【19】円安を止めるのはポズサー氏の主張するL字型の暴落しかない?
ゾルタン・ポズサー氏の記事を1番最初から読みたい方はこちら
https://real-int.jp/articles/1932/
前回の記事を読みたい方はこちら
https://real-int.jp/articles/2128/
ゾルタン・ポズサー氏の英語版ウィキペディアが出現!
米国でもファンド・マネジャーやストラテジスト、エコノミスト、金利トレーダーなど限定された分野のプロにしか知られていなかったポズサー氏ですが、昨年3月の寄稿「ブレトン・ウッズ3体制の始まり」以降の予測がほとんど的中してきたため、一般にも知られつつあるようです。
その未来を予測する能力はある歴史家に、将来の世界金融情勢を予測する「ファイナンシャル・フィクション」分野のジュール・ヴェルヌやH.G.ウェルズと例えられたようで、「預言者」に代わり最近の記事では使用されています。そして、ついに英語版のウィキペディアも登場しました。
前回紹介したピーター・シフ氏など多くのストラテジストは、ウィキペディアが存在します。つまり、ウィキペディアもなかったほどあまり知られていなかったということのようです。5月のクレディ・スイスを退社後に、注目が集まっているようです。
ここでポズサー氏の予言を振り返ってみましょう。
1.米国一極体制と米ドル時代の終焉
これはこのシリーズに何度も書いてきたように、ペトロダラーの終焉とペトロ人民元の夜明け、BRICS+共通通貨構想、BRICS間貿易での自国通貨使用など日本メディアにも取り上げられつつあります。イエレン財務長官もDe-Dollarization(脱ドル化)と外貨準備での米ドルシェアの低下を公式に認めたようです。
もっとも前々回の記事に書きましたが、ラガルド総裁と同じで米ドルの代替がない為にすぐには起きないと言う意見です。
https://real-int.jp/articles/2127/
西側のG7に対して東側のG7であるBRICS+(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ、サウジ、トルコまたはエジプト)という対抗勢力がロシアへの経済制裁により出現するという予言も当たりました。3月の北京での中ロ首脳会談とイランとサウジの国交回復会談で中国とサウジがロシア・イランとの同盟関係に入ったことが決定打となりました。
その後はドイツに続いて、スペイン、フランスも大企業幹部を同行した北京詣でを行いました。先日のG7でもロイター英語ニュースにあるように、中国に対してデカップリングではなくデリスキングを宣言、中国との経済的な決別は回避されました。
景気後退とインフレに苦しむ中、電気自動車パーツを100%近く中国に頼り、輸出先としても最大の中国と決別するなど西欧諸国には無理な話だったわけです。
そしてG7では岸田首相が事前にアフリカ諸国を歴訪、オーストラリア、韓国に加え、グローバルサウスに属するブラジル、インドネシア、ベトナム、アフリカ連合、クック諸島を招待するなど、非常に活躍されました。
しかし、アフリカ連合議長には「友人である中国」と言い間違えられ、ブラジルのルラ大統領はウクライナを支援するバイデン大統領を批判するなど、グローバルサウスが東側のG7に近いことを印象づける結果となってしまったのは残念でした。
2.コモディティ獲得戦争と価格上昇、
コモディティ20/現金20/債権20/株式40のポートフォリオ
金は、何度も取り上げてきたように、米ドルに代わる外貨準備高として中国、ロシア、中東、シンガポールなどBRICSなどの中央銀行の大量購入により上昇を続け、今年中にはドル建てでの最高値を更新すると言われています。
食料も、昨日の米国のCPIは4%と収まりつつありますが、英国、欧州ではインフレ率が二桁を超えるなど、上昇は収まりそうもありません。欧州旅行から帰ったばかりですが、例えば空港で水を買うと2.5ユーロ、物価は日本の3倍というのが実感です。
スペインでは大旱魃でオリーブオイルの生産が4割減少するというニュースも見つけました。イタリアの「100の噴水」で有名な世界遺産庭園では、水不足で噴水が停止していました。エルニーニョ警戒も発動され今年は気温が史上最高となるようで、さらなる旱魃が予想されます。
ウクライナ紛争でのダム破壊なども加わり、食料が不足し、グローバルサウスでは食糧危機が悪化しそうです。
