米長期金利低下は深刻なリセッションへの懸念が原因
逆CPIショック後、金融市場は来年後半以降の大幅利下げを想定
10月の米消費者物価の伸びが事前予想を下回ったことで、11月7日以降、米長期金利が低下し、ドル安、米株高となった。
いわゆる「逆CPIショック」だ。それからほぼ一か月経ったが、予想外に、米長期金利低下の状況は続いている。
米金融市場で、いったいどういう変化が起きているのか、改めてみてみよう。
FF金利先物市場の動き
まず、FF金利先物市場の動きをみてみよう。10年国債利回りが4.2%とピークをつけた11月7日時点では、FF先物市場におけるFF金利の想定は、5月FOMCに5.1%に引き上げられ、その後、9月頃まで5.1%で据え置かれたあと、11月FOMC辺りから低下する、というものだった。
24年1月FOMC時典では、4.8%とやや低下するという想定になっていた。つまり、逆CPIショック前は、FF金利のターミナルレート(最終着地点)は約5.1%で、そこで半年程度据え置かれたあと、11月以降の小幅利下げが想定されていた。
しかし、直近12月9日時点でのFF金利の想定は、5月FOMCに5.0%に引き上げられ、その後、6月頃まで5.0%で据え置かれたあと、7月FOMC辺りから徐々に軟化する、というものに変わった。
24年1月FOMCのFF金利は4.4%とかなり低下する見通しになった。つまり、逆CPIショック後は、FF金利のターミナルレートは約5.0%で、CPIショック前とさほど変わらないが、比較的早い時期に、FEDは利下げに転じ、23年後半中にかなりの幅の利下げが実施されるという見通しに変わった。
金融市場は、来年後半以降の早期利下げを織り込む形になっている。
債券市場では実質金利が低下し、一方でタームプレミアムが
大幅マイナス水準に
債券市場の変化
次に、債券市場では、どうような変化が起きたのか?
名目金利(10年もの国債利回り)は、実質金利(10年もの物価連動債利回り)と予想インフレ率(ブレーク・イーブン・インフレ率)に分解できる。
10年もの国債利回り = 10年もの物価連動債利回り + 予想インフレ率
である。
10年もの国債利回りは11月7日の4.2%から12月9日に3.6%と0.6ポイント低下した。一方、10年もの物価連動債利回り(実質金利)は同期間に、1.7%から1.3%へと、0.4ポイント低下した(図1参照)。
差し引き、予想インフレ率は同期間に2.5%から2.3%へと、0.2ポイント低下した。結局、この間の10年国債利回りの低下幅0.6ポイント中、実質金利低下幅は0.4ポイント、予想インフレ率が0.2ポイントだったということになる。
CPIショック後の動きは、インフレ予想の低下というより、実質金利低下の寄与が大きかった。
つまり、金融引き締めの度合いが緩むことを債券市場は想定していることになる。これは、FF金利先物市場の動きと整合的な動きとも言える。
ただ、債券市場には単に早期の金融緩和期待というだけでなく、やや異質の動きもみられる。長期債利回りは予想短期金利の平均値にタームプレミアムをプラスしたものになる。
例えば、
3年債利回り
=1年債利回り+1年後の1年債利回り+2年後の1年債利回り+タームプレミアム
になる。
タームプレミアムというのは、投資家が、長期で投資することによるリスクに相当して要求する余分のリターンであり、理屈の上ではプラスになるはずだが、2010年代後半以降は、マイナスになることが多くなっている(図1参照)。
ニューヨーク連銀の推計によれば、タームプレミアムは最近、上下に振れることが頻発しているが、この1か月間で、タームプレミアムは大幅にマイナスに転じた。
11月7日の10年国債のタームプレミアムはゼロだったが、12月9日にはマイナス0.9%となった。
つまり、逆CPIショック以降の10年もの国債利回りの低下は、金利の先行き予想が低下したということのほかに、投資家が長期投資で本来、要求すべきプレミアムが低下したことが原因であることがわかる。
・・・・・
2022/12/12の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。
【関連記事】
https://real-int.jp/articles/1905/
https://real-int.jp/articles/1899/