財政危機 米10年国債利回りは大幅上昇も
米連邦債務上限引き上げ問題が再燃
この先、「財政」がマーケットを動揺させる要因になるおそれがある。
米国では連邦債務上限引き上げ問題が再燃している。米国では連邦政府が発行する国債残高の上限額が法律で定められており、上限を超える資金調達はできない。
財政収支は赤字が続いており連邦債務残高は増加している。第2次世界大戦後から現在までに債務上限は100回以上引き上げられた。そのため連邦債務上限引き上げ問題は日常茶飯事の出来事と言っていい。
連邦債務上限引き上げができないまま、米国債の利払いなどの財源が不足する場合は、米国債のデフォルトが発生する。
イエレン財務長官は1月19日に債務残高が債務上限に到達したことを受けて、「特別措置」を発動した。
「特別措置」の内容は、公務員退職基金などへの投資一時停止や為替安定化基金への投資延期などを通じて短期的に債務の履行を可能とするものだ。
この特別措置を講じても、債務残高が本当に上限に達するのは、6月中旬以降になると発表した。
最新データを基に議会予算局が新たに試算したところ、債務不履行の期限は7月から9月にかけてと、やや後ろ倒しになった。
ただ、例年、米国で所得税などの納付が多く見込まれる4月の歳入が想定より少なかった場合、7月より以前に財務省において対応資金が枯渇する可能性があるとも試算されている。
今回は特にデフォルトの危険性が高いとも言われている。
昨年11月の中間選挙で上院では与党民主党が過半数を維持したものの、下院では野党共和党が過半数を奪取した。
この結果、2023年からの米議会は上下院で多数政党の異なる「ねじれ」議会となった。
米国では法案成立のためには上下両院で可決する必要がある。そのような中、下院共和党はコロナ禍対応で大幅に増加した財政赤字の削減に向けて社会保障をはじめとする大幅な歳出削減の実現を目指し、連邦債務上限の引上げを民主党との交渉材料とすることを鮮明にしているからだ。
米国債デフォルトが起きるとすれば影響は極めて大きい。いくら野党でも最終的には債務上限引き上げに同意せざるをえない。
本当にデフォルトを起こすと思っている人はいない。だが、この債務上限引き上げ問題が「財政危機」につながるおそれはある。
米連邦債務上限引き上げ問題が「財政危機」に移行した2011年の例とは
しばしば取り上げられる2011年の例をみてみよう。この時、下院で多数を占める共和党の教条主義的な増税忌避姿勢のために、議会が機能不全の状態に陥っていた。
債務上限引き上げができないままデフォルトが起きるのではないかとの懸念が高まっていた。同年8月2日、難航の末、米国議会の債務上限引き上げ法案が成立した。
2012年末までに必要な2.1兆ドルの債務上限引き上げが可能になった。ただ、法案には今後10年間(2012~21年)で約9,000億ドルの歳出削減が盛り込まれ、さらに議会は11月下旬までに1.5兆ドルの具体的な赤字削減措置を提示し、12月下旬までに採決することが必要になった。
赤字削減策が決められない場合には、1.2兆ドルの歳出が強制的に削減されることになった。赤字削減策は毎年の財政収支をGDP比約1%改善させる効果があると試算された。
デフォルト回避で一件落着かと思われたが、実際の危機はその後に起きた。S&Pは、8月5日、米国国債の格付けを「AAA」から「AA+」へ1段階引き下げた。
S&Pは格付け引き下げの理由として、下記を挙げた。
- 政府債務上限の引き上げとそれに関連した財政政策を巡る議論が長引いたことは、
社会保障給付金など歳出の伸びの早期抑制や歳入増加で与野党が合意する可能性が
想定より低く、引き続き議論が難航することを示唆していること - 議会と政権が合意した財政再建策もS&Pが考える規模を下回ったこと
短期的な財政緊縮の行き過ぎが景気に及ぼすデフレ効果、長期的な財政赤字削減見通し(そのためには増税や社会保障給付削減が不可欠)への不透明感などから、この格下げを契機に世界的に株価が急落した。
当時の米国債利回りは、リーマンショックからの米経済回復、原油価格反発などによるインフレ加速などにより、2010年10月の約2.3%を底に、11年2月にかけ3.6%程度に上昇し、その後も同年8月まで3%台前半を中心に推移していた(図1参照)。
しかし、世界的な株価下落による、質への逃避から利回りは急低下した。また、財政危機は欧州に波及した。欧州では2009年10月のギリシャ政権交代による財政の粉飾決算問題をきっかけに、欧州各国国債の信用が低下していた。
2012年にかけ、ギリシャを発端にアイルランド、ポルトガルへと財政破綻が相次ぎ、イタリアやスペインなどでも国債利回りが急上昇した。
単一通貨ユーロの瓦解寸前にまで追い込まれた。
結局、2012年にECBドラギ総裁(当時)が「ユーロ防衛のためには何でもする」との姿勢で、利回りが大きく上昇したイタリアなどの国債購入を決めた。
中央銀行による流動性供給で金融不安を沈静化させたことが、財政危機をも沈静化させた形だ。
米国では、2011年8月の米国債格下げの結果として起きた米国債利回り急低下のあと、財政不安が再燃することはなかった。
Q1、Q2に次ぐ2012年9月~13年末のQE3の効果もあり、13年6月にバーナンキ議長がQE3のテーパリングを発表するまで米10年国債利回りは1%台後半を中心に推移した。
簡単に言えば、2010年代初めに起きたことは次のようなことだった。
すなわち、リーマンショックに対応した各国の景気刺激策で財政赤字が増大し、それに伴って財政に対する不安感が強まり、S&Pによる米国債格下げや欧州債務危機といった、財政危機にまで発展したが、中央銀行による国債買い支え、あるいは事実上の財政ファイナンスが功を奏して、ソブリン危機は収まった。
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2023/02/27の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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