米インフレは再加速の兆し
ピークアウトしていたはずのインフレに再加速の兆し
1月の米消費者物価は、全体で前月比0.5%上昇と前月の0.1%から伸びが加速した。
エネルギー、食品を除くコア物価は前月比0.4%上昇となり、伸びは前月と同水準だった。
前年比でみた消費者全体の上昇率は、昨年6月の9.1%をピークに1月は6.4%へ、上昇率はかなり速いペースで鈍化傾向は続いている。
ただ、12月(同6.5%)に比べると、鈍化のペースは0.1ポイントと小幅になった。
同様に、コア物価の前年比は、昨年9月の6.6%をピークに1月は5.6%へと上昇率は緩やかな鈍化傾向が続いているが、やはり12月(同5.7%)に比べ、鈍化のペースは0.1ポイントとわずかなにとどまっている。
昨年年央から年末にかけての消費者物価全体の上昇率鈍化は、主にエネルギー価格の下落による部分が大きかったが、足元のエネルギー価格は下げ止まっている。
米国のガソリン価格(93オクターン)は、昨年6月に5ドル/ガロンまで上昇したが、12月には2.4ドルと半値以下に下落した。
しかし、その後、ガソリン価格はやや上向き、1月以降は2.7~3.2ドル程度で推移している。
全体の消費者物価の前月比上昇率が前月の0.1%上昇から0.5%上昇へと加速したのも、こうしたエネルギー価格の動きを反映したものだ。
一方、コア物価の前月比は昨年1月以降0.3~0.6%の範囲で安定的に推移している。この1年間の前月比上昇率の平均は0.46%と高めの上昇率が続いている。1月の前月比0.4%は直近1年間の動きに沿ったものだ。
同前年比が、昨年9月の6.6%をピークに1月は5.6%へと鈍化したのは、コロナ禍の半導体不足で急騰した中古車価格の反落など、一時的に需給逼迫が起きた財の価格が反落したことが主因だ。
だが、直近では雇用が予想外に急増し、消費も増加に転ずるなど、景気は再加速する兆しがみられる。
1月の雇用統計では雇用者数が前月比51.7万人増と急増した。
また、小売売上高は昨年11月、12月と2か月連続で前月比1.1%減と減少していたが、1月は同3.0%増とほぼ2年ぶりの大幅増となった。
レストランなどサービス消費だけでなく、これまで低迷していた自動車、家具などの財の消費も増加に転じた。
足元の小売売上増加からみると、下落していた財の価格も再び上昇に転ずる可能性がある。
基調的な物価上昇の背景にあるのは単位当たり労働コストの増大
この1年間のコア物価の上昇率は、前月比0.4~0.5%、前年比5~6%程度となっているが、やや長い目でみると、コア物価上昇率がこのように安定的かつ高めの推移が続いているのは、景気(需要増加)要因というより、賃金コスト増加による部分が大きい。
具体的には、単位当たり労働コスト(=一人当たり名目賃金 ÷ 労働生産性)(ULC、Unit Labor Cost)の増加が物価の基調的な上昇の要因になっている。
単位当たり労働コスト = 一人当たり賃金 ÷ 労働生産性
=(雇用者報酬 ÷ 雇用者数)÷(実質GDP ÷ 雇用者数)
= 雇用者報酬 ÷ 実質GDP
= 雇用者報酬 ÷(名目GDP÷GDPデフレータ―)
= 労働分配率 × GDPデフレータ―
である。
同式から、労働分配率が一定であれば、単位当たり労働コスト(ULC)の動きはGDPデフレータ(=物価)の動きに一致することがわかる。
そして、ULCが物価の基調的な動きを示す指標になる。
米労働省によれば、10~12月の非農業部門労働生産性は前年同期比1.5%低下し、一方、時間当たり給与は同3.0%増加した。
この結果、ULCは同4.5%増加した。結局、このULCの増加が物価上昇に反映されている。
実際に、FRBが物価目標として重視するコア消費デフレータとULCの動きを見比べると(図1参照)、2000年頃からULCが先行して上向き始め、それに幾分遅れて2001年頃からコア消費デフレータが上がり始めたことがみてとれる。
このところの世界的な物価上昇はロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格等の高騰やサプライ・チェーンの混乱が主因だとする見方があるが、実はインフレの根源は違うところにあったことがわかる。
同様の現象は1960~70年代のインフレ局面にもみられた。
1960~70年代のインフレは石油ショックが原因だとする見方が多いが、やはり、ULCの増加がインフレに先行していた。
1月の雇用統計では、雇用者数が大幅に増加するとともに、失業率が3.4%と53年ぶりの低水準となった。
求人数は、高水準ながら徐々に減少傾向を辿っていたが、12月には1,101万件と予想外に増加し、労働需要が旺盛であることも示された。
平均時給は前月比0.3%増と低めだったが、これは賃金水準の低いレジャー・宿泊業の雇用が雇用を牽引しているためだ。
コロナ禍からの経済再開に伴う、レジャー・宿泊業など低労働生産性、低賃金業種の活況は、平均的な賃金を減少させると同時に、平均的な労働生産性をも低下させてため、ULCに対しては中立的だ。
ただ、失業率低下にみられる労働需給逼迫は、今後、賃金を押し上げ、ULCを増加させて、基調的なインフレ加速要因になる可能性が高い。
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2023/02/20の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。
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