石油のみはブレント先物が70ドル強と低迷していますが、これは何度も触れているようにOPEC+の減産に対抗して米国が40年ぶりの低水準まで戦略石油備蓄を抑えていることで供給が絞られてないことです。需要面では中国の景気がゼロコロナ撤廃後も回復してこない、欧州が−0.1%と僅かではあるが2四半期連続のマイナス成長でリセッション入りしていることです。
大統領選を来年に控えたガソリン価格の方が台湾有事よりも重要という民主党政権の本音が見られますが、これはポズサー氏にしても想定外だったのは仕方がないでしょう。エコノミック・タイムスによると昨年5月時点でのGSの昨年末のブレント原油先物価格の予測も135ドルでしたので。
伝統的な「株式60:債券40」のポートフォリオに代わり、上記のポートフォリオを提唱しましたが、これも見事に当たりました。昨年は株式、債券共に価格が下落したので、現金に換金し、金を保有した投資家はうまくいったはずです。
3.フレンドショアリング、再軍備、ESGの促進
中国に依存するサプライチェーンを友好国とのものに切り替えるフレンドショアリングは急速な勢いで進んでいます。台湾有事を考慮しているのか、台湾からの半導体工場の移転が計画されており、米国と日本にTSMCが工場を建設中です。アップルがインドへの投資を増やしています。
再軍備は欧州、日本で軍事費増大が準備中です。ESGは石化エネルギーへの依存脱却はさらなるインフレを生むことが理由なのか、スピードが遅くなっているようです。英文記事では風力発電所の音により多くの鳥やクジラが犠牲になっているなど、否定記事が見られるようになってきています。
4.TRICKsの脅威
トルコ、ロシア、イラン、中国、北朝鮮の脅威も現実化しています。米国に制裁されている国々の集まりだそうです。ウクライナ紛争前には制裁を加えられていたのはイランと北朝鮮でした。それが、紛争をきかっけに、5カ国に増えてしまったことが脅威となっています。
ブルームバーグの記事では、イランはロシアにドローンを供給、ロシアがドローン基地を作るなどロシアを軍事的に支援しているようです。北朝鮮もロシアへの武器輸出が確認され、今年も何度もミサイル発射実権を実施しています。
米国軍3万人の撤退で脅されたのか韓国がG7側に復帰したことは米国外交の数少ない勝利かもしれないですが、ポズサー氏の言うように台湾も朝鮮半島もウクライナ同様有事だということの証明でしょう。
ウクライナ紛争を起こしたロシアに対しての制裁決議に賛成する諸国がグローバルサウスでは少ないという解説もしてきました。つい最近も朝日新聞の記事にあるように東ティモール大統領のG7のウクライナに対する援助とグローバルサウスへの援助は不公平という発言もありました。
ウクライナ紛争により食料も不足し、米国利上げで米ドル負債の返済金利が上昇するなど苦しんでいるグローバルサウス向けのOECDにGDPの1%を充てろという無理難題とも思える要求です。こうした小国の発言がニュースになるのも、グローバルサウスが東のG7に近いというG7諸国の危機感があるからこそでしょう。
トルコでは、予想に反しエルドアン大統領が再選されました。NATO加盟国にもかかわらずウクライナの穀物輸出の仲介をしたり、ロシアから天然ガスをルーブル建てで輸入するなどロシアとの関係を強めています。
中国は経済面でも軍事面でも、米国にとっての最大の脅威となっています。欧州は脅威ではあるが、交易相手でもあるとの認識です。
5.粘着性のインフレと高金利時代の到来
4月末の記事の最後に記したように、ポズサー氏の金利は5〜6%になるまで上昇する、FEDのターミナルレート予想の5.1%に対して、市場は7月から利下げとなり、年末のFF金利は4%になると主張していました。どちらが正しいのかのご判断はお任せしますと書きました。
https://real-int.jp/articles/2086/
6月FOMC後のブルームバーグの記事では、ターミナルレートは5.6%に0.5%も引き上げられています。パウエル議長は、「利下げは2年先」とも発言、7月は利下げどころか利上げが確実視されています。
4月には3.5%まで下落した米国2年債利回りは、6月半ばには4.6%まで戻しています。「株式60:債券40」の復活と宣言してFEDに逆らって債券を購入した投資家は大きな損失を出していることでしょう。
高金利とインフレが持続するというポズサー氏の主張が、やはり正しかったようです。
次回も引き続き、ポズサー氏の予言を振り返っていきます。