ピーター・シフ(Peter Schiff)3 現在の状況は1987年と類似、ブラック・マンデーの再来となる?
今回の金融危機は2000年のITバブル破裂と状況が似ている
筆者は、昨年春のムック本執筆時から「今回のバブルはITバブルと相似点が多い」と指摘してきました。理由は以下です。
1.赤字企業でも上場している
「ITバブル前には赤字企業でも上場」していました。しかしバブル崩壊後は審査が厳しくなり「黒字企業のみ」となりました。近年は赤字企業どころか以前にも紹介した「SPAC合併上場」も増えています。遂には、確かにゲーム・チャンジャーではありますが、『クアンタム・スケープ』という「商品をローンチしていない企業まで上場」しています。「ITバブルを凌ぐ異常事態」です。
2. 10年以上のゴルディロックス相場が続き、その後2年半〜5年で株価は倍以上に!
引用:macrotrends.net
S&P500のチャートです。1982~2000年と2009~2022年のチャートが右肩上がりとなっています。「ITバブル時」は1982年〜2000年の「17年で約7.5 倍」、特に1994~2000年の「5年で約2.5倍」となっています。
引用:macrotrends.net
同じものの20年チャートです。「今回のバブル」では、2009年〜2022年の「13年で約5倍」となりました。途中の「2020年3月は新型コロナウイルスショックで暴落」しましたが、「FEDの緊急利下げで急回復」しました。2022年12月までのわずか「2年半ほどで約2倍」に上昇していることが読み取れます。前回の半分の期間で株価は倍となっており、今回の方が「上昇率が高い」です。
3.政策金利上昇
引用:macrotrends.net
米国の政策金利のチャートです。「ITバブル時」は1993年1月の2.66%から2000年6月の7.03%まで7年半で4.35%上昇していました。「今回のバブル」では、2020年3月の0.05%から2023年7月の5.35%まで3年半で5.3%の上昇です。今回の方が「利上げが急速」です。
4.高PER
引用:dailyinvestor.com
このチャートは、米国の代表的株価指数である「S&P 500 のITバブル時と2021年の緊急利下げ後のビッグテック・バブル時のPER」を比較しています。ITバブル時にはPERが47倍にまで達しています。2021年には39倍だったので2022年春時点では似ていると思ったのですが現在は26倍まで下げているようです。
5.ビッグ・テックやAI銘柄の急上昇
引用:ice.com
昨年大きく下げたNYSE FANG+ 指数は、3月の地方銀行危機を受けて銀行株の代わりに現金保有が大きいビッグ・テック(アルファベット、アマゾン、アップル、メタ等)に資金が流入、今年は30%以上も上昇しています。
引用:tradingview.com
さらにこちらのチャートに見られるように「AI狂騒曲の波」で「エヌビディアの株価は半年で倍」となっています。これによりゾルタンも「ハイテクバブルか仮想通貨バブルが暴落の引き金」となると指摘しています。現在ではなく将来の価値を事前に織り込む状況で、「ITバブルそっくりという印象」がましています。
6.震源地は西海岸のベイエリア
リーマン・ショックはウォール街のあるニューヨークで起こりました。
「ITバブル」はスタートアップが集結する「サンフランシスコを含むベイエリア発」です。ゾルタンの予想では上記の「ハイテクバブル」か「仮想通貨バブル」に加え「商業用不動産危機」が引き金になるそうです。いずれも「サンフランシスコを含むベイエリアが中心地」となっています。
7.高い住宅ローン金利
前回紹介したように「住宅ローン金利は2000年以来の7%超え」です。2%〜4%の低金利で購入した住民が高金利での借り換えを嫌がり住宅が不足、ブルームバーグに書かれているように購入可能率は過去40年で最悪となっています。
今回「まだ起きていないのはエンロン事件のようは大型破綻」ですが、これは2000年3月の緊急利下げでさらなるバブルが発生、「資産が倍増したために何度か起きたベア相場が長く続かないことが原因」だと分析しています。「富裕層や自社株買いを続けるビッグ・テックはまだまだ資金に余裕」があるようです。
これも「2023年3月のSVBの破綻」で地銀危機となり「VCやスタートアップも危ない状況」になったのですが、ゾルタン言うところの「寛大過ぎるFED」のおかげで「先延ばし」になりました。しかし前回の記事に書いたように「水面下では危機は継続」しています。
