ゾルタンポズサー(Zoltan Pozsar )【24】IMFが負債の支払に人民元も認めた事で脱ドル化は加速する?
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https://real-int.jp/articles/1932/
前回の記事を読みたい方はこちら
https://real-int.jp/articles/2211/
IMFが負債の支払いに人民元も認めた事で脱ドル化は加速する?
西原宏一さんも動画で語っていましたが、ゾルタンの前回の記事にあったように、「脱ドル化は予想よりはるかに早く進んでいる」ようです。
ところでポズサーと表記しているのは日経などの従来の表記に従っているだけで実際の発音ではポーザー(ZとSが繋がりAとRが繋がり、Rはあまり聞こえない)が正しいでしょう。そのため、今後は英語風にファースト・ネームで「ゾルタン」と表記させて頂きます。
衝撃だったのはGlobal Financeにあるように「IMFが6月のアルゼンチンの負債の約3分の1を人民元での支払いを認めた」というものです。
ブルームバーグの英文記事などで6月時点で「アルゼンチンが、ペソの下落により割高となった米ドルではなく、人民元での支払いを求めていた」のは、知っていました。
しかし、まさか「IMFが認めるとは思ってもいません」でした。「人民元は5つの支払い可能通貨の1つ」として認められたという記事も目にしました。アルゼンチン政府は、中国政府と通貨スワップ協定を結んでおり、その額も倍増されたそうです。今後、ますます「人民元での支払いが増えそう」です。
以前の記事では、スペインが旱魃でオリーブオイルの価格が倍となり、エルニーニョも起きたので、「今夏はさらなる旱魃で食糧危機が起こり、インフレが再燃する」と書きました。
実際日本だけでなく、欧米でも史上最高の気温となっているのは周知の事実です。EUも5月の時点で農業輸出国である「南米の経済はダメージを受ける」と警告していたようです。Nikkei Asiaにあるように「東南アジア諸国のコーヒー、米、砂糖なども軒並み生産が落ちる」ようです。これは、アフリカも同じです。
このように「今年の資源国でない農業国のグローバルサウス国家経済の見通しは暗い」ようです。負債の支払いを迫られた際に、「高金利かつ米ドル高で支払額が増加している米ドル建てで支払いたい国家は存在するのでしょうか?」
IMFへの負債を多く抱える「グローバルサウスの国々が、米ドルだけでなく人民元での支払いも開始すると、脱ドル化は一気に進む」のではないでしょうか?
そして、それは「外貨準備高にも影響してくる」でしょう。何度も解説してきていますが、「外貨準備高における米ドルのシェアは既に50%を切っています」。
これはゾルタンの昨年3月の記事にあったように、「米ドルの武器化によるロシア資産の凍結」により、「米国から圧力を受けている中国やサウジ、さらにはシンガポールなども金の購入を増やし米国債券のそれを減らした」ためです。
こうした状況下でゾルタンによると、貿易における相互取引において米ドルだけでなく人民元、インドルピー、UAEディルハムなどの通貨、金が使用できるのであれば、「安いものを選べばよい」というのです。
相互取引での「輸入での支払い」やIMFなどへの「負債の返済」を米ドルで行わなくても良いのであれば、米国からの圧力がない国でさえ外貨準備高として米ドルを用意する必要性は減り、「外貨準備における米ドルのシェアの下落率は加速化する」のではないでしょうか?
