中国GDP統計をプラスに押し上げた要因とは?
4~6月の成長率はプラス3.2%と予想以上の高成長になったが・・・
4~6月の中国の実質GDPは前年同期比プラス3.2%と1~3月の同マイナス6.8%からプラスに転じた。ブルームバーグ集計による事前予想はプラス2.4%で、これを上回った。
季節調整済み前期比でみるとプラス11.5%となり、1~3月のマイナス10.0%からプラスに転じた。
中国では新型コロナウイルスの感染が3月中旬までにほとんど抑制され、経済活動は月別にみると2月を底に上向いている。
今回のGDPの数字だけをみると、4月以降も景気回復は続き、4~6月の中国経済は予想以上のV字回復を遂げたようにみえる。
解説の多くは、コロナショックに対応した景気対策として政府主導で公共投資、インフラ投資、不動産開発投資が進められ、製造業の生産が増加し、それがGDPを押し上げたと言われる。ただ、関連統計を合わせてみると、必ずしもこうした解説は当たっていない。
中国の場合、速報段階でGDPの需要項目別内訳が発表されないため、内需が経済を牽引したのか、それとも外需が牽引したのか、内需であれば消費なのか、投資なのかといった点がはっきりしないが、関連統計により消費、投資、純輸出に分けて、内訳を推定することできる。
消費はマイナス、投資と輸出はゼロ成長で、牽引役は不在
まず、消費はどうか。
小売売上高(名目)は1~3月に前年同期比19.0%減少したあと、4月7.5%減、5月2.8%減、6月1.8%減と減少幅が縮小した。衣料品の減少が続いているが、ここへきて通信機器、日用品、家電、化粧品などの売上が増えている。
4~6月累計の小売売上高は前年同期比3.8%減少した。この小売売上高の動きを個人消費の動きとみると、個人消費は1~3月のマイナス19.0%から4~6月にマイナス3.8%と、確かにマイナス幅は縮小しているが、なお水面下の状態であることも間違いなく、個人消費が中国経済を牽引しているとは言いにくい。
次に、投資はどうか。
固定資産投資(民間設備投資と公共・インフラ投資を合計したもの)の動きをみると、1~3月に前年同期比16.1%減少した後、1~4月が同10.3%減、1~5月が同6.3%減、1~6月が同3.1%減と小売売上高統計同様、減少幅が縮小している。
固定資産投資統計は年初から当月までの累計数字が発表されるが、月次の数値そのものは発表されないため、差額で月次統計を推計する(例えば、6月の数字であれば1~6月の数字から1~5月の数字を差し引いて計算)しかないが、差額により推計した月次統計は4月が前年比2.2%減、5月が同0.9%増、6月が同1.1%増とわずかにプラス転換している様子が窺われる。
4~6月合計の固定資産投資は前年同期比0.1%増
この固定資産投資の動きを設備投資と公共・インフラ投資を合計した投資の動きとみると、投資は1~3月のマイナス16.1%から4~6月にプラス0.1%と、確かにプラス転換を果たしたが、とは言っても、ほとんどゼロに近い数字であり、投資が4~6月の中国経済をプラスに押し上げたという解説も当たっていない。
ちなみに、1~6月の固定資産投資の中身をみると、製造業が前年比11.7%減と二桁減少が続いている半面、電力・ガス・水道などへの投資は同18.2%増加しており、おそらくは民間設備投資はなお低調だが、地方政府などが主導しているインフラ投資がそれをカバーしている姿が窺われる。
輸入減少と在庫増加が実質GDPをプラスに押し上げた可能性
消費がなおマイナス、投資がほとんどゼロということであれば、GDPをプラス域に押し上げたのはいったい何か。
1つは、純輸出だ。といっても、輸出が増加したわけではなく、輸入が減少したことが純輸出を押し上げたというのが正解だ。
通関貿易統計で輸出金額(名目ドルベース)の動きをみると、1~3月に前年同期比13.3%減少した後、4月同3.4%増、5月同3.3%減、6月同0.5%増となり、4~6月合計では同0.2%増とほぼ前年並みに回復した。
一方、輸入金額(名目ドルベース)は、1~3月に1~3月に前年同期比2.9%減少した後、4月同14.2%減、5月同16.7%減、6月同2.7%増となったが、4~6月合計では4、5月の大幅な落ち込みが大きく影響し、同9.7%減と前年水準を大きく割り込んだ。
結果として、1~3月は輸出の落ち込みによって、貿易黒字は131億ドル(前年1~3月は728億ドル)と縮小していたが、4~6月になると一転して輸入の落ち込みにより、紡機黒字は1,547億ドル(前年4~6月は1,039億ドル)と急拡大した。
4~6月は輸入の減少による純輸出(貿易黒字)の拡大がGDPの押し上げに寄与したことは明らかだ。
もし、景気が本当に好調なら、国内需要の増加が輸入を増加させていたはずだ。しかし、中国の4~6月の輸入が減少しているということは、景気回復がまだ本物とは言いにくいということになる。
GDPをプラスに押し上げたもう1つの要因は、おそらく在庫だったのではないか。
鉱工業生産は1~3月に前年同期比8.4%減と落ち込んだが、4月同3.9%増、5月4.4%増、6月4.8%増と増加した。4~6月を均した場合、前年比4.0~4.5%程度の増加になったと考えられる。
19年の鉱工業生産増加率は前年比5.7%増だった。4~6月の鉱工業生産増加率はコロナショック前には少し及ばないが、その数値がかなり近づいていると考えられる。
ただ、消費、投資、輸出といった最終需要の動きをみた場合、消費がなお前年割れで、投資と輸出がほぼ前年並みという状況のなかで、生産活動だけを増やせば、生産して売れない分は在庫になる。
しかも、この在庫は将来売れることを見越して増やしたものではなく、生産したけれども売れずに残ってしまった「予期せぬ在庫」あるいは「過剰在庫」である可能性が高い。
もし、本当の意味で製造業の生産活動が盛り上がっているのであれば、製造業の景況感も良くなっているはずだが、製造業PMI(国家統計局発表)をみると、2月に35.7と低下した後、3月に52.0と上昇したが、その後は4月50.8、5月50.6、6月50.9と景気判断の分かれ目である50をわずかに上回っているにとどまっている。
この数字は、製造業の景況感が2月に急落し、その後3月に幾分上向いたが、4月以降はほとんど低迷したままの状態であることを示している。
おそらくは政治的な掛け声などから、多くの製造業が生産を増やしているが、生産しても売れ行きが悪く、売れ残り在庫が増えているために、景況感の改善が進まないという状態にあるのではないか。
上海株価指数は7月に入り急上昇し、7月9日3,450ポイント、同13日に3,443ポイントと上昇したが、今回のGDPが発表された16日に急落し、その後も上値は重い。
中国の内需の動きとの相関がみられるバルチック指数も7月8日以降、軟調に推移している。
今回の中国のGDP統計では、確かに数字は予想以上に高いものだったが、景気の好調を示すものとは言いにくい。