米国実質金利低下がドル安の主因
ユーロ高の不可解
それにしてもユーロドルの強さには唖然とするしかない。この通貨が、これほど買われる魅力はどこにもない。ひたすらドル売りの対象通貨になっただけのことだろう。
7月21日にEU首脳が復興基金の創設で合意(合意前は1ユーロ=1.1425ドル)して以降、押し目らしい下落もなく、8月6日には1.161916ドルと、わずか13営業日で4.3%も跳ね上がり、2018年5月以来の水準となった。
この間、投機筋のポジション(差し引きしたネットポジション)を確認すると、ユーロ買いポジションは2018年4月以来となる12万枚まで積みあがっている。
3月にFRBが緩和姿勢を強めて以降、ドル資金の受け皿として、投機筋がユーロのショートポジションを解消(ユーロ買い)し、ユーロロングのポジションを構築した。
その後、5月に独仏や欧州委員会が相次いで復興基金を提案したことをきっかけに、再び投機筋はユーロロングのポジションを積み増した。
ただし、ユーロロングのポジションの過去最高は15万枚(18年4月)となっており、しかもユーロドルのRSI(相対力指数)は一時80ポイントあって、現在も買われ過ぎゾーンの70ポイント台ゆえ、市場の過熱感は否めない。
確かにEU復興基金の創設承認は、これまで実現できなかった欧州圏の財政統一に向けた第一歩であり、心理的好感に繋がり、且つ域内の景気改善期待も高まる。
実際、7月のユーロ圏PMIは景気の好不況の分かれ目となる50を回復したし、ドイツのifo景況指数も改善の動きがみられる。
また、復興基金の創設で、イタリアの財政負荷軽減の思惑からイタリア国債が買われ、独伊の債券利回りスプレッドが縮小したこともユーロ買いの材料とされた。
だが、ユーロ圏諸国のパンデミック再拡大が顕在化していて一段の景気改善のハードルは高くなっている。輸出依存度の高いユーロ圏経済にとってユーロドルの急伸は重石になりかねない。
こうした中、市場ではECB高官によるユーロ高牽制や、
PEPP(ECBのパンデミック緊急債券購入プログラム)の拡大観測が燻り始めている。
独伊スプレッドは既にコロナショック前の水準まで戻しており、今後は教科書通りに「金融緩和=ユーロ安」に転じる可能性があるゆえ、結論としては、1ユーロ=1.22ドル以上のユーロ高を期待するべきではないと判断したい。
米国実質金利の推移
主要通貨の名目実効為替レート(各通貨について当該通貨と他通貨の間の為替レートを貿易ウェイトで加重平均して指数化したもので、各通貨の総合的な強弱を示す)で見た場合、円の実効レートは5月上旬をピークに下落しており、円高基調にはない。
際立っているのはドル安基調なのである(ユーロ、ポンド、オセアニア通貨高)。
もともと共に低リスク通貨とされる円とドルは他通貨に対して同方向に動くことが多く(つまり、実効レートが連動しやすく)、4月~6月にかけては金融市場がリスクオンに傾くなかで共に下落したことで、ドル円レートとしては動きが抑制されていた。
しかし、7月に入ると円の実効レートが横ばい圏で推移する一方でドル安が進んだ。とりわけ下旬には両者の乖離が顕著になったことでドル円も円高ドル安(7月30日=104円20銭)に傾くことになった。
この「ドル安」の主因として注目しなければならないのは
「米国実質金利」(名目金利1市場の予想物価上昇率)の低下である。
FRBによる大規模な金融緩和によって名目金利が過去最低圏に抑えられる一方で、市場の予想物価上昇率(ブレークイーブン・インフレ率=以下、BEIとする)が3月以降に大きく持ち直した(FRB・財務省による巨額の金融・財政政策出動で)ことで、米国の実質金利(10年物)はマイナス1%を超える水準にまで著しく低下している。
過去に米実質金利が低下していた2010年~12年にかけて大幅な円高ドル安(1ドル=75円台)が進行したように、実質金利の低下は本来通貨安要因に位置付けられる。しかし、米実質金利の低下は18年秋から続いているもので、特に最近始まったわけではない。
ところがコロナ禍が拡大し、3月を境に実質金利の低下幅が急拡大。そこで浮上してきたのがドルを売るための買い通貨=ユーロだった。
投機筋がユーロショートをロングに転じ、5月入りとともにユーロドルは下値の抵抗線を切り上げていった。この動きを読んだ市場参加者が多くの通貨に対しドル売りを強めていったのである。
言ってみれば、IMM(シカゴ)投機筋の「米実質金利低下によるドル安戦略」を市場は不可解に近いユーロドル高トレンドによって察知したということになる。
こうした流れの中で、7月半ば以降には市場の予想を下回る米経済指標の増加(例えば、シティGのエコノミック・サプライズ指数の低下)し、米国の景気回復が遅れるとの懸念が市場で台頭したことや、米中対立が先鋭化したことも
ドル売りの材料とみなされ、ドル安をサポートすることになった。
債務拡大、インフレを読むBEI
さて、米実質金利の低下であるが3月下旬以降はBEIの急上昇が実質金利の低下を促した物になっている。
BEI(10年物)はコロナ禍による景気悪化懸念を受けて3月下旬に0.5%台まで低下していたが、その後はほぼ一本調子で上昇し、足元では昨年末(1.8%台)と大差がない水準(1・6%台)に達している。
BEIには原油価格との連動性があるため、この間の原油価格の持ち直し(マイナス37ドル台→43ドル台。WTIベース)がBEI上昇の一因になっているとみられる。
メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。
全文を読みたい方は、イーグルフライ掲示板をご覧ください。