日銀短観からみた国内景気動向
大企業、製造業の業況判断DI上昇は一過性か
6月調査、日銀短観によれば、大企業、製造業の業況判断DI(「景気が良い」と答えた企業の割合マイナス「悪い」と答えた企業の割合)は、前回3月調査のプラス1から4ポイント上昇し、プラス5となった。
同DIは、通常、国内景気の動向を端的に示す指標とされている。
ただ、今回の景気拡大局面では、製造業の景気は新型コロナウイルス感染拡大時の財への特需とその反動による財需要の落ち込みにより、世界的に製造業景気の低迷が続いている。
製造業景気の指標を、過去の景気循環と同様に扱うことには注意しなければならない。
これは日本だけでなく、先進国の景気すべてにあてはまることだ。
同DIは新型コロナウイルス感染拡大により2020年6月にマイナス34に下落したが、ロックダウンに伴う「財」への特需から、2021年9月、12月にはプラス18に急上昇した。
しかし、その後は、特需の一巡、欧米の金利上昇に伴う世界経済悪化懸念、ロシアのウクライナ侵攻に伴う資源価格急騰などにより、
だらだらと下落し、今年3月調査ではプラス1まで下落していた。
特に、昨年12月から今年3月にかけてのDI下落幅は6ポイントと、それ以前の4四半期間の下落幅(4四半期の累計で11ポイントの下落)に比べ大きかった。
3月の落ち込みが大きかったのは、米シリコンバレー銀行の破綻を契機にした欧米での金融不安の高まりが、世界的な景気悪化が起きるではないかとの見方が強まったからにほかならない。
だが、実際には金融不安を起点とした世界景気悪化は起きなかった。逆に、金融不安を警戒した欧米中銀の金融引き締め一時中止姿勢により、世界的に株価が上昇した。
各国のPMI調査などをみると、製造業景気はなお低迷が続いている。
ただ、3月に大きく落ち込んだ後、一時的に上向いた例もある。例えば、米ISM製造業景気指数の動きをみると、2月47.7、3月46.3、4月47.1、5月46.9、6月46.0となっている。
金融不安で3月に大きく落ち込んだあと、4、5月はやや持ち直す展開となった。
「金融不安を起点とした世界景気悪化が起きなかった」ことが、4、5月のISM製造業指数を押し上げた可能性がある。
今回の短観が製造業景気の回復を示したという点では、円安の進む日本だけの特殊事例とも言えなくないが、やはり、「前回3月調査時に懸念されたほど景気が悪くならなかった」ことが、今回の大企業、製造業の業況判断DIの予想外の上昇になったとみられる。
実際、業況判断DIの回答には、「良い」「悪い」のほか、「良い」と「悪い」の間に、「さほど良くない」という回答があるが、6月調査では「良い」が増えているわけではない。
大企業、製造業の場合、前回3月調査では、「良い」が17%、「さほど良くない」が67%、「悪い」が16%だった。
これに対して、今回6月調査では「良い」が17%と変わらず、「さほど良くない」が71%、「悪い」が12%だった。
つまり、「悪い」が減り、その分「さほど良くない」が増えたため、DIが上昇したわけだ。さほど悪くなかったことが、DIを上昇させた。また、同DIの動きを業種別にみると、かなりばらつきがある。
最も大きく上昇したのは石油・石炭製品で、紙パがそれに続く。
それぞれ40ポイント上昇(3月のマイナス46から6月にマイナス6へ上昇)、18ポイント上昇(同マイナス25からマイナス7へ上昇)となった。
ロシアのウクライナ侵攻以降、エネルギー、原材料価格の急騰が石油製品や紙パメーカーの製造コストを増加させ、業況を大きく悪化させたが、エネルギー価格はこのところ軟調な推移を続けており、それがDIのマイナス幅を縮小させた。
また、食料品が17ポイント上昇(同マイナス11からプラス6へ上昇)、造船重機が15ポイント上昇(同マイナス8からプラス7へ上昇)、自動車が14イント上昇(同マイナス9からプラス5へ上昇)し、これら3業種は、それぞれプラス転換した。
食料品のDI上昇は最近の食品値上げによって、ここまでの輸入価格高騰によるコスト増を価格転嫁することに成功しているからにほかならない。
自動車のDI上昇は円安の効果のほか、半導体不足の影響が緩和して、生産が持ち直してることが理由だ。
半面、製造業のなかでも、生産用機械、業務用機械や電気機械については、3月調査時にDIはプラスだったが、今回6月は、プラス幅が縮小する形で、DIはやや低下した。
以上のように、大企業、製造業のDIの今回の上昇には3月時の大幅下落の反動もあるため、上昇が続くかどうかは不透明だ。
これに対して、非製造業のDIの上昇(景況感の回復)は、・・・
2023/07/04の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。
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