注目される最近の中東情勢
7月3日、サウジアラビアが原油生産について7月に続き8月も日量100万バレルの自主減産をする発表した。その直後、ロシアも8月の石油輸出量を日量50万バレル減産すると発表したことで、8月の石油供給量は引き締まるとの報道が流れた。
しかし、世界的な景気減速への懸念が根強く、急激な価格上昇傾向はみられていない。その中、中東地域では、エネルギー需給に直接的な関係はないものの、国際政治問題の今後のフレームに影響を与える以下の3つの重要な出来事が起きている。
・イランの上海協力機構への正式加盟
・スウェーデンでのコーラン焼却デモと「表現の自由」
・イスラエルによるヨルダン川西岸ジェニンでの軍事作戦
イランの上海協力機構への正式加盟
7月4日、上海協力機構(SCO)の第23回首脳会議で、イランの正式加盟が承認された。
SCOは、中国、ロシアに中央アジアのウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、南西アジアのインド、パキスタンの計8カ国で構成される。その人口は32億人を超え、大規模市場を形成している。
イランは、2005年にSCOのオブザーバーになり、2021年9月のタジキスタンでの首脳会議で正式加盟手続きが認められた。その後、2022年9月のウズベキスタンでの首脳会議で正式加盟の約束覚書が署名され、今回、インドが議長国となったオンライン首脳会議で、第9番目の加盟国となった。
SCOは、EUや北大西洋条約機構(NATO)と異なり、緩やかな国家連合体であり、加盟国以外にもオブザーバー国(6カ国)、対話パートナー国(9カ国)が関与している。
中東地域では、2013年にトルコが加盟を要請しており、2019年にはサウジ、カタール、エジプト、2022年にはUAE、クウェート、バーレーンが対話パートナーになり協議に加わっている。
今回の首脳会談では、食料安全保障、燃料危機、農業問題、アフガニスタン問題などがオンライン上で議論された。
イランの加盟については、インドのモディ首相は、チャバハール港への開発投資が進展し、国際南北輸送回廊の利用が進むことに期待を表明した。
また、ロシアのプーチン大統領、イランのライシ大統領からは、SCO加盟国間の貿易を促進する新たな銀行、通貨メカニズム創設の必要性が語られた。
モディ首相、プーチンおよびライシ両大統領が語った2つの事項の実現は、加盟国の連帯や相互信頼を高めるのみならず、欧米主体の物流、金融の枠組みにチャレンジするような新たな秩序形成の試みといえる。
その一例が、通商促進のための自国通貨の使用であり、中国・ロシア間ではすでに80%が自国通貨で決済されている。
イランのSCOへの正式加盟は、基軸通貨ドルの価値に変化をもたらす要因が1つ増えることを意味し、今後、この動きは、SCOの対話パートナーである湾岸アラブ産油国や、BRICS加盟国にも広がる可能性もある。
欧米の制裁下にあってもなんとか経済を持ちこたえさせてきたイランのSCO加盟により、ユーラシア大陸での新たな物流と金融システムの構築が進むことが期待されている。
それは、イランと同様に米国から敵視されている中国、ロシアにとっても国益となる。
スウェーデンでのコーラン焼却デモと「表現の自由」
6月28日、スウェーデンのストックホルムのモスク前におけるクルド労働者党(PKK)支持者によるデモで、イスラムの聖典であるコーランが焼却される出来事が起きた。本年1月にも、同国のトルコ大使館前でのデモでコーランが焼却されている。
今回の出来事は、7月11日にリトアニアのビリニュスで開催されるNATO首脳会議でのスウェーデンの加盟承認を一層難しいものにした。
スウェーデンは2022年5月、フィンランドとともに加盟申請を行ったが、トルコ、ハンガリーの反対で加盟が遅れている。
一方、フィンランドは2023年3月27日にハンガリーが、同月30日にトルコが議会承認し、4月4日、ブリュッセルのNATO本部で加盟手続きを終了させている。
NATOにとっては、バルト海や北欧地域の安全保障の強化という観点から、スウェーデンとフィンランドの加盟は望ましいことである。
このため、ストルテンベルク事務総長は、トルコ、ハンガリー首脳との電話会談を重ねるなど、スウェーデンの加盟承認を働き掛けてきた。
また、スウェーデン政府も、トルコ政府が要求するテロ対策強化に努めており、1月に反テロ法を整備し、6月21日に施行させている。
同法には、
(1)テロ組織への参加、
(2)テロ組織への支援に最長8年の禁固刑を科すこと
が盛り込まれている。
さらに、テロ対策措置について、スウェーデンは、フィンランド外務省、NATO事務局もとともにトルコ大統領府との協議も重ねてきた。その中、6月28日に起きたコーラン焼却デモをどう位置付けるか、意見が分かれている。
表現の自由をめぐる価値の対立
トルコのフィダン外相は、この出来事を「卑劣だ」とツイッターで非難し、「このような悪質な行為を見て見ぬふりをするのは共犯だ」と述べた。
同外相が「共犯だ」と言及した理由は、次のようなものである。
このデモの申請書に「ストックホルムの大モスク前で抗議し、コーランに関する自分の意見を表明したい。コーランを破って燃やす」と記されており、警察はこれを知りながら許可を出した。
さらに、この申請以前に、スウェーデンの控訴裁判所が現行法下ではコーランを焼却するという理由ではデモの申請を却下する正当な根拠にならないとの判断を下していた。
つまり、スウェーデンの現行法では、反イスラム的行為は、表現の自由の範囲内とされているのである。
米国務省のミラー報道官は、6月29日、「デモの許可は表現の自由を支持するもの」と述べ、スウェーデンの立場を擁護した。これに対し、トルコのエルドアン大統領は、同日、「イスラムの神聖な価値観を侮辱することは表現の自由ではない」と非難している。
なお、同大統領は、6月25日に、ストルテンベルクNATO事務総長との電話会談で、PKK支持者のデモは中止されるべきとの見解を示していた。「表現の自由」としてのコーラン焼却には、他のイスラム諸国からの反発の声が上がっている。
7月2日、サウジのジェッダで開催されたイスラム協力機構(イスラム諸国56カ国、1機関が参加)の緊急会議では、今回の行為はイスラムに対する「侮辱行為」だとして強く非難し、再発防止対策を要求する声明が出された。
翌7月3日、エルドアン大統領は、スウェーデンのNATO加盟について、同国が合意した事項を忠実に実行しない限り、加盟反対の姿勢は撤回しないとの考えを示した。
その後、ストルテンベルク事務総長によるトルコ、スウェーデンへの働きかけ、ワシントンでのバイデン大統領とスウェーデンのクリステション首相との会談(7月5日)、イギリスのスナク首相とエルドアン大統領との電話会談(7月7日)など外交交渉が続いている。
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メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。
(この記事は 2023年7月9日 に書かれたものです)