ピーターによると今回の危機は1987年と状況が似ている
そして、「1987年のダウの動きと2023年のナスダックの動きが酷似」しているという記事も見つけました。以前は2000年と似ていると記事もあったのですが、最近は「87年との比較が話題になりつつある」ようです。
ピーター・シフ氏が指摘している類似点は以下です。
1.ダウの13日連騰
CNBCの記事に書かれているように、1987年以来だそうです。
2.双子の赤字の存在
US Debt Clockによると、現在の「米政府財政赤字は約32.7兆ドル」です。「金利が5.5%だと利払いだけで約1.8兆ドル」です。償還を迎えた「低金利債券が高金利債券に置き換わって」いきますが、ピーターによれば巨額すぎて「支払いは困難」のようです。
前々回の記事のハートネット氏の「スカイ・ロケット」なチャートを見れば分かりますが、「87年の米政府財政赤字」はわずか2.35兆ドルで「現在の10分の1以下」です。ボルカー元議長が連邦議会で行ったように「大きな政府案をパウエル議長も批判すべき」だと主張しています。「メディケア、軍事費、学生ローン援助などの支出を減らさないとインフレは収まらない」とのことです。
政府機関によると、「5月時点の貿易赤字は690億ドル」です。ニューヨーク・タイムズに書かれているように、87年は年間1,700億ドルで単月あたりは約150億ドルです。「双子の赤字は、87年とは比べ物にならないほど大きい」ようです。
そして、ピーターによると「財政赤字の急上昇が予測され誰も米国債券を買いたがらない」そうです。ロイター英語版に書いてあるのですが、8月の米国30年債券の公募では金利は4.189%と2011年以来の高金利となり弱い需要を見込んでその後NY市場で4.26%まで上昇しました。前々回の記事で紹介したアックマン氏やピーターの意見は正しかったようです。
ゾルタンも以前の記事で「米国債券の信用が落ち誰も買わなくなれば、その後株も下落し、チェックメイトだ」と述べていました。「L字型の暴落とスタグフレーション」です。
3. 5%を超えた政策金利
そして、ピーターによると現在の「5.5%という金利は歴史的には決して高くない」そうです。約40年前にボルカー元FRB議長は約9%のインフレに対して金利を11%から20%まで引き上げ、鎮静化させました。86年末に5.88%だったFFレートは、「ブラック・マンデー直前」の87年9月には7.25%まで引き上げられました。前回の記事に書いたように「インフレは再燃」しています。一般の報道とは異なり、ピーターは「まだまだ金利は上昇」すると予想しています。
アックマン氏の「インフレ・ターゲットが3%」になったという意見に同調しているようです。「FEDが2025年までインフレ率が2%にならないと言いながら2024年には利下げをするのは矛盾」していると指摘しています。
4.米ドル安
87年当時は「ルーブル合意という各国の共同為替介入でも米ドル安に歯止めがかかりません」でした。ピーターによると、財政赤字問題と脱ドル化の進展で、今後3ヶ月で「ドルインデックスは現在102から90まで下がる」そうです。彼が予測した「2008年のリーマン・ショック時には72」だったそうです。
但しここはゾルタンと異なる点で、彼は「短期では金利が重要」としています。実際「フィッチの格下げ」で財政赤字が注目され「中期での脱ドル化がコンセンサス」となりましたが、「米国長期債金利と共に米ドルは上昇」しています。
5. 大統領選挙の前年
1987年も2023年も4年毎の「大統領選挙の前年」にあたります。
調べてみると、ピータの指摘以外にも類似点が見つかりました。
6.低失業率
「87年9月の失業率は5.8%」とニューヨーク・タイムズにあるように「8年ぶりの低失業率」だったようです。現在も7月は3.5%と6月の3.6%から改善されており「歴史的な低水準」です。「失業率が最低なのに財政赤字が最高」というのも初のようです。景気がよいのか悪いのか分かりません。
7.CPIの上昇
87年9月のCPIは添付資料によると年初の1.5%から4.4%へと急騰しています。現在の政府資料では、2022年6月の9.1%から2023年6月の3.0%に下落してきています。しかし、ピーターによると、米中デカップリングで輸入物価が上昇、コモディティ価格は上昇し、「インフレが再燃」するそうです。これは「ゾルタンと同じ意見」です。CPIもPPIも前月値との比較では上昇に転じています。
