処理水放出は止むを得ないのか(2)
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https://real-int.jp/articles/2209/
政府閣僚会議の決定文書批判
コロナワクチンにしろ、トリチウムにしろ、長期の安全性について公的に立証されたことはない。
「直ちに健康を害する影響は懸念されない」の一言で、さも安全であるかの如き担保がなされていると一般の方々は、ほとんどがそう思う。
原爆被曝や水俣病も、結局、長期にわたって子孫に至るまで、その毒性が人間の身体を蝕むことになったことを人ごとのようにしか捉えていないから、そうなる。
この視点から、2021年4月13日、日本政府が汚染水の海洋投棄を決定した際の、「廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議」の文書を転載しよう。
トリチウムは、
(1)水素の仲間(放射性同位体)であり、
(2)弱い放射線を出す放射性物質。
(3)トリチウムは、雨水や海水、水道水など自然界にも広く存在している。
(4)多核種除去設備では、トリチウムを除去することは困難。
(5)トリチウムは各国の原子力施設から放出されており、
福島第一原発に貯蔵されている全量以上のトリチウムが
1年間で放出されている例もあるが、
(6)トリチウムが原因と考えられる影響は確認されていない。
政府文書のトリチウムに関する規定はここだけである。
だが、この短い規定には虚偽が多く含まれている。
その主な内容は番号順に以下の通りである。
(1)水素の仲間(放射性同位体)
文書はトリチウムが水素の「放射性同位体」であると規定しながら、この規定がもつ特別の意味や危険性、リスクについては全く記されていない。
トリチウムが「放射性同位体」「放射性物質」であれば、当然、放射性物質に伴う「危険性」があるが、17ページもあるこの政府文書の中に、「風評」「風評影響」「風評被害」という言葉は、ざっと数えても50回近く出てくるが、放射性物質であるトリチウムの「危険」「危険性」「被害」「健康影響」「健康被害」は文字通り一言もない。
「可能性」の指摘としても一言もない。
これは意図的に「言葉狩り」が行なわれているわけである(文書作成は内閣官房のキャリア官僚と思われる)。
これによって、政府は実際には、放射性物質としてトリチウムには、「危険性がない」と言っているに等しい。
(2)弱い放射線を出す放射性物質
トリチウムが「弱い放射性を出す放射性物質」であるとは一体、何を言いたいのか?
放射線について「弱い」という言葉は、放射線物理学的には、その放射線の「エネルギーが弱い」、したがって「飛程(飛距離)が短い」という意味で、使われるのが常識であり、イロハのイである。
だが、政府文書は、この「弱い」を一種の「情緒的表現」として利用し、トリチウムは放射性物質ではあるが、それが放出する放射線は人体への影響も「弱く」、危険性は、ほとんどない・事実上ない・無視できる-ということを示唆しているように見える。
しかし実際には、エネルギーが低く速度が遅い「弱い」放射線は、放射線物理学の法則からは、必然的に周囲の分子に対して反応性が高く、生物学的危険度がかえって高い。
政府文書は、このような放射線物理学の基本法則から恣意的に人々の目をそらし、トリチウムの危険性が事実上、ないという印象操作をしているようにみえる。
恐らく文書作成者の部下に理系の官僚の存在があると見る。極めて悪質な「事実の脱落」である。
(3)トリチウムは、雨水や海水、水道水など自然界にも広く存在している
トリチウムは雨水や海水、水道水など自然界にも広く存在している」というのも同じく、印象操作である。
自然界にも存在するので問題ない、危険性はないと言いたいのであろうが、実際は現在、自然環境中にあるトリチウムの大部分は核兵器保有国が行ってきた大気圏核実験の残存物であるか、原発や再処理工場によって人工的に排出された環境汚染物なのである。
政府は、世界の原発・核推進勢力の一翼として、自ら生み出し、自ら自然を汚染しておいて、そのような「自然界」の汚染を、自分が行ってきたし、これから行おうとしている放射性汚染物質放出の正当性に使っている。
政府の主張は、すでに汚染物によって自然界は広く満たされているのだから、さらなる汚染も影響はなく、危険性もない。
受忍すべきであると言っているに等しい。
(4)多核種除去設備では、トリチウムを除去することは困難
「多様種除去施設では、トリチウムを除去することは困難」とは一体、何を言いたいのだろうか?
トリチウムを回収する技術は不可能であると言いたいのなら、それは違う。
回収技術は現に存在するが、廃炉計画実現までに備蓄された汚染水の全量を処理するには、時間が足りないか、コスト面で負担が重いということにすぎない。
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2023/07/18の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。