ゾルタンポズサー【14】革命的なm-CBDCブリッジプロジェクト
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https://real-int.jp/articles/1932/
BRICSの拡大の経緯とBRICS+間の取引における米ドル離れ、米国利上げ開始はポズサー氏の論文が影響?
BRICSの拡大により、BRICS+は独自の経済圏を形成します。そこでは米ドルは使用されません。こうした脱米ドルを予測してポズサー氏が発表したのが2022年3月に書かれたブレトンウッズ体制3の始まりというゾルタンポスサーシリーズ1で解説した記事です。
その後たった1年の間に、まさにその予言どおりに東側諸国は米ドルを交易に使用せず、米国国債を外貨準備としない世界に向かっているようです。
いろいろ調べたところ、ゼロヘッジによるとブラジルと中国が交易に自国通貨を使用すると発表、イーロン・マスクも重大な問題と反応しています。
他の記事によると上記のルビオ上院議員が米国の覇権についての脅威だと発言、そして驚くべきことに同記事では中国とロシア、中国とインド、中国とサウジ、インドとロシア間で自国通貨での取引が開始されているようなのです。中国とブラジル、中国とインド間の交易は原油や天然ガス取引ではありません。ブラジルは鉄鉱石、インドはロシアから輸入した原油を精製した石油が主要輸出品です。
ブラジルでは昨年10月の大統領選挙で「ブラジルのトランプ」と呼ばれた右派のボルソナル氏が敗れ、左派のルラ氏が復帰しました。彼は「BRICSは守りではなく攻撃のために設立された、ユーロとは異なり米ドル支配から逃れるための自分たちの通貨が必要だ」と発言しているそうで、まさにBRICSコインと同じ発想です。
この政権交代により、ブラジルも米国と米ドル離れを加速化させそうです。ブルームバーグによると中国訪問時には米国企業による輸出許可が停止されているファーウェイの施設を訪問するそうで、対決姿勢を強めているようです。
そして、報道によると、脱米ドルの中心がインドだというのです。前回の記事でSCOのメンバーだったことから初めて知りましたが、インドはやはり向こう側の国だったようです。インドはUAEともルピーとディルハムでの交易を検討し、ロシアからの原油購入代金をディルハム建てにするようです。イランとロシアは既に天然ガスと原油を人民元で取引しています。
上記のポズサー氏の発言のようにロックダウンの間にBRICSが関係強化をしていたのならば、ロシア制裁によるドル資産凍結はBRICSのさらなる結束とBRICS+への拡大を生んだわけで、米国の米ドルの武器化という政策は失敗だったということになります。英文のインタビュー記事を全て読んだのですが、フランスのマクロン大統領も米ドルの武器化を批判していました。
BRICS+の拡大はさらなる米ドルの不使用を意味します。今後ますます相互の通貨を使用する取引が増えてくるのでしょう。
そしてポズサー氏によると、中国とロシア、サウジが工業製品や天然ガス、原油を売却した利益はもう米国国債の購入には使用されません。途上国への米ドル負債の返却の援助に用いられるというのです。
1年ほど前には0%だった米国の政策金利は現在4.75~5%であり、米ドル建て負債を抱える途上国の返済額は大きく増大しています。またリセッションが目前となり、資金のレパトリエーション(本国、ここでは米国への資金の回帰)も起きていると推察されます。
こうした途上国にとって苦しい状況において、ロシアはトルコを、中国はロシアを、サウジと湾岸諸国はIMF以上にエジプトを、中国とサウジはパキスタンを支援しているそうです。中国も米中対立が深刻となり、途上国を「債務の罠」にはめる方針は撤回したようです。
サウジのBRICS+の加入は、ゲームチェンジャーとなっているようです。こうした資金援助によりBRICSにサウジと湾岸諸国、トルコ、エジプト、パキスタンが加わるのは当然ですよね?
そして米国財務省資料によると、米国国債の購入トップ10は2位の中国を除くと西側諸国だけだと理解できました。サウジは圏外です。米国国債への流入資金の収縮は、米ドル離れにつながります。これにBRICS+国間での自国通貨取引による脱ドル化が加わると、米ドル下落となるわけです。
ところで、米国の利上げ開始は2022年3月です。それまでインフレが一時的と言っていたパウエル議長が突如の方向転換をしたのですが、これはまさにポズサー氏が「ブレトンウッズ3」という原稿を発表した時期と重なります。
G7財務相や中央銀行のアドバイザーであるポズサー氏の意見により議長が利上げを始めたというのは、考えすぎでしょうか?本来なら2021年からゆっくりと利上げするべきだったFEDが0.5%、0.75%と異常なペースで利上げを続けたのはインフレが粘着的、構造的だと理解したからではないでしょうか?
ブルームバーグのクレディ・スイス吸収合併直後のサマーズ元財務長官の発言は銀行危機とは関係なく、インフレに対処するべきというもので、まさにポズサー氏の主張そのものです。このシリーズの閲覧者はお気づきだと思いますが、FEDやECB幹部の発言も同様です。
2007年〜8年の世界大恐慌(サブプライム〜リーマン・ショック)時と同じく、G7財務担当者が預言者ポズサー氏のアドバイスを必要とするぐらい世界情勢は実は緊迫しているのではないでしょうか?もう平時ではなく、戦時に入っているのです。
革命的なm-CBDCブリッジプロジェクトがBRICS+の交易を直接結びつける!
「ゾルタンポズサー【5】世界は新冷戦時代 2023年も60/40には戻らない?」でも触れられていましたが、FEDに変わって中国人民銀行が最後の貸し手となり、米ドルの代わりにCBDC(中央銀行デジタル通貨)がBRICSの中央銀行で使用されていくのです。
https://real-int.jp/articles/1956/
中国とインドに続き2024年にはロシアとブラジルがCBDCを導入、南アフリカは遅れていますが意義は理解しているそうです。UAEは既に導入しており、サウジとの間で共同のデジタル通貨取引システムを模索しているそうです。
m-CBDC(Multiple Central Bank Digital Currency)ブリッジプロジェクトが、CBDCを通じてBRICS+の中央銀行を結びつけるのです。そこには米ドルは使用されません。原油や天然ガスだけでなく、中国の工業製品などの取引でもBRICS+間では米ドルは必要とされないのです。BRICSコインはまだ時間がかかりそうですが、こちらは着実に進展しています。
G7の中央銀行、G-SIBs、ディラーはロシアの資産を凍結した米ドル武器化に参加、制裁を恐れるBRICS+は中国人民銀行を中心にCBDCで対抗し財務戦争が起きつつあるということです。
例えばポズサー氏が母国ハンガリーにいてシンガポールの友人に代金を払う際、今までのシステムではハンガリーフォリントをユーロ、ユーロを米ドル、米ドルをシンガポールドルに交換する必要がありました。m-CBDCブリッジではハンガリーフォリントをシンガポールドルに直接交換できます。
まさに革命的なのです!m-CBDCブリッジプロジェクトは始まりにすぎないそうです。
この財務戦争において、西側はCBDCの罠にはまってはいけないそうです。FEDは現在のシステムを維持すべきで、CBDCは必要がないのです。
つづく・・・
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