ゾルタンの予言は的中し、QEは開始された模様
そして、米国は大きな財政赤字を抱えています。ゾルタンは昨年から「今年の夏までにQEが開始される」と予言していたわけですが、それが「現実のもの」となりつつあるようです。
時事通信に書かれているように 、米国の史上初となる米国国債のデフォルトは「負債の天井の引き上げ」で、どたんばで回避されました。しかし、それを「穴埋めするために必要なのはグリーン・バック(米ドル)の増刷」です。
日経の記事にあるように「年内に1兆ドルもの短期証券を発行する」ようです。米国債の金利は上昇し、価格は下落することになります。定義にもよりますが、米ドル下落要因で、これが「ゾルタンやピーター・シフ氏のいうQE」に当たるようです。
さらに、「ゾルタンポズサー【9】コモディティのスーパーサイクルが到来!?」でポズサー氏が唱えていた今後5年間に必要となる4つの産業政策である1.再軍備(ウクライナへの支援と今後の台湾有事への備え)、2.再サプライチェーン(CHIPS法案での半導体の国内移転などへの補助金)、3.コモディティ在庫積み上げ(緊急石油備蓄を40年ぶり水準まで低下させたが10月から購入開始)、4.エネルギーのESG化(化石燃料からESGへの移転への補助金や電気自動車などに必要な西側諸国でのレアメタル・サプライチェーンの構築)には「想像できないほどの資金が必要」となります。
https://real-int.jp/articles/2011/
短期的にも、ロイターの記事にあるように最高裁で却下された「学生ローン返済免除への補填策」、IMFのウェブサイト上でシカゴ大学教授に公然と批判されている、ゾルタンによると「これほど寛大なFEDは見たことがない」と言わしめたFDICによる「それまでは上限だった25万ドル以上の預金を保護する」という「銀行への救済策」など、バイデン政権の財政拡大策は留まることをしりません。
結果としては、添付記事 に書かれているように、米国連邦議会予算局(CBO)によると「米国の2023年の財政赤字は、1.5兆ドル」に達するそうです。
米中デカップリングでブロック経済圏は進んでいる!
そして上記の以前の記事の再サプライチェーンの項目の中で、インドが中立の立場のような状況で「フレンドショアリング」ではなく「リショアリング」となるとブロック経済化が進み、「インドよりもメキシコが魅力的では?」と勝手に予測させて頂きました。フォーブスのコラムにあるように今年1月〜5月の「米国の輸入において中国が15年ぶりに首位から陥落、メキシコとカナダに抜かれて3位」となったようです。
「NAFTA経済圏の確立」が浮き彫りとなりました。「ブロック経済化は想像以上に早く進んでいる」ようです。
ロイターの記事に書かれているように、中国の第2四半期GDPが前期比+0.8%と前期の+2.2%から大幅に落ち込みました。中国経済の予想外の回復の弱さには、不動産不況や若年層の20%を超える失業率だけではなく、「米国の制裁が効いている」ということです。
一方、短期的にはゾルタンが指摘してきたように、世界の工場である「安価な中国製品」の代わりに「高価な他国製品」を購入することで「米国の貿易赤字も増える」と予想されます。
中長期的には、日本に抜かれるまで外貨準備高での米国国債保有世界一だった「中国の米国債券離れをますます加速」させることになります。どちらも米ドル安要因です。
「世界経済1位と2位の両国のデカップリング」は、異常気象やウクライナ紛争で弱体化している「世界経済にさらなるダメージ」を与えることとなります。日本も他人事ではなくなっています。
新たな要因が加わり、脱ドル化は加速する?
まとめると、
- 「外貨準備高が米国債券から金に」置き換わってきている
- 「ペトロ人民元」のように原油や天然ガスを始めとする
「コモディティ取引において米ドルの使用が減少」している - 「グローバルイーストやグローバルサウス諸国がコモディティ以外でも相互取引に自国通貨を使用」するようになっている
- アルゼンチンに続いて「グローバルサウスがIMFなど国際機関への負債を米ドル以外の通貨での支払いを開始」すると予測される(これはゾルタンではなく筆者のものです)
- 米国政府が財政赤字を埋めるために「短期証券を大量に発行し、米ドルの価値が下がる」
- ブロック経済化が進む中で「米中貿易が減少し米国貿易赤字は拡大、中国の外貨準備高における米国国債もそれに比例して減少」していく
新たに4.と5.と6.が加わってくるわけであり、西原宏一さんも発言している「中長期のはずのゾルタンの主張してきた脱ドル化(De-Dollarization)が短期的にも起きつつある」ということではないでしょうか?
ゾルタンの予言は的中しており、「De-Dollarizationのタイトルの英文記事を読まない日はない」といっても過言ではない状況となっています。
【関連記事】
https://real-int.jp/articles/2194/
https://real-int.jp/articles/2189/