そして、「87年よりも状況が悪い分野」もあります。今まで何度も解説してきましたが、ナスダックのウェブサイトにあるように、商業用不動産は「最大級のハリケーン5」のような状況です。87年当時は、2007年の世界金融恐慌とは異なり、「不動産市場は健全」でした。ゾルタンは、「今回の金融危機はハイテクバブルまたは仮想通貨バブルの崩壊と商業用不動産危機で起こる」と話しています。
前回紹介したように「地方銀行危機も水面下で進行」しています。ゾルタンも「西海岸を本拠地とする大銀行も問題」だと話していました。その銀行のいくつかの口座から預金が消えているとのニュースもありました。
BTFPという「証券を担保に1年間FEDが融資しくてれるプログラム」が3月に開始され守られているだけのようです。添付記事によると「利用額は6月には1000億ドル超え」をしているようです。
「個人の負債も史上最大規模」に膨れ上がっています。コロナ刺激策がなくなり「サブプライム層は自転車操業状態」です。
こうした状況下で、FEDの利下げに期待して「株式だけが上昇しているのは危険」だ、「双子の赤字が増大」すると「1920年代後半のドイツ」のようになるとピーターは主張しています。巨額の財政赤字を埋めるために政府は「短期債を大量発行」しており、これは「さらなるインフレ」に繋がります。
さらに「海外投資家が米国債券離れを起こして債券安」となるので金利が上昇するが、「信用がなくなった米ドルは購入されずに米ドル安」となり「インフレとのダブル・パンチ」になるそうです。中国やサウジの米国国債保有が大きく減少しているそうです。
日本に例えると、1米ドル=200円となり、インフレ率が10%になるといった状況でしょうか?
この状況が起きると、1987年と同様に突然の暴落に見舞われる「ブラック・マンデー の再来」となるそうです。彼の前々回の記事にあった政府債務と米ドル危機でおきる「大恐慌2.0」です。リセッションはインフレ抑制に効果的なのに「FEDが認めようとしないだけ」と主張しています。
この殆どの方が信じなかった予測が「フィッチの格下げでより現実化」したようです。
バーリ氏は暴落に賭け、バフェット氏はバーゲン・セールを心待ちに!
2007年のサブプライム危機を描いた映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』 でクリスチャン・ベール演ずる主人公として有名になったマイケル・バーリ。ロイター英語版にあるように彼が「S&P500とナスダック100に連動したETFのプットを購入(売りをしかけた)」と米国では話題となっています。リーマン・ショックへと繋がった「サブプライム危機の再来を想定」しているようです。
そして日本にも信者が多い「オマハの賢人」ウォーレン・バフェット氏。添付資料では、「金持ち父さん 貧乏父さん」が日本でもかつてベストセラーとなったロバート・キヨサキ氏が、バーリ氏だけでなくバフェット氏も「株価暴落を心待ち」にしていると語っています。
以前の記事で紹介したようにバフェット氏はフィッチの米国債格下げで長期債ではなく3ヶ月か6ヶ月の「超短期債を購入」しています。第2四半期には株式を80億ドル売却し「現金保有率を高く」しています。債券と現金を合わせて「1470億ドルが出番を待っている」そうです。
バフェット氏は第2四半期には住宅金利の高騰で「住宅供給が不足して需給バランスが崩れている」のを想定していたようで、「新たに購入した3銘柄は全て住宅建設企業」でした。表だっての発言はしませんが、「将来を予測しながら実行をしている」のです。
ただし上記のように「FEDの緊急利下げ後に株価が倍となり含み資産が莫大なので、昨年からベア相場が何度か訪れたが全て長続きしていない」ことには、注意をすべきだと思われます。「中国の不動産不況は、資金量第9位の資産運用企業のデフォルト問題まで発展」しましたが、「米国株式市場先物は18日金曜日には上昇」に転じました。
バフェット氏は、現金保有は増やしていますが、「バーリ氏のように株式の大量のショートはしていません(オプションなの実際の金額は報道より小さい)」。さらに「ピーターの想定とは異なり、ゾルタンの主張どおりに、現在の米ドル指数は上昇(103.4)」しています。
つまり「米ドルが大きく下落を始めた時には注意」をした方がよいのかもしれません。松島社長が書かれているように、「現在金融危機が静かに進行している」のは確かなようです。