原油価格 100ドルに向けて上昇の可能性
世界の原油需要は1~3月実績、4~6月推計値ともに予想以上に増加
原油価格の軟調な推移が続いている。
2か月前の4月25日付の本レポートで「原油価格は年後半の原油需給が大幅な需要超過となるため、年末125ドルの可能性もある」と書いたが、年前半の展開は、予想とは全く逆で、原油価格は下向きに推移している。
どこが間違ったのか。
まず、原油需給の動きを再確認してみよう。原油価格が軟調に推移していることからすれば、想定外に原油需要が減少したか、あるいは供給が増加したと考えるのが自然だ。
IEA ”Oil Market Report”で2か月前の4月時点の原油需給見通しと直近6月の同見通しを比べ、
・過去の動きを示す23年1~3月の実績が2か月前の推定値に対してどう変わったのか
・足元の動きを示す同年4~6月の数値が2か月前の予想に対してどう変わりつつあるのか
・23年暦年全体の予想が、2か月前の予想に対して、どう変わろうとしているのか
をそれぞれみていくことにする(表1参照)。
世界全体の原油需要
まず、世界全体の原油需要だが、2か月前の見通しでは、1日当たりの原油需要は、23年1~3月推計値が1億40万バレル、同年4~6月予想が1億120万バレル、23年暦年予想が1億190万バレルだった。
それが、6月見通しでは、23年1~3月実績が1億50万バレル、同年4~6月推計値が1億160万バレル、23年暦年予想が1億230万バレルと、それぞれ上方修正された。
23年1~3月
23年1~3月については、中国が1,580万バレルから1,560万バレルと下方修正されたが、中国を含めた新興・途上国地域全体でみると、5,490万バレルから5,500万バレルへと上方修正された。
先進国も4,540万バレルから4,550万バレルへと上方修正された。
23年1~3月は中国が事前見通しに届かなかったが、それ以外の新興・途上国や先進国の需要が予想以上に増加し、世界全体でも需要は事前予想を若干上回ったことがわかる。
23年4~6月
続く、23年4~6月推計値については、先進国が4,590万バレルから4,570万バレルへと下方修正されているが、中国が1,590万バレルから1,630万バレルへと上方修正され、新興・途上国全体でも5,530万バレルから5,590万バレルへとかなりの上方修正になっている。
先進国の需要は足元でやや伸び悩んでいるが、中国など新興・途上国の需要が予想外に上向きつつあり、世界全体の需要も予想以上に上向きつつある。
23年通年の予想
23年通年の予想についても、中国が1,620万バレルから1,610万バレルと若干下方修正され、先進国は4,620万バレルのまま予想に変化はないが、新興・途上国全体では5,570万バレルから5,600万バレルへと上方修正され、中国以外の新興・途上国の需要増加が世界全体の需要を押し上げるという構図になっている。
IEAによる中国の需要予想はもともとかなり楽観的で、22年実績の1,500万バレルから、4月見通しでは1,620万バレルと急増するという見通しだった。
今回の見通しでは1,610万バレルと下方修正されたが、それでも大幅予想に変化はなく、下方修正は、少なくとも需要の落ち込みを意味するわけではない。
4~6月推計値がかなり上方修正されていることを考えると、中国の需要が今年に入って増加し始めたことは間違いない。
結局、原油需要の動きをみると、過去の実績を示す23年1~3月についても、足元の状況を示す4~6月についても、世界全体の需要は2か月前の予想以上に増加していることを示す。
23年通年の予想についても、IEAの予想は上方修正されており、少なくともこの予想を信じるとすれば、軟調な原油価格を説明する要素にはならない。
OPECの減産により世界の原油生産は徐々に減少
では、世界の原油生産の動きはどうなのか。
同じようにIEAの見通しで、23年1~3月、同年4~6月、23年通年の世界の原油生産が2か月前の見通しに比べてどう変わったのかをみていこう。
IEAはOPECの原油生産については実績値は発表しているが、予想値を出していないため、こちらで前提を置いて計算していかなければいけない。
