米国の財政悪化からみて格下げは妥当
債務上限引き上げ問題での与野党合意内容では財政赤字削減に
十分とは言えない
格付け会社フィッチ・レーティングスは8月1日、米国の外貨建て長期債格付けを最上位の「AAA」から「AAプラス」に1段階引き下げた。
大手格付け会社が米国債の格付けを引き下げるのは、2011年8月以来、およそ12年ぶりのことだ。
2011年8月の時は、S&P(スタンダード・アンド・プアーズ、現在のS&Pグローバル・レーティング)が、やはり、最も信頼度が高い「AAA」から「AA+」に引き下げた。
フィッチ・レーティングスは今回の格下げの理由について、以下を挙げた。
- 向こう3年間に予想される財政悪化に加え、
一般政府債務が高水準で増加していること - 過去20年間にわたりガバナンスの水準が着実に悪化しており、
度重なる債務上限を巡る政治的対立と土壇場での解決により、
財政管理に対する信頼が損なわれていること
今回の格下げに対し、イエレン財務長官は、以下のように批判した。
「フィッチ・レーティングスの決定に強く反対する」
「米国債が依然として世界有数の安全かつ流動性の高い資産で、
米国経済が強いという投資家や世界中の人々の認識を変えるものではない」
「米国政府は財政が持続的になるようしっかりと取り組んでいる。
債務上限に関する法律には1兆ドル以上の財政赤字削減が盛り込まれ、
財政の道筋は改善された」
「今回の国債の格下げは恣意的で古いデータに基づいたものだ」
だが、米国の財政は悪化しており、バイデン政権に財政悪化を止めようとする姿勢がみえないことから言えば、格下げは自然な成り行きだと言える。
格下げは、もっと早い時期、6月に債務上限問題が回避された直後にでも、行なわれておかしくなかった。
今年5月にかけ、債務上限をめぐり、上限引き上げを求めるバイデン政権と歳出削減を強く求める野党・共和党が対立し、国債デフォルトの危機をはらみながら、ギリギリの交渉が続けられた。
その結果、5月28日の下院での基本合意、6月1日の上院での可決、6月3日のバイデン大統領署名を経て、債務上限引き上げに関する法案は成立した。
成立した法律は、政府予算について2024年度は国防費以外の歳出を23年度とほぼ同額にするなど支出を抑えるかわりに、連邦政府の債務上限を2025年1月までなくすという内容だ。
これは、来年秋の大統領選挙までこの問題をめぐる政治対立を一時休止するという政治的な妥協の産物だ。
これにより、懸念されていた米国債のデフォルトは回避されたが、「24年度の歳出を23年度とほぼ同額にする」ことは、パンデミック対応で急速に膨れ上がった財政赤字を削減するには十分とはいえない。
米議会予算局が7月20日に発表した長期財政見通しによると、米国の連邦財政赤字の対GDP比は23年度の5.8%から27年度には5.0%に縮小する。
だが、赤字縮小はそこまでで、その後は国債利払い費、社会保障費、医療費などを中心とした歳出増により、赤字は拡大基調となり、2053年度には財政赤字の対GDP比は10.0%に上昇する。
国債残高の対GDP比は23年度の98%から53年度には181%も上昇する見込みだ。
2011年の格下げ時には大幅な赤字削減策で与野党が合意したが、
S&Pはより大幅な赤字削減を求めて格下げを決めた
12年前、2011年にS&Pが米国債の格下げを行なったときのことを振り返ってみよう。
この時も、債務上限引き上げを巡って、下院で多数を占める共和党の教条主義的な増税忌避姿勢のために、議会が機能不全の状態に陥っていた。
今年5月時と同様、債務上限引き上げができないままデフォルトが起きるのではないかとの懸念が高まっていたが、2011年8月2日、難航の末、米国議会の債務上限引き上げ法案が成立した。
債務引き上げ法案には、2012年から10年間(2012~21年)で約9,000億ドルの歳出削減が盛り込まれていた。
また、議会は同年11月下旬までに1.5兆ドルの具体的な赤字削減措置を提示し、12月下旬までに採決する必要があった。
そして、赤字削減策が決められない場合には1.2兆ドルの歳出が強制的に削減される、という、おまけまでつく、厳しい赤字削減内容になった。
赤字削減策は毎年の財政収支をGDP比約1%改善させる効果があると試算された。
ただ、この時、米国経済はリーマンショックからまだ完全に立ち直っていなかった。そのため、緊縮財政策によって景気の腰折れがあるのではないかとの懸念が強まった。
こうしたなか、S&Pが、債務上限引き上げが決まった直後の8月5日、米国国債の格付けを「AAA」から「AA+」へ1段階引き下げたわけだ。
この時、S&Pは格付け引き下げの理由として、・・・
2023/08/07の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。