究極の広告とは?
子供のためのお金のリテラシー教育 お金について考えてみよう
ここでは「お金」にまつわる、いろいろなお話をします。一見バラバラのお話のように見えるかもしれません。しかし、話が進んでいくにつれて、ジグソーパズルのピースのように、一つの絵を形作るために、お互いに関連しあっていることがわかってくるでしょう。ここで読んだことが、既に自分の持っている知識と結びつくこともあれば、日常生活の中で、連載の内容と関連する出来事を見聞きして、納得することもあるでしょう。そういう時に、頭の中で知識のネットワークが強化されます。この連載を読んで、興味を持ったり、疑問に思ったりしたら、続きは、自分で調べてみましょう。
心理的リアクタンス
子供の頃、親から「宿題を早くやってしまいなさい」と言われて、やりたくなくなった、それで「今やろうと思っていたのに、言われたからやりたくなくなった」と言い返していたことはありませんか?
このような心の働きはどうして起きるのでしょうか?そして、それは広告とどう関係しているのでしょう?
人間は本来、何でも自分の自由意思で物事を決めて行動したい、という基本的な欲求を持っています。常に自由でありたいのです。ですから、それを制限されると苦痛を感じます。
すると、「制限されてしまった自由を回復したい」、という心理が働きます。
そして、「禁止された事をしたい」「強制されたことはやらない」という気持ちが起きたり、行動に移したりします。
このような心の働きのことを「心理的リアクタンス」と言います。
いつの時代であっても人間の心の働き方は基本的には同じですので、心理的リアクタンスについてはかなり昔から知られていたようです。
お話の中の例
かなり古い例では、紀元前に書かれた旧約聖書の中にこんなエピソードがあります。ソドムとゴモラという腐敗しきった町が神に滅ぼされた時、ロトとその家族は神に救われます。
ただ、ロトの妻はあらかじめ御使い(天使)たちから「逃げる途中は後ろを振り返ってはってはいけない」と言われていたのに振り返ってしまいました。
それで塩の柱になってしまいました(死海のほとりのソドム山にロトの妻の塩柱とされる岩が現存しています)
日本では、1300年以上前に書かれた「古事記」にこんなエピソードがあります。イザナギが黄泉の国(よみのくに)から妻イザナミをこの世に連れ戻す時のこと。
イザナミの姿を見ないと約束していたにもかかわらず、イザナギは見てしまったのです。
それで怒ったイザナミや黄泉の国の住人たちから追いかけられひたすら逃げることになったのです。
その他にも昔話や物語には、
浦島太郎(玉手箱を開けてはいけない)
鶴の恩返し(機を織っているところを見てはいけない)
王様の耳はロバの耳(秘密をしゃべってはいけない)
ロミオとジュリエット(敵の一族どうしの恋は禁じられた)
など多数の例があります。
商法への応用
このように、心理的リアクタンスは、人間の基本的な心の働きですので、商法にも応用されています。
ティーザー広告
新発売の商品の全体を見せるのではなく、少しずつ部分的に公開していく手法をティーザー広告と言います。
例えば、新しく発売になる車の広告。車全体の写真を載せるのではなく、始めはシルエットだけ、それから少し日をおいて次はヘッドライトの周りやテールランプの周りだけ、そして次は内装を。というように車の一部を少しずつ見せていきます。
顧客は新しい車の全体を見たいのですがそれが禁止されている状態になります。そこで心理的リアクタンスが働き、ますます早く見たいと思うようになるわけです。
新作ゲームの広告にも使われる手法です。
映画の予告編もこれに当てはまるでしょう。
数の制限
「残りあとわずか」「残りあと50個」などと個数を制限する販売方法です。その商品を買いたいと思っている顧客は「自分の好きな個数だけ買いたい」「あとで好きな時に買いたい」という自由が制限されます。そこから自由を回復するためには買うという行動を取るしかないわけです。
時間の制限
「本日限り」「あと1時間」「タイムセール実施中」などと、販売する時間を制限する方法です。顧客は「あとでゆっくり考えて買うか買わないか決めたい」という自由が制限された状態になります。元々買いたいと思っていたものであれば、買うという行動を起こしやすくなります。
テレビのCMの入れ方
クイズ番組などの途中で、正解を見せる直前にCMを入れることにより、視聴者が「正解を見る」という自由を制限します。それで視聴者がますます続きが見たくなるという手法です。「無料で利用できるは本当に無料なのか?」のお話の時に書いたように、テレビ局が一番見てもらいたいものは番組ではなく、スポンサーのCMなので、CMを見てもらうための手法です。
逆効果になる場合もある
心理的リアクタンスには「強制されればされるほど、やりたくなくなる、反発したくなる」という心理です。なので、上記のような商法に対して、顧客によっては反発する人も出てきます。それは、「早く買え、今すぐ買え」と、買うことを強制されているように感じてしまった場合です。
「宿題をやろうと思っていたのに、やれ!やれ!といわれたからやる気がなくなった」と同様で、顧客がせっかく買おうと思っていたのに、買うことを強制された感じがしたから、「もう買わない!」と思ってしまう場合があります。
先のクイズ番組のCMの入れ方も同様です。やり過ぎると視聴者の反発を招くことになります。以前、ある司会者が、正解か不正解かの判定を出す前に「タメ」を作り過ぎ、判定を言うのかと思ったらCMを入れる手法を多用して、批判を浴びたことがありました。
逆効果を乗り越えるために
前述したように、心理的リアクタンスを利用して顧客を買う気にさせる方法は、顧客がたまたま前から買いたいと思っていた物であれば、買うという行動に結びつきやすくなります。
その一方で、今すぐに買いたいとまでは思っていなかった場合には、買うことを強制されているような気になって、購買意欲が落ちてしまう場合があります。
そこで販売者は、何らかのサービスを追加することにより、顧客の購買意欲を後押ししようとします。
今日中に買うと特別価格になる。今から1時間以内に注文すると同じ商品が一つ無料でついてくる。今月中に買うと抽選で100名様にキャッシュバックがある。等です。
顧客はこれらの条件を考えて、今すぐ買うほうが良いのか、今回はそこまで必要としていないので、また後日でもいいやと見送るかを判断することになります。
究極の広告とは?
さて、いよいよ今回のお話のタイトルについて考える時がきました。
★お客さんの購買意欲を高める究極の広告とは、どんなものになるでしょうか?
ここまで読んでこられた読者さんにはもうお分かりでしょう。
そうです!
「この商品を買わないでください」
「この商品を買ってはいけません」
「この商品は売りません」
になりますよね(笑)
上手に利用する
今回は、心理的リアクタンスという人間の心理があるということ。それを利用した商法があるという話をしました。
そういう商法を見た時に、自分の心の中に、急いで買わなければという気持ちが起きることもあれば、逆に強制されているようで反発する気持ちが起きることもあるでしょう。それが心理的リアクタンスです。
人間の心理はそういうものであると知った上で、冷静に買うか買わないかを判断していきたいものですね。
いつか買おうと、お得な機会を待っていたのであれば、上手に利用するのも良いと思います。
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