ゾルタンポズサー【7】予言どおりに世界情勢は変化
前回の記事はこちら
【1】ブレトンウッズ体制3は起きるのか?
https://real-int.jp/articles/1932/
【2】米ドル時代の終焉と人民元時代の到来
https://real-int.jp/articles/1933/
【3】2023年 FXでの勝者と敗者
https://real-int.jp/articles/1934/
【4】2023年 何に投資をすべきか
https://real-int.jp/articles/1936/
【5】世界は新冷戦時代 2023年も60/40には戻らない?
https://real-int.jp/articles/1956/
【6】 L字型の大不況とスタグフレーションの必要性
https://real-int.jp/articles/1960/
前回の記事から1ヶ月の間にポズサー氏の予言どおりに世界情勢は変化!
ゾルタン・ポズサー(Zoltan Pozsar)氏が「戦争と政策金利」の次に読むべきとしているのが今回の記事「戦争と産業政策」です。必須である4つの産業政策によりインフレは長期化するそうです。
ところで、前回の記事を執筆してから僅か1ヶ月の間に、世界情勢はポズサー氏の予言どおりに進んでいます。
https://real-int.jp/articles/1960/
前回の記事の後半では「労働市場は強く、食料や資源価格がウクライナ侵攻で上昇している中でも、賃金は上昇しています。FEDは予測でなくデータに依存し、データ次第で変更されるので、ドットプロットは当てにならない」という論説がありました。
2月4日のロイターの記事にあるように、1月の雇用統計では非農業部門雇用者数は予想の18万5千人増に対して51万7千人、失業率は3.4%と53年ぶりの低水準となりました。
3月3日のロイターの記事では、非農業部門の生産あたり報酬である労働コストが前期比3.2%と速報値の1.1%から上方修正されています。エコノミスト予想は1.6%であり、第3四半期の6.9%からは下落してものの、まだまだ強いのです。
FOMC後にはパウエル議長自身がまさに「データ次第」だと言い出し、ドットプロットは5.00~5.25%から5. 5~5.75%へと上昇しています。1月時点では3月の0.25%の利上げで暫く様子を見るはずだったのが、5月と6月の0.25%の利上げも市場は織り込んでいるからです。
FEDの委員達もその状態が来年の今頃までも続くと発言しています。金利の高原状態が続くわけです。エコノミストの中では6%以上の最終金利が必要との意見も出ています。
まさに前回記事でのポズサー氏の予言どおりの展開となっています。
L字型のまずは垂直に落ちる深い不況と、それに続くフラットなインフレ時の景気後退であるスタグフレーションが必要のようです。インフレだけでなく、消費(需要)の抑制によりサービス部門の強い雇用も抑えてくれるからです。
https://real-int.jp/articles/1956/
前々回の記事では、王道だった「株式60:債券40」ではなく「現金20:株式40:債券20:商品20」が新冷戦時代の基本とありました。
2023年の株式市場はパウエル議長のディスインフレが始まったというハト派発言もあり「ノーランディング(景気後退が起きない)」などという幻想も語られ、ベア・マーケットラリーで上昇していましたが、2月の雇用統計後には下落に転じました。
債券もPCE価格指数発表後の2月24日には2年債利回りが4.84%と2007年以来の高水準(価格は下落)となっています。
2020年3月のCOVID-19によるFEDの緊急利下げとゼロ金利政策により翌年12月まで株価が高騰するバブルが発生、莫大な利益が発生しました。下げても好材料に過剰反応し、すぐに資金が流入するため、未だに暴落には至っていません。
しかし、金利が来年春まで高止まりするわけですから、ポズサー氏の予言どおり、株式も債券も昨年同様にじりじり下げ、ベア・マーケットから脱することはないでしょう。
そして、ポズサー氏はBRICS+(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカにトルコとサウジなど湾岸諸国を加えた)の接近も予言していました。
ロイターの2月23日のニュースでは、南アフリカが同国沖で中国とロシア海軍との軍事演習を行ったようです。
ロイターによると、昨年9月には米国、オーストラリア、日本、インドによる安全保障・外交同盟クアッドの一員であるはずのインドが中国やベラルーシ等と共にロシアでの軍事演習に参加しています。
3月2日には中国がベラルーシと首脳会談を行っています。米国による先端半導体制裁などにより中国はロシアとの接近を隠さなくなってきており、中国によるロシアへの武器供与を米国は警戒しています。
米中貿易戦争の激化は「デカップリング」という用語も生まれ、もうポズサー氏だけの意見ではありません。
ブルームバーグの2月の記事によると、米国は、中国に独占されているレアアース分野において、西側のブロック経済圏を築こうとしているようです。
日本ではあまり話題になっていませんが、新冷戦は激化しています。
「Chimerica(中国アメリカ)」と「Eurussia(EUロシア)」体制の崩壊
グローバル・サプライチェーンは平和時には有効ですが、経済戦争時には機能しません。半導体は海峡と空が開かれている限りは台湾から輸出されます。米国にはメキシコ国境から安い移民による労働力、中国からは安い工業製品が、欧州にはロシアから安い天然ガスが入っていました。
「Chimerica」と「Eurussia」という2つの地政学ブロック経済圏の存在により、欧米も中ロも皆が利益を得ていました。信頼があれば解決できましたが、なければ終わりです。
中国は「Chimerica」体制により経済大国となり、5Gや最先端半導体などの先端分野での覇権を目指しましたが、米国は安価な工業製品の供給国であることは認めましたが、米国を凌ぐことは許しませんでした。こうしてバイデン政権後にも中国への規制はさらに厳しくなり米中貿易戦争は激化、台湾危機が現実となっています。
天然ガスを供給したロシアも、それを元に自動車など100倍の価値の工業製品を生み出したドイツも、「Eurussia」体制下で富裕国となりました。ロシアとドイツを直接結ぶパイプラインの「ノルド・ストリーム2」も建設中だったのです。
強い相互依存関係だったわけであり、ロシアと思想的に近い社会民主党のショルツ首相がウクライナ紛争当初は「ヘルメット500個を供与する」と発言したのは、この強い関係性を物語っています。しかし、国際世論に糾弾され、ついには最新の「レオポルト2」戦車供与を発表、完全離婚に追い込まれました。
こうして、「Chimerica」と「Eurussia」も、米中貿易戦争とウクライナ紛争により崩壊してしまいました。
・・・続く
【関連記事】
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https://real-int.jp/articles/1928/