ポンドはパリティ割れの可能性
9.23トラス・ショック
9月6日に発足した英保守党新政権(トラス新首相)が23日、大型減税策を発表。市場は財政悪化につながるとの読みから英国の通貨・債券・株が大幅に売られた。
ポンドは9月12日の直近高値1ポンド=1.16ドル台後半から9月27日には、1.035ドル台まで大きく売り込まれた。
英国が変動相場制度に移行したのは1971年6月であるが、その後のポンドの対ドルレートでの最安値は、1985年2月26日の1ポンド=1.042ドルである。
それをいとも簡単に突き破ったのは市場が「トラス新政権の信じ難き愚策」と、捉えたからである。
英国10年国債利回りも9月22日の3.495%から27日には4.552%と1%近く跳ね上がり、5年債利回りは一時、イタリアやギリシャの利回りをも上回った。
財務相が、今年度(22年4月~23年3月)の国債発行額を従来から724億ポンド増額して2341億ポンド(約37兆円)にすると発表したことも動揺を大きくした。
現在(9月30日)は10年債利回りも4.08%台まで戻り、ポンドも1.116ドルへとリバウンドしているが、少なくともポンド通貨は底を打ってはいないと見る。
決して拾わないことだ。今後、何があってもおかしくない。
トラス首相(党首)はもともと英国民の世論調査では不人気で、早くも29日のユーガブ世論調査で保守党支持率は21%まで低下。
最大野党・労働党の54%からは33ポイントも下回っている…
大減税と国債増発という愚策
財務相は9月23日、トラス新首相が党首選の公約で掲げた総額300億ポンドを上回る総額450億ポンドの大型減税を発表した。
ジョンソン政権時代に決めた来年春に法人税率(19%)を25%に引き上げ・今年4月の国民保険料の1.25%引き上げを撤回したほか、来年4月から所得税の基本税率を20%から19%に引き下げ、所得税の最高税率(45%)を廃止、初回の住宅購入者に対する不動産所得税(印紙税)の引き下げも決めた。
発表済みのエネルギー料金の凍結とともに、過去50年で最大規模の減税で物価高騰に苦しむ家計や企業を手厚く支援する。
財務相によれば、エネルギー料金の凍結は10月から来年3月までの6ヵ月間で、600億ポンドの財政悪化要因となり、うち310億ポンドが家計負担の軽減に、残りの290億ポンドが企業負担の軽減に充てられる。
企業向けのエネルギー料金凍結が6ヵ月間で打ち切られるのに対し、家計向けは2年間維持するため、ガスの卸売価格が現状程度で推移した場合、エネルギー料金凍結の財政負担は総額1530億ポンドに及ぶ、残りの減税などの経済政策は、初年度に200億ポンド、26/27年度に450億ポンドの財政負担を見込む。
これらはコロナ禍対応で英政府がこれまで費やした3700億ポンドには満たないが、GDP比で8.5%もの財政悪化要因となる。
今回の経済政策による財政負担の大きさは、予算責任局(OBR)が年内に報告書を公表する。
財務相は実質GDP成長率の中期的な目標を2.5%に設定し、減税と規制緩和による経済活性化を目指す。
ストライキを抑制する法律の制定、新たな経済特区の創設、銀行のボーナスキャップ廃止、金融業の規制緩和、2023年までに国内に残るEU規制を完全に廃止することなどを約束した。
2024年に予定されている総選挙に向けて、トラス首相はエネルギー料金凍結による家計負担軽減と経済の立て直しで、幅広い国民の支持を得ようとしている。
だが、所得税の最高税率引き下げや銀行ボーナスキャップ廃止などの政策は、金持ち優遇との批判を招くことは必至である。
財務相は政府債務の対GDP比率を中期的に引き下げる方針を示唆しているものの、事実上の財政規律棚上げを受け、財政悪化による国債増発が嫌気され、通貨の信任が問われざるを得ない。
尚、前日(9月22日)にBOEはMPC(金融政策委員会)で昨年12月以来、7会合連続での利上げ(50bp)を決定したが、コミュニケーションがうまくなかったのか、翌日発表となった、こうした驚愕の政府経済対策を織り込んでいなかった。
BOEが苦肉の策も…
市場が大パニックとなり、9月26日、BOEは「インフレ率を2%の目標に戻すため、必要に応じて金利を変更することをためらわない」とし、あわてて利上げ加速の臨時声明をするしかなかった。
こうした事態そのものが市場の新政権に対する不信感につながっている。
政府の方針と11月3日の次回BOEのMPCでの政策対応を約束するという、ちぐはぐな姿は英国としては極めて異様といえる。
市場心理の改善には、BOEによる緊急追加利上げに加えて、政府の財政運営方針の転換が必要との見方が広がっている。
国際通貨基金(IMF)は27日、英国政府に対して大型減税の見直しを求める異例の声明を発表した。だが、現段階(10月2日)で政府が方針転換に応じる様子は見られない。
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(この記事は 2022年10月02日に書かれたものです)
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