そこで、まず、OPECの原油生産についての想定だが、2か月前の想定では、23年1~3月が2,920万バレルのあと、23年5月からの100万バレル減産により、4~6月が2,850万バレル、7~9月、10~12月がそれぞれ2,820万バレルと減少し、23年通年では2,850万バレルと想定していた。
今回の想定では、23年1~3月実績が2,930万バレルとやや上方修正されたが、5月までの実績から推定すると4~6月は2,840万バレルとやや下方修正となり、サウジによる7月からの100万バレル追加減産を考慮すると、23年通年の予想は2,810万バレルと2か月前の予想に比べ40万バレルの下方修正となる見込みだ。
サウジの財政収支均衡価格は80ドル/バレル以上とされ、減産強化により原油価格押し上げを目指していると言われる。
OPECの生産について、サウジアラビアが減産を強化する一方で、イランやベネズエラなどが生産を増やしており、それが問題視されているが、イランやベネズエラの生産増はわずかで、それがOPEC全体の生産に及ぼす影響は限定的だ。
実際、OPECの生産は22年9月の約3,000万バレルをピークに、23年5月は約2,830万バレルとピーク比170万バレル減少しており、イランやベネズエラの増産はOPECの生産を大きく増やしているわけではない。
一方、非OPECの生産をIEAの見通しでみると、23年1~3月が2か月前の推計値の6,670万バレルから今回6月時点の実績値によれば6,690万バレルに上方修正され、4~6月予想も6,680万バレルから6,690万バレルとわずかに上方修正された。
23年通年の予想は6,710万バレルから6,720万バレルへとわずかに上方修正されている。
非OPECのなかでは、キーになるのは、米国シェールオイルとロシアの動向だ。図1にみる通り、米国シェールオイルの生産は増加傾向を続けている。
一方、ロシアの生産はウクライナ侵攻前の1,000万バレル強の水準から22年4月に一時910万バレルに減少したが、その後は急速に持ち直し、23年初めには一時1,000万バレル超えとなった。
ただ、足元は960万バレルと伸び悩んでいる。
IEAによる非OPECの生産予想が幾分上方修正されているのは、以下によるものだ。
- 米シェールオイルの生産が順調に伸びていること
- IEAはもともとロシアの生産が制裁の効果によりかなり抑制されるとみていたが、
実績に合わせて順次上方修正されていること
最後に、OPEC、非OPECを合計した世界全体の原油生産と、生産から需要を差し引いた生産超過幅はどうなるか。
2か月前の見通しでは、原油生産は、23年1~3月推計値が1億130万バレル、同年4~6月予想が1億60万バレル、23年暦年予想が1億100万バレルだった。
それが、今回6月時点では、23年1~3月実績が1億160万バレル、同年4~6月推計値が1億70万バレルとそれぞれ上方修正されたが、23年暦年予想はOPECの減産強化を反映して1億70万バレルと、下方修正になった。
結果として、生産から需要を差し引いた生産超過幅は、23年1~3月実績が90万バレルの生産超過から110万バレルの生産超過と生産超過幅が拡大し、逆に4~6月推計値は需要超過幅が60万バレルから90万バレルに拡大、23年通年予想も需要超過幅は90万バレルから160万バレルに拡大する見通しだ。
結局のところ、これらの需給動向をみると、原油価格の最近の軟調な推移を説明する材料としては、1~3月の生産超過幅拡大くらいしかない。
ただ、4~6月がすでに需要超過に転換しつつあることを考えると、1~3月、つまり過去の生産超過が現在の原油安材料になっているとは考えにくい。
実際、最近の需要超過傾向を反映して、米国ではガソリンの在庫が減少傾向、ガソリン価格は年初来、上昇傾向を辿っている。
このほか、需給面で原油価格を左右する要因としては、23年後半以降も原油需要の増加が続くというIEAの予想が信用されていないという点があるかもしれない。
市場は年後半以降、世界経済が悪化し、世界の原油需要が大きく減少するリスクを高めにみている可能性がある。
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2023/06/19の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。