インバウンド消費には期待できない
入国者数2万人に増えてもまだコロナ前の4分の1
政府は6月1日から外国人の1日当たりの入国者数の上限を1万人から2万人に引き上げる水際対策の緩和を実施する。また、6月10日から外国人観光客の受け入れを再開する。
観光目的の入国については、感染リスクが低い国と地域から訪れる観光客に限定し、また当面、旅程を管理しやすい添乗員付きのパッケージ旅行に限定し、段階的に受け入れを再開していく方針が示された。
入国者数の上限である2万人の枠内で外国人観光客も受け入れていくことになる。観光庁によれば、コロナ前の2019年の訪日外国人旅行消費(インバウンド消費)は4.8兆円に上った。同年の旅行者数は年累計2,986万人(1日当たりに換算すると8.2万人)、1人当たり旅行支出は15.9万円だった。
それが、世界的な感染拡大に対応した水際対策の厳格化により、訪日外国人の入国が難しくなり、インバウンド消費は、2020年には7,446億円、21年には1,208億円とほぼゼロに減少した(図1参照)。
今回の外国人観光客受け入れ再開により、4.8兆円のインバウンド消費が復活するのではないかとの期待が盛り上がっているようだ。だが、実際には前途多難であることは言うまでもない。
まず、ゼロコロナ政策を続ける中国では、自宅からの外出がままならない地域もあり、日本への旅行など、とんでもないという話になる。コロナ前の外国人観光客のうち3割は中国からの旅行客だった。
また、ロシアによるウクライナ侵攻のため、とくに欧州~日本間のフライトは長時間かかるようになった。さらに原油高による燃料サーチャージもあって、航空運賃も高額化している。円安で日本への旅行は割安になっているとは言え、実際には訪日観光客が増加するとは考えにくい。
観光客が上限の2万人に達し、1人当たり旅行支出が19年当時の15.9万人だとすると、年率換算した外国人旅行消費額は1.2兆円になるが、それでも19年当時の4分の1にすぎない。
ちなみに、エネルギーや食糧などの輸入価格上昇による交易条件悪化のために、日本が被っている交易損失(国内所得の海外流出)は現在、年率約10兆円に上る。
仮に、インバウンド消費が19年当時の4.8兆円に回復したとしても、交易条件悪化の悪影響を打ち消すことはできない。
中国人観光客の「爆買い」は再現しない
かつては、インバウンド消費と言えば、中国人観光客の「爆買い」が注目され、それが国内景気を押し上げる要因とされた。
しかし、それも今は昔の話だ。2015年当時、中国人観光客1人当たり旅行支出は28.4万円と、19年の全観光客平均15.9万円の倍近かった。
しかも、28.4万円のうち57%に相当する16.2万円が「買い物代」として使われていた。しかし、19年になると、かなり様相が変わった。2019年の中国人観光客の1人当たり旅行支出は21.3万円に減少し、「買い物代」は10.9万円に減少した。
モノの輸出入取引ができるため、当然の成り行きだが、日本に来なければ買えない日本製品は少なくなってくる。「買い物」のためにわざわざ日本に来る外国人は少なくなるだろう。
爆買いの中国人と対照的な旅行のスタイルがフランスからの旅行客だ。19年のフランスからの観光客1人当たり旅行支出は23.7万円だが、うち買い物代は13%の3.1万円で、42%の10.0万円が宿泊代になっている。
宿泊代が多いのは平均宿泊数が長いためであり17.1泊だ。中国人の7.5泊に比べ、倍以上に長い。フランス人観光客は日本での滞在、宿泊を体験するために日本に来ているというわけだ。
我が国の観光業者が、こうした外国人観光客のニーズの変化に対応できているかどうかは疑問だ。
ピーク時の4分の1に相当する、1兆円強のインバウンド需要の回復はあっても不思議ではないが、ニーズに合わないサービス供給体制しかなければ、その回復さえもおぼつかない。
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2022/05/30の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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https://real-int.jp/articles/1597/
https://real-int.jp/articles/1601/