ゾルタンポズサー【8】「TRICKs」の脅威
前回の記事はこちら
【1】ブレトンウッズ体制3は起きるのか?
https://real-int.jp/articles/1932/
【2】米ドル時代の終焉と人民元時代の到来
https://real-int.jp/articles/1933/
【3】2023年 FXでの勝者と敗者
https://real-int.jp/articles/1934/
【4】2023年 何に投資をすべきか
https://real-int.jp/articles/1936/
【5】世界は新冷戦時代 2023年も60/40には戻らない?
https://real-int.jp/articles/1956/
【6】L字型の大不況とスタグフレーションの必要性
https://real-int.jp/articles/1960/
【7】予言どおりに世界情勢は変化
https://real-int.jp/articles/2006/
「TRICKs」の脅威と台湾と韓国の地政学リスクによる日本への影響は?
「TRICKs」とはトルコ、ロシア、イラン、中国、北朝鮮を指すようです。いずれも独裁者が支配する全体主義国家です。トルコは、現在はEUとNATOのメンバーですが、歴史的には欧州と対立してきたオリエントの盟主であり、宗教・思想・民族的にも異なり、メンバーであることが不自然に思えます。
ポズサー氏によると、いずれも米国に制裁されている国家であり、経済的にも軍事的にも結びついているそうです。制裁により商品や最先端半導体が入手できなくなり、米国への復讐心に燃えているわけです。欧州と日本には接近しており、仲間に引き込みたいようです(北朝鮮は除く)
半導体、穀物、天然ガスや石油は台湾海峡、ボスポラス海峡(トルコ)、ホルズム海峡(イラン)を通じて輸送されます。米国対中露の経済戦争が起きており、こうした海峡が重要となっているそうです。
2022年8月のペロシ元下院議長の訪台時にはロイターの記事によると中国は、台湾海峡を封鎖する軍事行動を行いました。もし封鎖が起きると約70%の先端半導体を台湾のTSMCに依存している米国には致命的となります。
同月のブルームバーグの記事にあるように、最先端半導体の生産を米国に回帰させるCHIPS法が民主・共和両党一致で最速で成立したのは台湾有事で最先端半導体が入手できなくなることを恐れての行動でしょう。
ブルームバーグの2月の記事にあるように、日本の熊本県でTSMCの工場がまだ稼働もしていないのに2つ目の工場誘致の話が湧き上がりました。米国は中国への先端半導体輸出規制は、こうした「フレンドリーショア」完成のための時間稼ぎと考えているようです。問題は工場建設と生産まで数年かかることだそうです。
2019年12月には日経の記事によると、原油輸送経路であるホルムズ海峡などで中国・ロシア・イランが軍事演習を行っています。
2022年8月のロイターの記事にあるボスポラス海峡を通したウクライナの穀物輸出は、トルコがロシアと交渉して再開されました。NATOの黒海への入り口はボスポラス海峡だからだそうです。日経の記事にあるようにトルコはロシアからの天然ガス輸入の一部をルーブル払いにすることに合意、制裁への抜け穴を作っています。両国が極めて近い関係にあるのは間違いないでしょう。
反対にロイターにあるように、以前に触れたスウェーデンの極右政党がトルコに対する抗議デモでコーラン焼却事件を起こしトルコが激怒、同国のNATO参加が遅延する事態となっています。
この3つの海峡が東側に抑えられてしまうと、確かに大変なことになりますね。
そして北朝鮮だけでなく、本来なら味方であるはずの韓国が優柔不断な態度を取っています。ポズサー氏によると、韓国は文前政権の親中姿勢から米国から同盟国とみなされていないそうです。AUKUSという太平洋における米英豪軍事同盟に韓国は参加を許されなかったのです。上述の安倍元首相が提唱したクアッドにも参加していません。
新政権になっても東京新聞の記事にあるように、尹大統領は昨年8月のペロシ元下院議長の訪韓の際にも会談をせず、国会議長に任せています。
日本とオランダが参加した先端半導体輸出規制にも、韓国は参加していません。1年間の猶予措置があり、サムスンなどの中国工場が抜け穴となる可能性があるようです。しかしロイターの記事にあるように圧力は強まっています。こうした中国を慮った曖昧外交に米国は激怒しているそうです。
北朝鮮がICBM級のミサイル実験を続ける中でブルームバーグの記事にあるように、3月半ばから米国との10日間に渡る軍事演習を行うようですが、米軍3万人が撤退したどうなるのかとポズサー氏は危惧しています。
ポズサー氏によると、ウクライナに加え、台湾、韓国も地政学リスクにあるのです。
さらに、多方面戦争をどうやって遂行するのかという問題もあるそうです。ウクライナにおける消耗戦で兵器の在庫がついてもすぐには生産ができず、補充に時間がかかるからです。昨年5月に米国国防省がウクライナに送った1300発のストリンガーミサイルの代替をレイソン社に発注したところ、台湾とサウジへの発送がすでに遅延しているので、時間がかかると言われたのです。
米国の砲弾の年間生産量は1億5500万発ですが、ウクライナに送れば2週間でなくなるそうです。台湾海峡が封鎖されれば、軍事用品生産に必要な半導体も不足し、さらに生産が遅延します。韓国が東側につくと、西側はさらなる半導体不足に陥るのです。毎日新聞の記事によると、徴用工問題にバイデン大統領が歓迎の意を示したということですが、米国から韓国・日本への圧力があったことは間違いないでしょう。
新しい顧客向けに作られた商品を古い顧客に送る詐欺である「ポンジスキーム」のように、レイソン社がミサイルを作るのを、米国も台湾もサウジも、待つしかないのです。ウクライナと台湾での2方面戦闘は、兵器の供給上難しいようです。
こうした冷戦下でインフレが収まるなど、地政学リスクとは無縁の米国だから起きる意見なのでしょう。
台湾、韓国、中国、ロシア、北朝鮮に囲まれたポーランドやバルト3国のような状況にあるはずの日本が楽観的なのはどうしてなのでしょうか?台湾有事になり沖縄の米軍基地が活用された場合に沖縄は日本の領土なので攻撃対象ではないと中国は思ってくれるのでしょうか?
東洋経済の記事が一番詳しかったので引用しますが、米国のシンクタンクのシナリオでは、ウクライナと異なり台湾では米軍が参加、日本が米軍基地を使用させないと勝利はないようです。米軍に基地使用を許可するのか、極東で唯一の同盟国である台湾を見捨てて中立を保つのか、議論が必要のようです。
L字型大不況とスタグフレーション後はどうなる?
前回の記事で紹介したL字型の経済の急降下とその後に続くスタグフレーションは、まだ起きていません。エコノミストの間でも雇用が予想外に強く、リセッションは年後半という見方が増えているようです。ゼロ金利によるバラマキで米国経済は想定外に強く、先延ばし状態となっているからです。
ポズサー氏によると、もし起きると、株価や不動産価格の大幅下落による逆資産効果で需要は減り、供給に合致するようになるそうです。まさに日本のバブル後の世界ですね。
「Chimerica」と「Eurussia」の崩壊により、中長期的にコモデティや賃金などのコストは上昇します。金利もインフレも高止まります。需要を増やすと供給制約も崩れるので、L字型から/字型にするためには、財政政策が必要になるそうです。
・・・続く
【関連記事】
https://real-int.jp/articles/1906/
https://real-int.jp/articles/1928/