FRBパウエル議長は第2のボルカーか
大変身したFRB議長
FRBパウエル議長が「確信的タカ派」に転じたのは8月26日のジャクソンホール・シンポ(米カンザスシティ連銀主催の年1回の経済シンポジウム)での講演からだった。
現在、NYダウ平均株価が2万9千円台を割り込んでいる(ジャクソン講演前は3万3千ドル台)のも、ここから下げが始まったのである。
FRB議長は明らかに、2桁の高インフレを断ち切るため、容赦のない利上げで、1980年代初頭に深刻な不況を招いたポール・ボルカー元FRB議長の手法を引き合いに出した。
「インフレ退治のためならFRBはリセッション(景気後退)という代償も受け入れる」
米経済とFRBにとって1970年代以降でまれにみる大混乱が起きているさなか、この発言はパウエル氏の急旋回を浮き彫りにした。
わずか1年前には積極的な景気支援を唱えていた同氏は、今年に入り、1980年代初頭以来となる急ピッチでの利上げを主導している。
FRBは「最大雇用」と「物価安定」という二つの責務(マンデート)を担う。
過去20年はインフレ率が目標の2%台から大きく乖離することがほとんどなかったため、ほぼ一貫して完全雇用の目標に注力できた。
しかし足元ではインフレ率がボルカー体制以来の高水準となる8.3%(8月CPI)に跳ね上がっており、パウエル氏はボルカー氏と同様、インフレ抑制を第一にする必要があるとの結論に至ったのだろう。
たとえ短期的に雇用に深刻な打撃が及ぶことになってもだ。
2018年から今年1月まで副議長としてパウエル氏を支えてきたクラリダ氏も、「インフレが大きく鈍化するまで、FRBの責務は一つだ」と話す。
FRB当局者は表だって景気後退を予想することは避けているが、景気後退に陥ってもそれを許容する覚悟であることは明確にしている。
パウエル氏は質問されない限りは、景気後退を招くことなくインフレを抑制する「ソフトランディング(軟着陸)」のシナリオについて語ることをやめた。
むしろインフレ退治をFRBにとって「無条件の」義務だと位置づけ、FRBがここでインフレ抑制に失敗すれば雇用にさらに深刻な影響が及ぶと牽制している。
パウエル氏は今夏、議会で「この点で失敗は許されない」と明言した。
つまり、FRB当局者はハッキリとは言いたくないものの、失業率が上昇し、賃金の伸びが鈍化するまでは利上げを継続する構えだということだ。
これは昨年末までの戦略とはまさに対照的だと言える。
ウォラーFRB理事は9月、現在3.7%の失業率が5%程度に上昇しても許容できるとの考えをにじませた。
景気後退の期間を除いて、これほど失業率が悪化することは過去にない。
ウォラー理事は「失業率が5%未満で推移すれば、かなり積極的にインフレ退治に集中できるだろう」と述べている。
失策を続けたパウエル体制
しかし、金融市場は新しい「タカ派なFRB」をなかなか受け入れられずにいる。長年の行動と正反対の動きになるためだ。
FRBはこれまで経済や雇用市場に危険が迫っていると判断すれば、迅速に金融緩和に乗り出していた経緯がある。
だが、こうした緩和スタンスはインフレ率が2%の目標水準にあるか、それを下回っていた時代だからこそ許された行為だったというのである。
現に、新型コロナウィルスの流行が始まった最初の年(2020年春)、パウエル氏は確信的な政策を矢継ぎ早に打ち出し、経済と金融市場の崩壊を防いだ。
念頭にあったのは、2008年の世界的な金融危機に直面して一連の対応を主導したバーナンキ元FRB議長だ。
ほんの1年前の時点では、成長と雇用の低迷が長引いた金融危機後の二の舞いを避けることに大半のFRB当局者が注力していた。
インフレ率が昨年加速し始めた当初は、コロナ禍からの経済再開に伴い、中古車や航空券といった一握りの品目が全体を押し上げているかに思われた(筆者もその一人)。
だが、需要の本当の強さをFRBは見誤った。
政府の巨額の財政出動やFRBの低金利政策によって押し上げられた需要が、サプライチェーン(供給網)の目詰まりを悪化させていた。
当局者からは雇用回復にあまりに気をとられすぎて、インフレの高止まりが長引くリスクを軽視していたとの反省も聞かれる(サマーズ元財務長官ら少数の著名エコノミストは的確にインフレのさらなる上昇を指摘していたが)。
例えば、FRBは今の惨状に対して相当な責任を負う、金融政策は緩すぎる状態があまりに長く続いた。
住宅市場が活況となっていたにもかかわらず、長期金利を押し下げるためFRBが今年3月まで住宅ローン担保証券(MBS)の購入を続けていた。
「これは大きなミスで、あるまじき行為だった。」とアメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)で経済政策研究のトップを務めるストレイン氏。
今夏には確かに燃料コストが総合インフレ率こそ押し下げたものの、診察料、散髪代、クルマの修理代といったサービスの価格や住宅費は、労働市場が引き締まる中で上昇に歯止めがかかっていない。
高インフレがどれほど有害な環境をもたらすのか。
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(この記事は 2022年10月03日に書かれたものです)
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