそが「さらなるインフレと財政赤字増大の原因」だとピーターは指摘しています。
「インフレ税で米国民の資産は減少し続け、バイデン政権が続く限り止まらない」のです。
ウクライナ紛争によりゾルタンの指摘するように「戦時」となっているので財政支出が拡大しており「インフラ整備やクリーンエネルギーの推進や労働組合の支援は一時的に止めるべき」だということです。
レーガノミクスとは?ボルカー元議長とパウエル議長との違い
ゾルタンは、80年代のレーガン政権とボルカー議長時代と現在を比較していました。「高インフレや双子の赤字など共通点が多い」からです。高インフレについては「パウエル議長がボルカー元議長に習ってインフレを克服するのか?」などと記事になっています。
一方、不思議なことに、ピーターが指摘するように「双子の赤字について市場が語っていない」のです。それは恐らく「バイデン政権が民主党政権であり、レーガン政権が共和党政権」だからでしょう。
レーガノミクスはウィキペディアの日本語版に書かれているようにレーガン元大統領の経済政策です。
特徴は「規制緩和」「自由競争」「金融引き締め」「強いアメリカ」「大規模な減税」「双子の赤字」などです。バイデノミクスとの共通点は「金融引き締め」と「双子の赤字」だけです。
1.米国債務残高のGDP比率
ウィキによると減税と軍事支出増大の結果、国家負債は就任時から退任時の間に2.6倍に、GDP比では33.4%から51.9%に増大したようです。
チャートを見れば一目瞭然ですが、現在の123%と比べると半分以下に過ぎません。
しかも当時は日本やサウジなどが米国国債を外貨準備高として積み上げていたので、現在と比べると安心なはずです。それなのに日本のメディアでも「米国の双子の赤字」という記事をよく目にした記憶があります。「米国負債とその利子払いが注目されたのはフィッチの格下げ以降の今年8月」です。
まだ1ヶ月しか経っていません。ゾルタンが気づいていないはずはなく、軽く触れるだけだったのはクレディ・スイスの金利ストラテジストという立場があったのでしょう。
格下げ以降はピーターやベア派のストラテジストが取り上げるようになったわけですが、FEDや財務省のコメントは見かけません。「状況はボルカー時代よりも悪い」ようです。
2.自由貿易
貿易障壁を取り除き「自由な貿易」を推進したことで「米国は自信を取り戻した」とされています。86年には94年まで続く「ウルグアイ・ラウンド」を主催し関税を引き下げ、95年には世界貿易機関/WTOが設立されました。
88年にはカナダとの自由貿易協定が結ばれメキシコにも拡大、92年にはNAFTA/北米自由貿易協定が署名されました。在任中には海外投資も3,340億ドルから6,630億ドルと倍となりました。「現政権の保護主義とは正反対の自由貿易主義により、世界貿易の発展に貢献」したのです。
3.強いアメリカ
レーガン政権は防衛費を増強させ「強いアメリカ」をスローガンとしていました。
現在は2021年のアフガニスタン撤退の失敗でテロ組織のタリバンが政権を握り米国の威信は失墜、トランプ前大統領は「自分が大統領ならばウクライナ紛争は起きなかった」と発言しています。1945年以来の盟友だった湾岸諸国も米国に対抗するBRICSに参加「弱いアメリカ」がイメージされています。
4.労働組合への締め付け
ゾルタンがレーガン政権は航空管制官のストライキを潰したと以前書いていました。調べてみたところ、米国企業の生産性と米ドルの価値を弱める組合運動には「強いアメリカ」の立場から反対で、「徹底的に弾圧」したようです。
ストライキを起こした組合員を解雇、労働組合はその後力を失っていったようです。「バイデン政権は労働組合によるストを助けている」ことは何度も書いてきたとおりです。これは給与の増大=インフレを促進させます。
5.金融引締め
ボルカー元FRB議長の英語版ウィキペディアに書かれているように79年平均11.2%の金利を81年6月には20%と9%も引き上げました。その結果失業率は81年の7.5%が82年には11%となり、リセッションが起こり、政界から農民・建設業・製造業まで幅広く史上最も大きな批判を浴びたようです。
それでも金融引締め政策を82年まで継続し、インフレ率は80年3月の14.8%から83年には3%未満へと11%以上も下落し、インフレを鎮静させました。
ここで注目したいのは、インフレ率が3.2%に落ちたのは83年で利上げ中止から1年のタイムラグがあることです。
そして上記のボルカー元議長のように「四面楚歌でもインフレを抑えるという強い意志をパウエル議長は持ち合わせているのでしょうか?」
6.減税
レーガン政権の減税政策は英語版ウィキに書かれていますが、1981年の第1段階は、最高所得税率の70%から50%と最低の14%から11%への引下げ、キャピタルゲイン課税の28%から20%への引下げでした。86年の第2段階では最高所得税率の50%から38.5%と28%へさらに引き下げる期間のキャピタルゲイン課税の20%から28%への引上げでした。
プラス面としてはレーガン政権終了時の1989年には、失業率は5.4%に低下、インフレ率は4.7%、平均収入は80年比較で16.8%増加しました。
マイナス面では、GDPにおける税収は18.5%から17.4%へと1%減少しました。財政赤字は740億ドルから2,210億ドルへと3倍に増加しましたがGDP比率では2.6%から2.7%で変化なしです。GDPが増加したからです。そして超富裕層への減税により格差が生まれ、それが下流まで広がる利益の再分配が起きていないことです。
バイデノミクスは2025年1月まで続く!
「レーガノミクスとバイデノミクスの比較」をしてみましたが、どちらが優れていると思われたでしょうか?当時の日本では職業差別があり、筆者もシェフになる夢を諦めました。レーガン大統領は「3流俳優上がり」などと陰口を叩かれていましたが、米国での評価は高いです。
「レーガノミクス」の後押しがある中で豪腕のボルカー元議長が10%もの利上げを行い、インフレを沈静化させました。しかし「高い失業率とリセッション」も引き起こされました。「バイデノミクス」の逆風が吹く中で柔和なパウエル議長が「リセッション」を免れることなど可能なのか?と思っているストラテジストが少数派なのが現状です。
ピーターの新説によると「2020年3月の緊急利下げで株式市場の暴落をFEDが助けたことで市場が安心」しているからだそうです。FEDは金利を1.5%〜1.75から1.0~1.25%、さらに0~0.25%へと2回にわたり1.5%引下げました。
しかし現在のFEDは、財政赤字の政府を助けねばなりません。地方銀行の預金はSVB破綻以来流出していますが、35万ドル以上の預金の救済も約束しています。株式市場を救済することができるのでしょうか?
中下流向け減税に変更した「レーガノミクス」が求められていますが、新しい大統領が就任する2025年1月までは不可能です。政府の負債は増加し、金利は高止まり、負債を抱える国民・企業・政府の利払いは増え続けます。「リセッションは、いつかは起きる」のではないでしょうか?
以前の記事で「2023年末の金利が市場予想の4%になるかFEDの5%になるか判断はお任せします」と書きました。ゾルタンと意見を共にしたFEDが、市場より正しかったようです。
現在はYahoo!FinanceによるとFEDお抱え(Fed Chicago)のエコノミストの9月の最新レポートでは「リセッションは起きず、これ以上の利上げは必要なく、2024年半ばにはインフレが2.3%とFEDのターゲットに近づく」そうです。
「今回はゾルタンやピーターとFEDの意見は異なる」ようです。
どちらを信じるかはお任せいたします。
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