米国の自然利子率をどうみるか?
自然利子率とは?
このところ、米国金融市場で自然利子率(R*、アール・スター)が話題になっている。
自然利子率はもともと19世紀末にスウェーデンの経済学者クヌート・ヴィクセルが提唱した概念で、経済の需給を均衡させ(貯蓄と投資、供給と需要をバランスさせ)、インフレにもデフレにもならない、理論的な実質金利水準のことだ。
均衡実質金利、中立金利とも言われるが、中立金利という場合、必ずしも実質ではなく、名目金利のことを言う場合がある。
自然利子率は長期的にみると1人当たり実質消費増加率に等しいとされる。個人が今期と来期の消費を最適化する目安として重要視するのが実質金利だ。
例えば、ある人の今期、来期の収入がそれぞれ500万円だとして合計1,000万円の収入を今期と来期にどう配分して消費するかを決める際の重要な判断材料になるのが実質金利(物価上昇分を差し引いた金利)だ。
実質金利が高ければ、今期はお金を使うのをやや抑制気味にし、来期まで貯蓄して来期にその分多めに使った方が今期と来期を合わせた消費量を増やせる。
逆に実質金利が大幅なマイナスだとすれば、今期に借金をして消費し、その分来期の消費を抑制するという選択もできる。
実質金利を念頭に個人が今期と来期の消費を最適に配分した結果として、実質消費増加率(来期の実質消費÷今期の実質消費)が決まる。
長期の経済成長理論において、実質GDP、消費、資本ストックが同率で成長していく安定成長経路を考えると、1人当たり実質消費、同GDP、同資本ストックの増加率は技術進歩の伸びに等しくなる。
一方、1人当たり実質消費が一定率で安定的に成長していくためには、実質金利も一定でなければならない。その長期安定的な実質金利が自然利子率になる。
結局、自然利子率=1人当たり実質消費、同GDP、同資本ストックの増加率=技術進歩率となり、自然利子率は潜在成長率に近い数字になる。
金融政策との関連で言えば、金融政策で景気を刺激しようとする場合、自然利子率に対して実際の実質金利水準を低くしなければいけない。
そのため、デフレ下で、インフレ率が仮にマイナス5%程度だとすると、政策金利をゼロにまで引き下げても実際の実質金利はプラ5%と高水準にとどまる。
この時、自然利子率も低くゼロ程度だとすると、実際の実質金利を自然利子率より低くして、金融政策で景気を刺激することができなくなり、面倒なことになる。
逆に、景気を抑制しようとする場合、自然利子率に対して実際の実質金利水準を高くすることで金融を引き締めることができる。
結局、実際の実質金利と自然利子率の差が金融緩和かそれとも金融引き締めかを示す尺度となる。
ニューヨーク連銀の自然利子率推計モデルは超金融緩和政策で景気が超過熱状態にあることを示唆している
ニューヨーク連銀は自然利子率の推計値として2つの数値を公表している。
米国のみのデータで計算したLWモデル(ローバック、ウイリアムズ両氏のモデル)による自然利子率と、これをカナダとユーロ圏にも適用して3地域のデータで計算したHLWモデル(ホルストン、ローバック、ウイリアムズ3氏によるモデル)だ。
両者の計算方法はほぼ同じだが、ユーロ圏の過去のデータ制約の問題から、
期待インフレ率を推計する場合、前者では10年程度の長期のインフレ実績データから計算し、後者では1年程度の短期のインフレ実績データで計算するという違いがある。
結果的に米国の自然利子率については2つの数値があり、多少の違いがある(図1参照)。
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2023/09/04の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。