利上げペース減速の是非は今後のデータ次第
利上げペース減速観測が台頭しているが…
米国の利上げペースが緩むのではないかとの期待が高まっている。その利上げペース減速観測が、ドル相場を押し下げ、米国株を反発させているようだ。
こうした観測が浮上したのには、いくつか原因があるようで、火元もいくつかある。
原因1 G20財務省・中央銀行総裁会議の議長総括
第1に、10月12~13日、ワシントンでのG20財務省・中央銀行総裁会議の議長総括で、以下のように記された。
G20 の中央銀行は、それぞれのマンデートに沿って、物価の安定を達成することに強くコミットしている。
このために、中央銀行は、インフレ圧力がインフレ予想に与える影響を注意深くモニタリングしており、景気回復の確保と各国間への波及効果の抑制に配慮しつつ、インフレ予想の安定維持を確保するよう、データを踏まえて明確なコミュニケーションを行いながら、引き続き、金融政策の引き締めペースを適切に調整する
このなかの最後の部分である「金融政策の引き締めペースを適切に調整する」との表現が利上げペース減速を示唆する表現として、ことさら取り上げられた。
原因2 FRBへの政治的圧力
第2に、米国では中間選挙を控えて、FRBへの政治的圧力が高まっている。
米金融当局を監督する上院銀行委員会のブラウン委員長(民主)は、パウエル議長に宛てた書簡で、以下のように述べた。
「インフレに立ち向かうのはあなたの仕事だが、同時に完全雇用を確保する責任も見失ってはならない」
「われわれの短期的な前進と強い労働市場が、インフレ抑制のための積極的な金融措置の影響によって圧倒されるのは回避せねばならない」
そして、世界の中央銀行による同時引き締めやロシアのウクライナ侵攻などが「世界経済を悪化させる現実的な可能性」に鑑み「引き続き注意」するよう要請した。
原因3 FOMCメンバーの利上げペース減速示唆発言
第3に、FOMCメンバーからも将来的な利上げペース減速を示唆する発言があった
セントルイス連銀のブラード総裁は、以下のように述べた。
「ゼロ金利から脱却し、政策金利はここまで高い水準に来た。しかし適切な水準に達すれば、そこからは小幅な調整をすれば良い。金利をそのままで維持するかもしれないし、もう少し小幅に引き上げるかもしれない。入手するデータ次第だ」
「インフレに有意な下押し圧力を加えるにはどの水準にすべきか。この判断が今後2回の会合で政策討議の重要な部分になるだろう」
サンフランシスコ連銀のデーリー総裁は、以下のように述べた。
「政策当局者らは利上げ幅の縮小を計画し始めるべきだが、まだ大幅利上げから一歩下がる時期ではない」
「(次回FOMCでは)市場で織り込まれている75bpの再利上げとなる可能性はありそうだが、いつまでも75bpだという考えに固執しないほうが良い」
「政策金利が今の利上げサイクルにおけるターミナルレート(最終地点)に近づくにつれ、50bpや25bpの、より段階的な引き上げに減速するのが適切になるだろう」
原因4 カナダ銀行(中央銀行)の政策委員会の対応
第4に、10月26日、カナダ銀行(中央銀行)の政策委員会は、主要政策金利である翌日物金利を3.25%から0.5ポイント引き上げ、3.75%とした。0.75%の利上げを予想していた市場予想に反して利上げのペースを落とした。
このように、今後の利上げペース減速を示唆しているとも解釈できる動きや関係者の発言について「利上げサイクルの終わり」と解説するメディアもあり、それが株高やドル安に拍車をかけた格好だ。
カナダの利上げ幅縮小はカナダの失業率上昇、インフレ率鈍化に沿った措置
だが、G20で示された「データを踏まえて明確なコミュニケーションを行いながら、引き続き、金融政策の引き締めペースを適切に調整する」との表現は、ある意味、当然のことを言ったにすぎない。
また、景気後退懸念に強まるにつれ、FRBへの政治的圧力は強まるのは当然だろうが
、現段階で政治的圧力をかけることは、中央銀行の独立性を傷つけるものとして、かえってFRBは金融引き締め姿勢を硬化させる。
現状は、米国景気はなお過熱気味で、インフレも加速していることから、FRBは金融引き締めを続けるべきだという大義名分がある。
この程度の圧力で、金融政策が緩めになることはない。FRBへの政治的圧力が強まって本当に問題になるのは、米国景気がリセッション入りした後のことだろう。
さらに、ブラード総裁の「ゼロ金利から脱却し、政策金利はここまで高い水準に来た。しかし適切な水準に達すれば、そこからは小幅な調整をすれば良い。金利をそのままで維持するかもしれないし、もう少し小幅に引き上げるかもしれない。入手するデータ次第だ」や、デーリー総裁の「いつまでも75bpだという考えに固執しないほうが良い」といった発言も、FOMCの予想通りに米国のインフレが鈍化していけば、利上げ幅も縮小させていい、ということを言ったに過ぎない。
最後に、カナダが利上げ幅を縮小したのは、カナダの経済指標の変化に沿った調整にほかならない。
カナダの消費者物価前年比は6月の8.1%をピークに7月7.6%、8月7.0%。9月6.9%と鈍化している。
エネルギー・食品を除くコア消費者物価前年比は7月5.5%のあと、8月5.3%、9月5.4%と高止まりしているが、少なくとも上昇テンポの加速は止まった感がある。
また、カナダの失業率は6、7月の4.9%から8月5.4%、9月5.2%とやや上向き、
労働需給ひっ迫度が緩んでいることを示唆している。
これに対して、米国の消費者物価は6月9.1%をピークに9月8.2%とやや鈍化しているが、カナダに比べ上昇率は高い。
コア消費者物価の加速は止まっておらず、9月の前年比は6.6%と、カナダに比べ1%ポイント以上高い。
また、米国の失業率は7月3.5%のあと8月3.7%とやや上昇したが、9月は再び3.5%と最低水準に戻った。
米国の労働需給は引き締まったままだ。カナダが利上げ幅を縮小したのは、カナダの労働需給が幾分緩和し、インフレ加速にも一服感があったからに他ならない。
米国でも経済指標でカナダ同様の動きが示されれば、利上げ幅は縮小される可能性があるだろう。
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2022/10/31の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。
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