原油価格は55ドル方向に向かう!
鈍い市場の反応
国際石油市場に2つの重大事象が生じた。
いずれも、市場価格の先行きに大きなインパクトを与えるものだが、エネルギー分析の専門家や商品市況のアナリストたちの多くは、その重大性に極めて反応が鈍い。
オイル市況はインフレ動向やドルの行くえ、世界経済の先行きに決定的なインパクトを与えるだけに、単なる需給の先読みでトレンドの予測ができるものではない。
むしろ、あらゆる分野にアンテナを張り日々の動向をウォッチしている向きの“第六感”の方が余程、正しい予測となる…。
2つの重大事象とは、以下のことである。
(1) G7・豪州によるロシア産原油の上限価格設定(12月5日から)
(2)サウジと中国による戦略的包括協定の署名(12月8日)
WTI原油価格は12月9日現在、71ドル(一時70.08ドル)と60ドル大台を目前にするところまで下落している。
12月当初から約10ドルの大幅下落であり、北海ブレント先物価格も、12月1日の87ドル手前から76ドル台へと同じく10ドル幅の下げとなっている。
いずれもほぼ1年前の価格水準に戻ったことになる。
2022年は年初からウクライナ情勢の緊張が高まり、原油価格は上昇トレンドを辿ることになり、ロシアの軍事侵攻開始でWTIは100ドルを突破、3月初には瞬間風速で130ドル超の高騰となった。
その後も年前半は100~120ドル前後の高価格が続いたが、夏場以降は低下局面に入り、9月には80ドルを割る展開となった。
今回の価格下落で、ウクライナ情勢の緊張によって生じてきた原油価格の上昇が元に戻る状況になっている。
言うまでもなく、この原油価格下落の最大の背景要因は世界経済減速への懸念の高まりと、それによる石油需要鈍化・低迷への危惧である。
エネルギー価格や食料品価格などがウクライナ危機の影響で一気に高騰すると、世界的にインフレ高進が重大な問題となり、それに対応するため米欧の金融当局は大幅な利上げに金融政策を転換した。
これらの影響下で景気減速への懸念が高まり、IMFなどが発表する世界経済見通しでは、成長見通しの下方修正が相次いできた。
また、世界最大の石油輸入大国である中国において、厳格な「ゼロコロナ政策」が実施されてきた中、石油も含め中国のエネルギー需要が一気に鈍化してきたことも油価の重要な下押し要因となってきた。
11月に発生した中国での抗議デモを受け、ゼロコロナ政策の緩和の動きが出ているが、
医療体制の不備とPCR検査の減少で、一気に感染拡大となるリスクもあり、定かでない。
ロシア産原油価格上限設定
この流れの中で、(1)の決定が実施(5日から)された。
ウクライナ戦争の只中、ロシアがパイプラインを通じたEUへの天然ガス輸出の削減を武器にする一方、ロシア依存が強すぎてガス輸入の削減が困難なEUは、ロシアからの石油輸入を標的にした制裁を展開してきた。
5日からはさらなる強力な制裁に踏み込む。
つまり、既に決められている船舶で輸送されるロシア産石油の禁輸に加え、G7 と豪州は新たな措置を取る。
- ロシアから輸入する石油に上限価格(60ドル/ バレル)を設ける。
- 国際的船舶保険が集中する英国、EUの保険会社は船荷のロシア産石油が、
上限価格以下の場合だけ保険契約に応じる
無保険を嫌う船主が上限より高い価格のロシア産石油の輸送を拒否すれば、この措置により世界はロシア産石油の供給をこれまでより安価で受けられることになる。
しかもロシアの輸出収入は抑え込まれ、ウクライナ戦費にも支障が出る。うまくいくか?
成功のためには「カルテル破り」が蔓延しないことが必要だ。
どこかの国が上限より高い値段でロシア産石油を求め、船主がその国に無保険で輸送するカルテル破りが起こり、それが広がるようだと計画は崩れる。
インド、中国、トルコはこれまで割引された価格で売られるロシア産の輸入を拡大することで利益を受けてきた。
3国に限らず、経済苦境に立たされる途上国にとり安いエネルギーは魅力だから、上限価格を超えても、まだ他所より安いロシア産に飛びつこうとするだろう。
もう一つは、石油産油国の動きが問題だ。かつての石油消費国によるカルテルという計画にOPECは脅威を感じた。
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(この記事は 2022年12月12日に書かれたものです)