ゾルタン・ポズサー(Zoltan Pozsar)【26】フィッチによる米国国債格下げで脱ドル化は進展、インフレ目標は3%に!
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https://real-int.jp/articles/1932/
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https://real-int.jp/articles/2246/
原油価格は上昇軌道に!
まずは原油ですが、前々回の記事で紹介したように、「上昇軌道」に入ったようです。バイデン政権はzerohedgeがツイートしているように、予定されていた6MバレルのSPR(戦略石油備蓄)在庫積み上げ再開を再延期したようです。ガソリン価格の高騰が原因だそうです。
しかし、Oilprice.comにあるように、米国の原油在庫が−15.4Mバレルと過去最大の減少となったことでまずは上昇しました。
さらに、ロイターに書かれているように、OPEC+総会で「サウジの自発的な1Mバレル/日の減産が9月まで続き、ロシアも0.3Mバレル/日の輸出を削減する」ことになったため強くなっています。ナイジェリアとアラゴンは割当量を生産できていないようです。
サウジは、何度か紹介した「Vision2030を達成するためには$90/バレルが必須」だと述べています。米国はまだ抵抗を続けていますが、ゾルタンの予言どおりに「OPEC+は需要に合わせて供給を引き締め」てきています。
ピーター・シフ氏によると、「今後3ヶ月で米ドルが10%下落すれば、原油は100ドルを超える」そうです。
ブレトン・ウッズ3体制でのフィッチの米国債格下げは2011年のS&Pによるものと状況が異なる
先日、あるニュースにより世界中の株式が下落しました。「フィッチによる米国国債のAAAからAA+への格下げ」です。これにより今まではなぜか触れられなかった「財政赤字が一気に注目され、米国長期債金利は急上昇し価格は下落、株価も下落のダブルパンチ」となりました。
ワシントン・ポストの記事に詳しく書かれていますが、2011年にS&Pが米国債を格下げした際には、グリーンスパン元議長は余裕を持っていました。
「米ドルをいくらでも刷れるのだから格下げなど問題にならない、デフォルトの可能性はゼロだ」というわけです。日本にも信者が多いウォーレン・バフェット氏は、「米国には実在するならばAAAAをあげたい」と語っていました。
しかし、このゾルタンシリーズの読者ならご理解できるように、現在は「ブレトン・ウッズ3体制」となり「米ドルはもはや必要とされていない」のです。
松島社長の記事にもありますが、今後出現するであろう「BRICSコイン」などの「金などのコモディティに裏付けされたが通貨が将来の基軸通貨となる」わけです。
https://real-int.jp/articles/2240/
そういうわけで、2011年とは状況が異なり、「米ドルの地位を維持する努力をしてきたイエレン財務長官や株価下落を嫌うウォール街がこの格下げに激怒」しました。
しかし、「アナリストやエコノミストは当然」だと認めています。フィッチの発表によると、「米国の財政赤字/GDP比率」は、2022年の3.7%から2023年は6.3%、2024年は6.6%と「上昇していく」からです。「財政赤字/GDP比率の上昇が争点」になっています。
2011年時点では、グリーンスパン氏やバフェット氏が語ったように、「財政赤字/GDP比率の上昇など問題はありません」でした。「米国の財政赤字」は、米国にモノを「輸出する諸国」が貿易黒字で「米国国債を購入して穴埋め」してくれていたからです。
ところが現在では、その「財政赤字を補填してくれていたBRICS+諸国のサウジや中国は米ドルではなく金を選好」し、「日本を除いた同盟国でさえ皆脱ドル化に動いている」わけで、「米国国債を買ってくれる存在は日銀とFEDだけ」であり、「財政赤字/GDP比率の上昇は大きな問題」というわけです。
ゾルタンの主張するようにリセッションは不可欠、構造的なインフレでインフレ目標は3%に!
昨年の株価下落は的中させたが今年の上昇は間違いだと認めた「ベア派のバンカメの著名アナリストのハートネット氏」は添付の英文記事で、「米国の財政赤字は毎日約7,300億円、今後10年間増加し続ける」と警告しています。記事内のチャートの「年率の米国財政赤字の上昇」はまさに「宇宙に上昇していくロケット」のようです。
出典:MarketWatch
ハートネット氏によると、「リセッションが起きていないことが一番の問題」だが、「コモディティ供給リスク」(米国原油在庫減少とサウジとロシアの減産、中国のゲルマニウムとガリウム輸出規制、ウラニウム産地のニジェールのクーデター)もあるとのことです。
「バンカメは今回の格下げにより再びリスクオフに移行」したそうです。つまり、ゾルタンやピーターのように「暴落」にまでは言及していませんが(立場的に困難?)、「リセッションは不可欠になった」ということです。「コモディティ供給リスク」についても、昨年春からゾルタンが予言していました。
米国債券については、バフェット氏はブルームバーグで述べているように、「格下げは心配はいらない」と購入しています。しかし、よく読めば分かるように、「3カ月物の財務省短期証券(TB)で買うか6カ月物かが問題」と話しており、「購入しているのは短期債券」です。
一方、ブルームバーグに書かれている著名投資家のアックマン氏は「インフレの長期的目標は3%となり米国30年債券利回りの5.5%(現在は4.2%)もありうる」とし、米国30年債券を売却しています。
ビル・アックマン(Bill Ackman)氏
Wikipediaより引用
報道を見ていると、「バフェット氏は買いに対してアックマン氏は売りで意見が分かれている」となっていますが、そうではありません。「アップルtoアップル」ではなく、「アップルtoペア」であり、バフェット氏が買っているのはりんご(3ヶ月Tビル)、アックマン氏が売却しているのは梨(30年債券)なのです。
ゾルタンの「インフレは一過性ではなく構造的」(再軍備、再サプライチェーン、再在庫、脱石化エネルギー)」という意見に昨年11月の記事で、実はゴールドマン・サックスも賛成しています。グローバリゼーションの崩壊と脱石化はゾルタンと同じですが、先進国の高齢化も理由としています。
そしてその中で「2%のインフレ目標は1990年代後半に設定されたもので25年後の今3%への見直し」を考えるべきか?」と提起しています。今回のフィッチの格下げで上述のアックマン氏のようにこの意見が浸透しつつあるようです。
フィッチの米国債格下げで困るのは米国ではなく、米国国債の所有国!
そして「米国国債の格下げに悪影響を受けるのは米国ではなく、外貨準備に米国国債を抱える第1位の日本や第2位の中国など他国」のようです。トップ3は日本の約1.1兆ドル、中国の約0.9兆ドル、英国の約0.7兆ドルとなっています。
「米国国債の格下げによりその価値は下落し、外貨準備高が減少する」からです。CNN英語版に書かれているように、フィッチによる格下げにより日経225は2.3%、香港ハンセン指数は2.5%、英国のFTSEが1.5%下がったのに対し、S&P500の下落率は0.8%に留まっています。「格下げ時に売るべきは米国株でなく、日経225だった」わけです。全く気づきませんでした。
脱ドル化が進み、「外貨準備が米ドルから金へと日本以外の中央銀行がシフトし、BRICS会議を目前とした中での格下げ」に、あまりに「タイミングが悪いとイエレン長官が激怒」したのも当然かもしれません。
以下の要因でさらに脱ドル化は加速!
米ドルは米国債売りで金利が上昇したこともあり、今の所は「レンジの範囲内」です。しかし、「脱ドル化」のニュースは前回時点からさらに増えています。
まずは、米国政府の意向を気にする日本政府は売却をしなくても、「日本の機関投資家が米国国債から日本国債にシフトする可能性」はあるでしょう。また、中国を始めBRICS諸国は当然ですが、前々回の記事で紹介したインドとの取引に米ドルを使用しないと宣言している「ドイツや英国、ニュージーランドさえも脱ドル化をスタートさせる」でしょう。
以前の記事で、「ASEAN会議で米ドルやユーロへの依存を減らしていこうとマレーシアやインドネシアが提唱」したことは書きました。しかし、ブルームバーグ英語版にあるよう、「マレーシア首相が習近平主席にIMF(世界通貨基金)に対抗するAMF(アジア通貨基金)を提唱」したことは見逃していました。当然、ここでは「米ドルではなく人民元が主要通貨」となるのでしょう。
https://real-int.jp/articles/2127/
先日書いたように、「IMFもアルゼンチンに人民元での返済を認めました」。他の記事で書いたのですが、ゾルタンによると「ロシアはトルコを、中国はロシアを、サウジと湾岸諸国はエジプトを、中国とサウジはパキスタンをIMF以上に支援している」そうです。
つまり、「エジプトやパキスタン、トルコなどもIMFへの返済に米ドルではなく、人民元やルーブルを使用し始める」ということでしょう。
そして添付記事にあるように、約4,200億円の造船企業との取引で「フランスも人民元取引を開始した」ようです。以前の記事でゾルタンが語っていたように「LNG取引でも人民元を使用」するそうです。
Watcher.guruの独占記事では8月22日から24日の「BRICS会議では現地通貨での貿易を議論、ブロック内では米ドルを使用しない」と書かれています。
最後に、ヤフー・ファイナンス・カナダによると、「ボリビアの参加により、南米の全ての国家が取引に人民元を使用始めた」ことになるそうです。
ヤフー・ファイナンスの記事には、ゾルタンが「白い金」と呼んだ電気自動車のバッテリーなどに使用される「リチウムの世界埋蔵量の53%がチリ、アルゼンチン、ボリビアに集中している」と書かれています。
英語版ウィキペディアによれば「銅はペルー、チリ、中国の3カ国で世界生産の半分」を占めています。ゾルタンの予言どおりに将来は「金に裏打ちされた資源生産国通貨の時代が来る」と想定すると、「資源国の南米と中国との接近は脱ドル化を大きく後押し」することになります。
いずれにせよ、調べれば調べるほど、「脱ドル化は加速化していく」ようです。残念ながら米ドル/円を除いての話ですが。
ゾルタンの「ボルカー時代以来40年ぶりの世界的なインフレと金利上昇時代の到来」という予測はもはや「コンセンサス」です。そして、ゾルタンの予言で最後に残った「L字型の暴落とスタグフレーション」も、ピーター・シフ氏によると「ありうる」ようです。フィッチによる「米国国債の格下げがゲーム・チェンジャー」となったようです。
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